2017 Fiscal Year Research-status Report
院内蔓延状況から急務となる市中感染型MRSAに対する効果的なリスク評価と対策
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16K08358
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Research Institution | Shujitsu University |
Principal Investigator |
塩田 澄子 就実大学, 薬学部, 教授 (00368698)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 院内感染対策 / CA-MRSA / HA-MRSA / バイオフィルム |
Outline of Annual Research Achievements |
津山中央病院で2期に分けて行ったメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の詳細な解析の結果、1期と2期では院内で見出される市中感染型MRSA(CA-MRSA)の型が大きく変わっていることが見出された。すなわち1期で多く見られたPOT型106-9-2の分離率が減少したのに対し、1期では確認されていなかった新しいPOT型のCA-MRSAが複数株検出された。これらは市中から新たに入ってきた株が院内感染を起こしたと思われるものあれば、別々に外来から入ってきたものもあった。その中でどちらにも相当する株が見られた。これは皮膚科領域で3株見つかったPOT型73-12-12という、SccmecV型の株であった。これまで見出されたCA-MRSAの主流はSCCmecはIV型であった。皮膚疾患に関わる毒素遺伝子を調べたところ、皮膚剥奪毒素(ET)およびEDINという表皮細胞分化阻害効果を持つ毒素遺伝子が検出された。現在3期のMRSAを解析中であるが、まだ本株は検出はされていない。皮膚科領域でのリスクとなる本株については今後も継続して分離状況を確認したい。 一方、院内感染を起こす一因と考えられているバイオフィルム形成阻害剤の開発については、MRSAのバイオフィルム形成を阻害するアビエチン酸について、他の菌種のバイオフィルム形成に対する影響を調べた。アビエチン酸は腸球菌でもバイオフィルム形成を阻害することが分かった。バイオフィルム形成能の低い菌株には影響を与えず、形成能の高い腸球菌にのみ阻害作用を示したことが分かった。本件については共同研究を行っているハリマ化成株式会社と特許出願を行った。 バイオフィルム形成阻害剤を臨床応用するためには、アビエチン酸を含むフィルムで器材をコーティングする必要がある。アビエチン酸の有効性を保持したフィルム剤の開発にも着手し、有効なフィルムの作製法も見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
POT法を用いた菌株の同定は1・2期と終了し、現在3期の解析を行っている。得られた知見は共同研究を行っている津山中央病院のICTに報告し、ICT活動に役立てていただいている。皮膚科領域でのリスク因子となる遺伝子保有状況がわかってきており、ICTには注意を喚起している。POT型別に薬剤感受性なども精査し、新しく分離されている菌株は比較的各種抗菌薬に感受性を残していることもわかった。抗MRSA薬に頼らない治療についても検討している。 定着因子であるバイオフィルム形成阻害物質については日和見感染で院内感染を起こす腸球菌でも阻害効果がみられることがわかり、広い菌株への応用が期待される。アビエチン酸の他にも、他の研究室との共同研究として、研究室が保有する各種物質からバイオフィルム形成阻害物質をスクリーニングしている。
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Strategy for Future Research Activity |
2期に収集したMRSAの解析から、皮膚科領域でリスク因子のあるCA-MRSAを見出した。今後詳細な性状解析を行い、本菌が選択できるような培地の検討を行いたい。今回皮膚感染症の病原因子となる毒素遺伝子edinが見つかったが、解析が終了した他の菌株でのedinの保有状況は調べられていない。1・2期に収集した菌株でのedin遺伝子の保有状況を確認する。さらに現在菌株を収集中の3期分については他のリスク因子に加えedinについても保有状況を調べる。皮膚感染症の場合、接触感染で院内感染が広がる可能性が高い。特に小児間では急速に広がるため、注意が必要となる。小児科の環境に存在する菌株についてもリスクのある株が存在しないか、確認する予定である。 定着因子阻害物質の探索は引き続き行っている。既に見つかっているアビエチン酸については有効性を失わず臨床応用できるようアビエチン酸を吸着させる素材や方法を検討中である。
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Causes of Carryover |
第3期の菌株収集開始が遅れたために、POT型決定に必要なPOTキット(11万円)の購入が遅れた。4月に連携病院でのMRSAの収集が始まったことから、POTキットによる菌株の同定を始めた。 バイオフィルム形成阻害物質のスクリーニングを行い、有効な物質が見つかると、作用機序などの解明のため、手持ちの物質の量では不足する。有効成分が既知の物質であれば入手可能なものが多い。またすでに有効性を見出しているアビエチン酸の構造類似体についても購入予定である。 今年度は最終年度に当たるため、本研究課題のまとめとして、国際学会への参加を考えており、旅費にも充てる。
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Research Products
(7 results)