2017 Fiscal Year Research-status Report
内耳機能の基盤となる部位特異的な有毛細胞と感覚神経の形成原理の解明
Project/Area Number |
16K08453
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
佐藤 滋 自治医科大学, 医学部, 准教授 (70306108)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 内耳 / 蝸牛 / 有毛細胞 / 感覚器形成 / 転写制御 / 感覚神経 / エンハンサー / マウス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、内耳形成で繰り返し発現する転写因子SIX1が、耳胞前側では感覚神経を作り、前庭と蝸牛では有毛細胞を作り出す鍵因子であることを明らかにすることを目的としている。具体的目標としては、1)シグナルによるSix1活性化機構の解明、2)内耳形成後期でSIX1を欠損するマウスの表現型解析、3)有毛細胞と感覚神経でのSIX1機能の相違点の解明を掲げ、研究を進めている。今年度はまず、flox配列を2ヶ所に挿入し、Cre発現マウスと交配することでSix1の第1エクソンを欠失できるSix1-floxマウス系統の樹立を目指し、解析を進めた。ゲノム編集技術によりflox配列が正しく挿入された9匹のファウンダーマウスが得られたので、バッククロスを重ね、Six1-21-NLSCreやSix1-8-NLSCre等のマウスと交配し、Six1遺伝子を内耳や感覚神経で特異的に欠損するマウスの解析を行う準備が整った。次に、Six1の蝸牛における発現は、有毛細胞の分化に伴って特異的に活性化されるが、その発現を規定するSix1遺伝子の特異的エンハンサーの解明を目指し解析を進めた。Six1遺伝子周辺のエンハンサー候補領域を網羅的に検索する方法として、クロマチン構造がオープンな領域をすべて同定できるATAC-seqを選択することとした。有毛細胞特異的にEGFPを発現するAtoh1-EGFPマウスを利用し、胎生17日目の胚から有毛細胞だけをFACS(セルソーター)で単離し、約8万個の有毛細胞を集めることができ、解析を行う準備が概ね整った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
●Six1-floxマウス系統の樹立:Six1遺伝子の5'非翻訳領域と第1イントロンにflox配列を挿入するためのガイドRNAをデザインした。C57BL/6J系統のマウス受精卵を用い、ゲノム編集技術によってflox配列を挿入した多数のマウスを得た。PCRや塩基配列決定等の実験により、flox配列が正しく2ヶ所に挿入されたファウンダーマウスが9匹いることがわかった。ゲノム編集のオフターゲットの影響を無視できるよう、バッククロスを2-3回行ったマウスも準備できた。交配用のCAG-creマウスは入手し、Six1-21-NLSCreやSix1-8-NLSCreマウスは十分飼育しているので、Six1の組織特異的な欠損マウスの解析を行う準備は整った。 ●Six1有毛細胞エンハンサーの同定:Six1の発現を有毛細胞で特異的に活性化するエンハンサーの同定を目指し、解析を進めた。ChIP-seqに十分な有毛細胞を集めることは難しいことがわかったので、クロマチン構造がオープンな領域を同定できるATAC-seqでの解析に変更することにした。Atoh1-EGFPマウスの蝸牛感覚上皮を単離し、FACSによりEGFP陽性の有毛細胞だけを単離し、10万個を目指して細胞を集め、胎生17日胚の蝸牛から約8万個の細胞を集め、冷凍保存した。エンハンサーは、同一のtopologically associated domain(TAD)中に含まれる遺伝子の発現を制御する。このTADと有毛細胞における発現プロファイル等の公開されているデータを調べた結果、Six1近傍のかなり狭い範囲のエンハンサー候補について解析を進めれば、目的のエンハンサーを同定できる可能性が大きいこともわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
●Six1の組織特異的な欠損マウスの作製と解析:Six1-floxマウスを、すでに飼育している3系統のCreマウスと交配し、組織特異的にSix1を欠損する胚の表現型解析を行い、Six1の内耳形成における役割を明確にする。Atoh1-CreERマウスも入手し、有毛細胞特異的な欠損マウスの表現型解析も同様に行う。 ●Six1有毛細胞エンハンサーの同定:Atoh1-EGFPマウスからの有毛細胞単離を続け、10万個の有毛細胞を集める。ATAC-seq解析は受託解析を利用する。Six1周辺のクロマチン構造がオープンな領域が同定されたら(予想では数箇所)、DNA断片を単離し、マウス胚から取りだした蝸牛感覚上皮を用いたレポーター解析により、有毛細胞でのエンハンサー活性の検証と、重要なエレメントのマッピング、上流因子の同定といった解析を行う。 ●Six1の感覚神経における発現制御と機能の解析:Six1-8エンハンサーは主要な感覚神経エンハンサーである。Six1-8中に複数存在する核内受容体の結合配列が,エンハンサー活性に重要だと予想されるため、ニワトリ胚を用いたレポーター解析により、活性化メカニズムの解明を目指す。マウスまたはカエル個体を用いた検証実験も検討する。 ●Six1標的遺伝子の解析について:Chip-seqによるSix1標的遺伝子の同定は、解析に十分な材料を集めることが難しいことがわかったので、有毛細胞と感覚神経におけるSix1の機能の違いについては、別の解析方法を検討中である。
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Causes of Carryover |
ATAC-seq解析は有毛細胞を10万個単離できた段階で行う予定である。現在は約8万個を保存しているが、あと数回、単離のための作業を行った後、解析を行う。そのため、受託解析費用は次年度に使用することになった。また、細胞の単離は研究補助者と共同で短時間で行わなければならず、そのための謝金分も確保したい。
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