2017 Fiscal Year Research-status Report
MALDI機構解明を指向した多孔性錯体包摂分子のレーザ-脱離イオン化質量分析
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16K08214
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Research Institution | Tokushima Bunri University |
Principal Investigator |
山口 健太郎 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (50159208)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 質量分析 / レーザー脱離イオン化 / 結晶スポンジ / 大環状化合物 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに結晶性を有する細孔性錯体である結晶スポンジにstilbene誘導体(ゲスト)を取り込みレーザー脱離イオン化によってゲストの分子イオンピークを検出できることを見出した.これを結晶スポンジレーザー脱離イオン化質量分析(CS Laser Desorption Ionization Mass Spectrometry: CS-LDI-MS)法と呼ぶ.一方,CS内へ取り込まれる分子として電子豊富な多環芳香族や共役化合物が知られている.そこで,当該年度において,これらのゲストの特徴を取り除き単環式および二重結合数の少ない化合物が取り込まれるかどうか,さらにそれらのイオン化検出についてCS-LDI-MSで検討した. 結晶スポンジをZnCl2 methanol溶液(0.03 mmol, 1 mL)とTPT chloroform溶液(0.02 mmol, 5 mL)の液液拡散法にて得た.その後,結晶をcyclohexane溶媒へ浸すことで細孔内溶媒分子をchloroformからcyclohexaneへ置換した.それらの結晶に種々の環状化合物(1,2,3,4,5-pentamethylcyclopentadiene(以下Cp*H), zerumbone, muscone) cyclohexane溶液1.0 mLへ加えて,一週間静置した後,単結晶X線構造解析およびレーザー脱離イオン化質量分析を行った. 単結晶X線構造解析からCp*HではCS骨格TPTとのπ-π相互作用が確認できた.一方,zerumbone, musconeは,CS内へ取り込まれていることを確認したが,CS骨格TPTとの相互作用は見られなかった.包接結晶のLDI-MSから骨格分子TPTのプロトン付加体イオンピークが全てにおいて観測されたが,分析種の分子イオンピークはCp*H包接結晶でのみ観測された.このことから,大環状化合物ではレーザーエネルギーをゲストが伝えるための機構がないと考えらえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究に用いた大環状化合物が結晶スポンジに取り込まれ,立体構造を明らかにできた.さらにゲスト分子内の配置も決定できた.しかし同結晶のレーザー脱離イオン化による質量分析は達成できなかった.これは照射されるレーザーエネルギーをホスト分子フレームが一旦吸収し,ゲスト分子に伝えることができなかったからと考えられる.このことはネガティブであるが,イオン化機構を考察する上で重要な実験結果である.今後エネルギー伝達機構が機能するゲスト分子について同様の実験を行い差異について検討する必要がある.このことを踏まえ,ゲスト分子として電子豊富な1,3-benzodioxole骨格を持つ化合物の取り込みを検討している.この探査実験において結晶スポンジ取り込みと質量分析の可能性についてある程度良好な結果を得ている.そこで当該骨格を持つ生理活性分子をゲストとした複合構造解析を試みる計画である.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方としては,1,3-benzodioxole骨格を持つ化合物であるドパミン作動薬として海外ではPD治療に用いられているPiribedilを選定し,結晶スポンジへの取り込みと構造解析を主軸に展開したいと考える.実際,ヨウ化亜鉛とTPTのニトロベンゼン/メタノール溶液を液液拡散することにより結晶スポンジを合成し,cyclohexane 1mlで溶媒を交換し、そこへ、ゲストPiribedilの10 mMシクロヘキサン溶液を加え1週間静置することによりゲストを内包した結晶スポンジの良質な単結晶を得ルことに成功した.今後,同結晶の精密X線解析を進める予定である.また,同時に,レーザー脱離イオン化質量分析を行いイメージング法を用いて結晶のどの部分でイオン化が進行しているかを確かめる.さらに本CSI-LDI-MSと従来のイオン化法である電子イオン化(EI)との比較を行うことにより本手法の実用性を探るとともに,MALDI法におけるイオン化機構を精査する.本手法,すなわちCS-LDI MSを用いて、X線解析と共にLDIによる分子イオンの検出を行うことにより分子の骨格の情報が得られる点を活かし、他の1,3-benzodioxole骨格についてもより詳細な検討を行う必要がある.最終的に,未知化合物の構造決定を前情報なしに達成できる解析システムを構築したい.
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Causes of Carryover |
当該年度に実施を予定した1,3-benzodioxole骨格を持つ種々の生理活性物質のCS-LDI-MS解析が計画通り進まなかったことにより,最終年度である次年度に実施するために支出する.関連物質を広範囲にわたり収集し,本研究をまとめて行くために必要となる経費となる.
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