2017 Fiscal Year Research-status Report
上皮細胞間ジャンクションの再編成におけるDLG1の機能解析
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16K08462
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
向後 晶子 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (20340242)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
向後 寛 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (20282387)
野村 隆士 藤田保健衛生大学, 医学部, 講師 (20325161)
松崎 利行 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (30334113)
下村 敦司 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 教授 (50340237)
松浦 勉 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (80181692)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | DLG1 / コルチ器 / 収斂伸長 / ジャンクション再編成 / rosette / 有毛細胞 / 上皮 |
Outline of Annual Research Achievements |
DLG1欠損マウスではコルチ器の伸長不全が認められる。本研究の目的は、マウスコルチ器聴覚上皮の組織伸長におけるDLG1の作用機序を解明することである。 未分化な前感覚上皮は偽重層上皮をなすのに対し、成熟コルチ器は二層の重層上皮をなす。またらせん状のコルチ器の伸長過程は、収斂伸長と呼ばれる組織変形による。組織構造の変化と収斂伸長はどのような関係にあるのか。またDLG1はそのうちどの過程に関わるのか。その解明には、正常なコルチ器発生過程についての情報が欠かせないが、発生初期の聴覚上皮細胞の分化と組織構築過程の形態学的な変化は明らかになっていなかった。 今年度は固定組織を用いて組織発生過程における形態計測を行い、正常マウスとDLG1欠損マウスを比較した。 その結果、聴覚上皮の外側領域においては、最終分裂後の細胞分化に伴って、一部の細胞核が基底膜付近を離れ組織内を浮上して外有毛細胞としての形態的特徴を獲得することから、この細胞核の移動が、上層が外有毛細胞、下層が支持細胞というコルチ器の基本的な重層構造の形成に直結することが示された。さらに、分化直後の外有毛細胞には組織平面内での伸展像が見られ、運動性が高いことが示唆された。分化直後の外有毛細胞は、らせんの辺縁部に多く見られ、徐々にらせんの内側方向にも分布が広がることから、外有毛細胞が内側に向かって組織内を移動する可能性が示唆された。収斂伸長は、ジャンクション再編成と呼ばれる細胞接着構造の作り替えによって進行するため、その「中間産物」である細胞の花弁状集合(rosette)は収斂伸長が進行中であることの指標となる。DLG1欠損マウスではrosetteの形成そのものは阻害されないが、その後rosetteが正常に減少しないことが判明した。このことから、DLG1はrosetteの解消、あるいはrosette形成過程の終了に関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正常マウスおよびDLG1欠損マウスの聴覚上皮ホールマウント免疫染色試料を用いた発生時組織の形態学的特徴の解析が順調に進行し、正常マウスおよびDLG1欠損マウスのコルチ器発生の形態学的特徴を明確にした。この解析は、DLG1欠失マウスコルチ器形態の詳細な表現型を明らかにすることによって、収斂伸長に関与する分子の、既報の機能との類似性を見出すことができれば、DLG1の作用機序を推測できるとの意図によるものであった。今年度明らかになった、DLG1とrosette解消の関係と、ショウジョウバエ上皮組織再編時の類似性から、コルチ器発生でもDLG1とPTENの相互作用が重要な役割を果たしているのではないかとの仮説を得るに至った。本研究の目的であるDLG1の作用機序を解くための有力な作業仮説を立てることができた点で、本年度の研究はおおむね順調に成果を上げることができたと評価している。なお、期間中の実施を目指しているライブ組織観察技術の確立については、技術的な困難さ、獲得研究費が予定していた使用機材の購入には足りないことから優先順位を下げていたが、これについては昨秋アメリカの研究グループにより世界で初めてコルチ器発生期のライブイメージングを用いた研究論文が発表された。今後上記仮説の検証において、共同研究あるいは研究手法の再現の可否を含め詳細な検討が必要と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度のもっとも重要な成果として、上述した通り、「マウスコルチ器の収斂伸長においては、DLG1とPTENの協働が細胞間ジャンクション再編成の正常な進行に必要」という作業仮説の根拠は、2005年から2016年までの、以下のような報告である。 ①ショウジョウバエ翅上皮において、PTENはPIP3分解抑制、RokおよびMyoII活性上昇を通じて新規ジャンクションの伸長を阻害する、②これによりPTEN欠損ショウジョウバエ翅上皮ではジャンクション再編成の進行に異常をきたしrosette構造が蓄積する、③PTENのC末にはPIP3分解活性とは無関係にPDZドメイン結合モチーフがある、④マウスB細胞、MEF細胞でPTENとDLG1は相互作用する、⑤B細胞ではDLG1がPTENを安定化させる、⑥ PTENとDLG1の相互作用はMEF細胞分裂における中心体分離のための複合体形成の基盤となる。 以上のようなPTENとDLG1、PTENとジャンクション再編成の機能的・生化学的な関係性を、収斂伸長におけるDLG1機能解明へのヒントと捉え、同様の現象が発生期コルチ器の収斂伸長においても見られるのかどうかをひとつづつ検証する。
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Causes of Carryover |
(理由)ライブイメージングに用いる培養および撮影機材を購入しなかったため。 (使用計画) 使用を計画していた機器一式をすべて購入するには、研究費が足りないので、より安価な代替機器を購入する必要がある。発生期コルチ器のライブイメージングは昨秋初めて米国の研究グループによって論文が発表されたので、それを参考に、方法、機器について勘案し購入を検討する。一方で、平成30年度は新たにPTENタンパク質を中心とした一連の実験を新規に開始する予定であるため、ペプチド抗体の作成委託などが必要になった場合はそちらに充当する予定である。
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Research Products
(5 results)