2020 Fiscal Year Research-status Report
ヒト胚子から中期胎児の神経系・運動器系・内臓系の形態形成に関する組織学的研究
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16K08435
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Research Institution | Akita University |
Principal Investigator |
阿部 寛 秋田大学, 医学系研究科, 名誉教授 (40151104)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 良地 秋田大学, 医学系研究科, 准教授 (20396550)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | human embryo / topographical anatomy / human fetus / histology / auricular cartilage / Pacinian corpuscles / cavernous sinus / abducens nerve |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトの初期発生と成人の形態所見をつなぐ情報が胎児に求められる。2020年度は,マドリッド市のコンプルテンセ大学解剖学人体発生学講座を訪問して胎児切片を観察することが、Covid-19感染症による渡航制限のためできなかった。それゆえ過去の渡航で予備的に観察した所見をまとめ、秋田大学の胎児標本について染色を行い、また成人の所見との比較を行った。主な論文を概説する。 内頚動脈は海綿静脈洞の内部を通過中に大きく弯曲する。その近傍を通過する外転神経は胎児期にはほぼ真直ぐ走行するが、生後の変化で弯曲することが明らかとなった。若年者の脳底部の治療に際して、外転神経の走行の知識は手術による神経損傷の予防に役立つであろう。 15週以降の胎児の耳介を組織学的に検索したところ、胎児の耳介軟骨は1個の波状の板として中期胎児まで維持され、そこに耳介筋の原基が付着していた。耳介軟骨は中期以降に発達し、満期になると形や大きさは様々に変化し、成人に見られる耳介軟骨の各部分(対輪、舟状窩、耳珠、対珠)が発達していった。一方、耳介筋の発達は耳介軟骨の発達に比較して大きく遅れていた。胎児の耳介軟骨は成人の形態とは大きく異なり、生後に再構成が起こると考えられた。 手の指のパチーニ小体について既に報告したが、今年度は足の指のパチーニ小体を検討した。母指の尖端よりも指の股の部分に豊富に分布し、また爪床や屈筋腱の腱鞘に沿って分布していた。手指と比較して末梢優位ではなく、また手の腱鞘よりも数が多かった。花束状の集合も見られた。足底の皮膚では最大900個のパチーニ小体を観察し、足底の前方に多くのクラスターを作り、後方では孤立して存在した。内側よりも外側の皮膚に多く分布した。外側のパチーニ小体は足のアーチ形成に関係し、前方のパチーニ小体は初期の歩行の学習に役割を持つと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年度までは、スペイン、マドリッドのコンプルテンセ大学人体発生学講座を研究責任者・研究協力者が複数回訪問し、保存されているヒト胎児切片の観察を進めてきた。同大学との協力関係は全く問題がないが、2020年度は残念ながらCovid-19の感染対策による渡航制限のため、訪問することが極めて困難であった。そのため以前の訪問で予備的に観察した事項を整理し、また秋田大学で保管中の胎児標本よりいくつかを切片化して観察してきた。 研究発表としては、2020年度の観察事項を複数の解剖学専門雑誌に投稿し、すべて査読のある論文(7編)として掲載することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本基盤研究の予算を2021年度まで延長することを承認していただいた。引き続き、成人の解剖所見とヒトに特有の発生期の所見を埋める情報を、ヒトの中期~後期胎児に求めたい。そのためにコンプルテンセ大学人体発生学講座の保存切片、秋田大学の保存胎児標本の観察を進める予定である。 スペインに渡航することができるかどうか、未知の部分が大きい。秋田大学の保存胎児標本や既存の標本ブロックからの切片作成にも注力していきたい。
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Causes of Carryover |
2019年度までは、スペインのコンプルテンセ大学胎児の切片観察のための海外渡航旅費が中心であった。しかし2020年度はCovid-19感染の広がりで渡航が困難となり、海外旅費として使用することがほとんど不可能な状況であった。 2021年度は1年間延長を認めていただいた予算を使って、可能であれば再びスペインに渡航して胎児切片の観察を実施したい。これまで作成した標本の切片化や、秋田大学の胎児標本の染色と観察を実施したい。そのための必要な消耗品も確保したい。また最終的な研究報告書の資金としても活用したい。
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