2017 Fiscal Year Research-status Report
膜輸送体OCTN1による神経細胞内制御機構解明と精神・神経疾患バイオマーカー探索
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16K08266
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
中道 範隆 金沢大学, 薬学系, 准教授 (10401895)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 脳・神経 / 脳神経疾患 / 神経科学 / 薬理学 / 輸送担体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、カルニチン/有機カチオントランスポーターOCTN1が脳において機能的に発現しており、神経細胞の分化や成熟に関与することを明らかとし、OCTN1の良好な生体内基質ergothioneine(ERGO)が抗うつ作用を有する可能性を示した。本研究では、OCTN1を介したERGOの脳内分布がどのような作用機序で抗うつ効果を発揮するのかを、ERGOの神経分化やシナプス形成制御メカニズムの解析から明らかにする。さらに、ストレスによるOCTN1の腎尿細管上皮細胞における発現変動に着目し、ERGOがストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性について検討を加える。マウス海馬由来初代培養神経細胞を用いてOCTN1による神経成熟促進の細胞内メカニズムについて検討したところ、OCTN1を介したERGOの細胞内への取り込みは神経栄養因子NT3, NT5の誘導およびmTORやTrkシグナルの活性化を介して神経成熟を促進することが示された。マウスにERGOを経口摂取させたところ、培養細胞で明らかとなった細胞内メカニズムと同様のメカニズムで神経分化および神経成熟が促進されることが示された。一方、うつ病患者検体を用いた検討により、うつ病患者において、うつ症状の重症度と血中ERGO濃度の間に正の相関傾向が示された。今後はストレス負荷マウスにおいて、腎臓におけるOCTN1発現が増加し、血中ERGO濃度が増加することおよびERGOクリアランスが変動するのかについて検討を加える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、OCTN1を介したERGOの脳内分布がどのような作用機序で抗うつ効果を発揮するのかを、ERGOの神経分化や神経成熟制御メカニズムの解析から明らかにすることを目的として行っている。本年度は、培養細胞を使用してOCTN1による神経成熟促進の細胞内メカニズムを明らかにした。さらに、in vivoにおいてもin vitroで得られた結果と同様の細胞内メカニズムを介して神経新生および神経成熟が促進されることも明らかとした。一方、本研究は、ストレスによるOCTN1の腎尿細管上皮細胞における発現変動に着目し、ERGOがストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性を明らかにすることも目的としている。本年度はうつ病患者検体を用いた検討により、うつ病患者において、うつ症状の重症度と血中ERGO濃度の間に正の相関傾向があることを見出した。本年度はOCTN1による神経分化・成熟の細胞内制御メカニズムの解明が大いに進んだので、次年度はERGOがストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性の解明を中心に検討を行う。以上はおおむね予定通りの進行であり、本研究計画の現在までの達成度は「おおむね順調に進展している。」と考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
【ストレス負荷マウスにおける腎膜輸送体の発現変動解析】24時間ごとに程度の異なるマイルドなストレスをマウスに負荷する。マウスにおいてストレス応答性に分泌されるコルチコステロンの血中および血漿中濃度を経時的に測定する。ストレス負荷終了後、腎臓を摘出し、定量PCR法、Western blot法を用いた解析により、発現変動する膜輸送体の種類を同定する。 【ストレス負荷マウスにおける血中・血漿中ERGO濃度の測定】ストレス負荷マウスにおいて、血中および尿中ERGO濃度を測定して血中/尿中ERGO濃度比を算出し、同濃度比が食事の影響による血中ERGO濃度のバラツキを補正したストレス負荷の指標となる可能性について検討する。一方、ストレス負荷終了後に、強制水泳試験あるいは尾懸垂試験を行い、無動時間の延長を指標に抑うつ傾向についても検討する。以上の解析により、ストレス負荷によって抑うつ傾向を示すマウスにおいて、コルチコステロン(ヒトではコルチゾール)が分泌され、腎尿細管上皮細胞OCTN1の発現増加に伴い、血中あるいは血漿中ERGO濃度が増加するとの仮説の実証を試みる。 【うつ症状と血中・血漿中ERGO濃度の相関解析】うつ病患者血中および血漿中ERGO濃度をLC/MS/MSによって定量する。また、ERGOは哺乳動物では生合成経路がないため、食事から摂取される。そのため、食事により血中・血漿中濃度が変動する可能性がある。そこでこの問題を解決するため、ERGOの代謝クリアランス変化がストレス性精神・神経疾患のバイオマーカーとなる可能性についても検討を加える。コルチゾールよりも優れた指標であることを実証するため、コルチゾールの測定も行う。ベックの抑うつ評価尺度をうつ症状重症度の指標とし、血中・血漿中ERGO濃度との相関関係について解析する。
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Research Products
(23 results)