2017 Fiscal Year Research-status Report
細胞極性に応じた局在オートファゴソームの形成と機能解析
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16K08226
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
矢野 環 東北大学, 薬学研究科, 准教授 (50396446)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オートファジー / 細胞極性 / シグナルプラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
腸管上皮組織は経口摂取された病原体や化学物質による損傷に対する物理的バリアとして重要であり、その恒常性維持の破綻は炎症性疾患の原因となる。これまでに我々は、腸管上皮細胞におけるオートファジー不全がRef(2)P/p62タンパク質凝集体蓄積を介して組織恒常性の破綻をおこすことを示してきた。本研究では、腸内細菌に対して上皮細胞が産生する活性酸素種(ROS)に応じて形成されるオートファゴソームが、上皮細胞内の極性に従い形成される分子機構を解明することを目的とする。そのため、腸内細菌叢の操作が容易、かつ腸管上皮細胞の遺伝学的、組織学的検討法が確立されているショウジョウバエをモデル生物として用い、細胞極性に応じて局在する選択的オートファゴソーム形成の分子機構を、ROS刺激の受容、オートファゴソーム形成に必要な因子群の極性輸送の両面から検討する。 平成29年度は、平成28年度に得た結果である腸管上皮組織特異的オートファジー不全個体の示すROS感受性を消失させるような遺伝子変異を同定するゲノム網羅的探索を行い、ショウジョウバエ常染色体の98%以上を網羅するスクリーニングを完了、54の候補染色体領域を同定するに至った。さらに、組織学的手法による検討を行い、オートファジー不全腸管上皮細胞に生じるRef(2)P/p62シグナルプラットフォームが上皮3細胞接着部位 (tricellular junction) の近隣に局在していることを明らかにした。この局在の分子機構解明のため、現在行っているH2O2をROSとして用いるスクリーニングに加え、ミトコンドリア損傷を介したROSを生じさせる薬剤であるパラコートを用いたスクリーニングを開始し、両者から得られる遺伝子群を比較することで、局在オートファゴソーム形成に関与する遺伝子群の絞り込みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、腸管上皮細胞に形成されているRef(2)P/p62複合体の局在機構の検討、および、腸内細菌がもたらす刺激により形成するシグナルscaffoldとしてのRef(2)P複合体形成機構の2項目を目的としている。昨年度は、シグナルscaffoldとしてのRef(2)P/p62複合体形成における上皮細胞接着とそれを検知するカドへリン様因子Fatの重要性を明らかにした。本年度は、Ref(2)P/p62シグナルプラットフォームの細胞内局在部位について、さらに詳細な検討を行った。腸管上皮3細胞接着部位(tricellular junctions, TCJs)の欠落は、上皮のバリア機能の低下をもたらすと共に損傷応答としての幹細胞分裂の亢進を誘発する。また、加齢腸管においてはTCJsの消失がおきる。我々は、腸管上皮細胞においてRef(2)P/p62がTCJ付近にシグナルプラットフォームとなり得るDachsとの複合体を形成すること、また、Ref(2)P-Dachsの下流で活性化する転写因子Ykiの発現抑制により損傷応答を停止させたオートファジー不全上皮細胞では、Ref(2)P/p62プラットフォームが蓄積することを明らかにした。さらに、ゲノム網羅的探索により同定したDachs-Ref(2)Pを介した損傷応答に関与する遺伝子群には、細胞内膜輸送に関与する遺伝子が含まれており、現在これらのRef(2)Pシグナルプラットフォーム局在に対する関与とその分子機構の解析に着手している。したがって、この項目に関しては計画以上の進展を得ることができた。また、今回行ったスクリーニングの他に、ミトコンドリア損傷を介した内在性ROSを生じさせる薬剤を用いたスクリーニングを開始した。これらによりシグナルscaffoldとしてのRef(2)P複合体形成に関与する因子の同定が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の項目1については、計画通りの進捗となっている。そのため、計画に準じた推進を行っていく。具体的には、ゲノム網羅的スクリーニングの結果を参考にし、局在したオートファゴソームの形成に必要な細胞極性因子と膜輸送関連因子の決定とその機能解析を推進する。特に、今年度の進捗であるTCJ近傍への輸送に着目し、遺伝学的、免疫組織学的手法を用いて、その分子機構を解析する。 項目2については、計画以上の進捗を得ている。計画にあるスクリーニングとして、腸管特異的オートファジー不全個体の活性酸素種(ROS)による個体死を指標としたスクリーニングを本年度に引き続き行う。また、活性酸素種源として、H2O2とパラコートの2種でそれぞれ網羅的スクリーニングを行い、細胞の外部から作用するROSと、細胞内のミトコンドリアで生じるROSへの耐性にオートファジーが以下に寄与するかを解析する。この比較により、組織傷害の原因となる現象と、その結果として起きる現象に関与する因子をスクリーニングの段階でクラス分けが可能になり、それらの結果を基にして、細胞外から作用するROSがRef(2)P/p62シグナルプラットフォームを形成する分子機構の解明をめざす。 本年度までに解明した腸管上皮組織特異的オートファジー不全のもたらす腸管恒常性破綻についての知見を速やかに投稿論文として発表するとともに、以上の研究で得られる成果を学会発表や投稿論文として発表する。
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Causes of Carryover |
生じた次年度使用額は784円と全体の0.1%以下であるが、端数として余剰であったので次年度使用にする。次年度経費と合わせて、本研究計画で最も重要であるゲノム網羅的探索、およびその結果に基づく組織学的検討に必要なショウジョウバエの飼育費、ショウジョウバエ変異体の入手に要する通信費、組織学的検討に要する試薬、プラスチック機器類、ショウジョウバエの麻酔剤等のための物品費、成果発表のための旅費、論文投稿費に使用する。
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Research Products
(6 results)