2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒトゲノム由来の染色体外因子・・その基礎的理解から、革新的細胞工学技術へ
Project/Area Number |
16K08144
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
清水 典明 広島大学, 生物圏科学研究科, 教授 (10216096)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 染色体外因子 / 遺伝子増幅 / Double Minutes / 細胞工学 / 染色体工学 / 組み換え蛋白質生産 / エピソーム / gene silencing |
Outline of Annual Research Achievements |
【A】ヒトゲノム由来の染色体外因子であるDMに関する基礎的理解を深めた。特に、染色体外因子の特殊性を、ヒストン修飾に関して明確にすることができた。すなわち、DMは、同じ配列からなる染色体腕のHSRとは転写・複製・修復・組み換えにおいて大きく異なることを我々は以前の研究で示してきた。今回、この問題の基盤となる分子構造を明確にするために、クロマチン免疫沈降法と、DNAメチル化の双方を調べて、DMとHSRを比較した。その結果、極めて興味深い成果が上がったため、PlosONE誌にに公表した。また、DMはDNA2本鎖切断に伴って凝集することが過去の我々の実験から示唆されていた。今回、この点を明確にするために、配列特異的な切断をCRISPR-Cas9を用いて誘導することで検討した。その結果、そのような切断によって短期間で効率よくDMは凝集し、さらにそれが排出されることが示された。これは、極めて興味深い実験系が樹立されたことを意味する。【B】DMに関する理解とDMを介する遺伝子増幅系を応用する研究に進展が見られた。すなわち、人工染色体上で目的遺伝子を増幅させる実験系の樹立を目指し、CRISPR-Cas9を用いてIR/MARプラスミドを人工染色体に効率よく組み込む手法が樹立された。さらに、IR/MARプラスミドにより増幅させた遺伝子は、発現抑制を受けやすいという大きな問題があったが、その問題解決に前進が見られた。すなわち、細胞内で反復配列となったときにrepeat-induced gene silencingにより発現抑制を受ける配列と、逆に発現が高まる配列があることを見出した。これは真核細胞に特有の配列であることが示唆されたが、CpG密度とは関係なかった。これらの発見の応用を今後検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた重要な項目の複数について、大きな進展が見られた。すなわち、染色体外因子の基礎的理解に関して重要な進展があったとともに、その応用面でも着実な進展があった。さらに、派生した重要な問題である「反復配列による発現抑制」の問題について、重大な発見があった。これらの点は、基礎研究・応用研究、双方に大きな派生効果を持つ成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)2本鎖切断によるDMの動態と排出、遺伝子発現の変化を、CRISPR-Cas9を用いた配列特異的な切断により詳細に検討する。そのような検討は、細胞をPFA固定してFISH解析を行うことにより行う。また我々は独自技術により、生細胞内で多数のDMをGFP蛍光により可視化した細胞を樹立しているので、そのような細胞を用いて生細胞での検討を行う。さらに遺伝子発現に関しては、多数のDM全てにd2EGFP遺伝子が増幅している細胞株が樹立してあるので、そのような細胞を用いて行う。さらに、DMの細胞内動態に関与すると考えられる遺伝子について、CRISPR-Cas9を用いてノックダウンすることの影響を検討する。(2)人工染色体上で目的遺伝子を効率よく増幅させることで、人工染色体からの遺伝子発現を高めることを目指した研究を行う。すなわち、IR/MARプラスミドを、CRISPR-Cas9を用いて人工染色体に組み込み、そのような細胞をクローニングして遺伝子発現を検討する。さらに、人工染色体内でBFBサイクルを誘導することにより目的遺伝子を増幅させることを試みる。このような研究は、人工染色体技術を向上させるとともに、染色体や染色体外因子の基礎的理解を深めることができる。(3)原核ゲノムに由来する配列を一切用いないで、哺乳動物細胞内で遺伝子増幅させることを試みる。これまでの研究から、そのような配列が反復配列となっても、発現が抑制されることはなく、逆に高まることが示唆されている。そのような成果は、高等動物ゲノムを考える重要で新規な発見になることが期待されるとともに、組み換え蛋白質発現系に応用できる。
|
Causes of Carryover |
2016年度の実験には、消耗品として高額のものが必要とされなかった。また、設備・備品類では既存のもので充分であり、新たな購入・修理、等が必要でなかった。一方、2017年度以降の実験には、高額の消耗品が必要である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
細胞培養に必要な培地と高額な牛胎児血清(FCS)、細胞の解析に必要で高額な抗体類、分子生物学実験に必要で高額な酵素類、等々に使用する。また、成果を発表するための論文掲載料や、旅費、等にも使用する。
|