2017 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子改変マウスを用いた極長鎖脂肪酸の新規機能に関する研究
Project/Area Number |
16K08220
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
佐々 貴之 北海道大学, 薬学研究院, 准教授 (20342793)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ドライアイ / 脂質 / 極長鎖脂肪酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
脂肪酸の多くは炭素数16や18の長鎖脂肪酸であるが,一部は小胞体において脂肪酸伸長酵素により伸長され,炭素数が20より長い極長鎖脂肪酸に変換される。近年,極長鎖脂肪酸の合成に関与する酵素の遺伝子変異が様々な疾患で見つかっており,極長鎖脂肪酸は長鎖脂肪酸では代替できない機能を持つことが明らかになりつつある。本研究では,これまでに脂肪酸伸長酵素ELOVL1のノックアウト(KO)マウスがドライアイ症状を示すことを明らかにした。今年度はELOVL1 KOマウスの解析をさらに進め,涙液に含まれる極長鎖脂質の機能と生合成経路の解明に取り組んだ。 涙液の脂質は眼瞼のマイボーム腺から分泌され,おもにコレステロールエステルとワックスエステルから成る。これらの脂質は飽和あるいは一価不飽和の極長鎖脂肪酸・アルコールを豊富に含む。ELOVL1 KOマウスのマイボーム腺の脂質を分析した結果,飽和の脂肪酸・アルコールの長さが顕著に短くなっていた。一方,一価不飽和の脂肪酸・アルコールの長さは一部減少したものの,飽和のものほどではなかった。この違いが生じる理由を明らかにするため,一価不飽和脂肪酸を基質として脂肪酸伸長活性を測定した結果,ELOVL3,ELOVL4,ELOVL7が一価不飽和脂肪酸に対して有意な活性を示すことを明らかとした。ELOVL3とELOVL4はマイボーム腺で高発現しており,ELOVL1と重複して一価不飽和脂肪酸の伸長に関与することが示唆された。 ELOVL1 KOマウスは生後5ヶ月齢以降,角膜混濁を示した。角膜で顕著な炎症マーカーの誘導は見られなかったが,角膜マーカーであるKRT12の発現が減少し,代わりに表皮マーカーのKRT1,KRT10,LORの発現が増加していたことから,涙液脂質の機能低下が角膜の慢性的な乾燥につながり,角膜の表皮化を引き起こしたことが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,極長鎖脂肪酸が涙液の構成成分として眼の乾燥を抑え,ドライアイを防止するという新規機能を持つことを明らかにし,この点については当初の計画以上の進展が得られた。一方,ELOVL1 KOマウス由来線維芽細胞を用いた解析により,エクソソーム形成・分泌への関与については,極長鎖脂肪酸の関与を明らかにできなかったことから,総合的におおむね順調な進展とした。
|
Strategy for Future Research Activity |
極長鎖脂肪酸を含む涙液脂質の生合成経路の解明に注力する。 ワックスエステル合成酵素およびコレステロールエステル合成酵素にはそれぞれ2つのアイソザイムが存在することから,それぞれの酵素のマイボーム腺における発現および脂肪酸の長さに対する基質特異性を明らかにする。重要性が示唆された酵素についてはノックアウトマウスを入手または作製し,その役割を明らかにする。涙液のワックスエステルおよびコレステロールエステルには分枝鎖脂肪酸が含まれるが,分枝部分が分枝鎖アミノ酸に由来することは知られているものの,その生合成経路は不明であり,これを明らかにする。
|
Causes of Carryover |
一部の試薬が計画よりも少量で済んだため,次年度使用額が生じた。次年度の研究計画に沿って使用する。
|
Research Products
(8 results)