2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K08464
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
藤原 武志 三重大学, 医学系研究科, 准教授 (50546786)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ネクチン-1スポット / Necl2 / RTK / マウス嗅球外網状層 |
Outline of Annual Research Achievements |
マウス嗅球外網状層における新規細胞間接着装置ネクチン-1スポットの形成や作用機構を明らかにする目的で、昨年度はネクチン-1スポットとの物理的・機能的な相互作用が期待できる受容体型チロシンキナーゼ(RTK)とカリウムチャネル(KCh)を得た。生後約70日のマウス嗅球外網状層におけるネクチン-1スポットの発現は生後約10日のピークのものに比べて著しく減少する。生後約70日のマウス嗅球外網状層でのRTKやKChの発現がネクチン-1ノックアウト(KO)により減少したことから、RTKやKChの局在が生後約10日でネクチン-1スポットにより制御されていることが示唆される。一方で、生後約70日のマウス嗅球外網状層でのRTKやKChの発現を制御するネクチン-1非依存性細胞間接着分子の存在が考えられることから、その探索を行った。 ネクチン-1と同様に嗅球で発現している細胞間接着分子として、ネクチン様分子であるNecl1-5がある。生後約70日の野生型およびネクチン-1KOマウスの嗅球組織を用いた免疫組織化学的解析を行ったところ、Necl2が野生型およびネクチン-1KOマウスの嗅球外網状層において同様の発現を示した。つまり、ネクチン-1非依存性にNecl2が嗅球外網状層に発現することを明らかにした。また、マウス嗅球初代培養僧帽細胞を用いた免疫細胞化学的解析を行ったところ、PGP9.5陽性の僧帽細胞の重なり合う樹状突起においてNecl2とRTKとの共局在が認められた。これらの結果は、Necl2が生後約70日のマウス嗅球外網状層でのRTKやKChの発現を制御するネクチン-1非依存性細胞間接着分子であることを示唆した。得られた知見から、マウス嗅球の形成時期によってネクチン-1スポットとNecl2がRTKやKChと物理的・機能的に相互作用して嗅球外網状層の神経回路形成を制御する可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の本研究では、生後約10日のマウス嗅球外網状層においてネクチン-1スポットによる制御が示唆される受容体型チロシンキナーゼ(RTK)とカリウムチャネル(KCh)の発現を、マウス嗅球外網状層にネクチン-1スポットがほとんど認められない生後約70日において制御するネクチン-1非依存性細胞間接着分子を探索した。生後約70日の野生型およびネクチン-1ノックアウトマウスの嗅球組織を用いた免疫組織化学的解析およびマウス嗅球初代培養僧帽細胞を用いた免疫細胞化学的解析から、ネクチン-1非依存性細胞間接着分子としてネクチン様分子(Necl1-5)の一つであるNecl2を得た。このことは、Necl2が生後約70日のマウス嗅球外網状層においてネクチン-1スポットにかわりRTKやKChの発現を制御する細胞間接着分子であることを示唆している。この知見から、マウス嗅球の形成時期によってネクチン-1スポットとNecl2がRTKやKChと物理的・機能的に相互作用してマウス嗅球外網状層の神経回路形成を制御する可能性が考えられるが、まだそれらの解析にまで至っていない。 平成30年度は、現在の研究テーマであるマウス嗅球におけるネクチン-1スポット新規細胞間接着機構から大きく方針を変更し、腎臓に焦点をあてた老化遅延と健康寿命延伸の制御機構にテーマを変更して研究を推進していく所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
2045年推計人口により、75歳以上の人口割合が20%を超える100年ライフ時代が到来している。また、平均寿命と健康寿命の差が男性で約9歳、女性で約12歳と大きいことから、社会保障費用の削減や、長きにわたり活力と生産性のある人生をおくるために老化遅延と健康寿命延伸を制御する機構の解明が急務であると考え、平成30年度はこのテーマに変更する。 老化により腎臓などは重量や大きさなどに顕著な変化を示す一方、嗅覚器は軽微な変化を示す。腎臓と嗅覚器には糸球体が存在し、組織学的構造が類似している。嗅覚器では、鼻腔嗅上皮からの軸索と嗅球深部からの僧帽細胞などの突起が連絡して糸球体をつくる。嗅上皮からの匂い情報は糸球体で受け取られ、嗅球深部に伝達される。腎臓では、輸入細動脈が毛細血管からなる糸球体に連続し、糸球体にたこ足細胞や基底膜などが連絡する。糸球体の中の血液からたこ足細胞や基底膜などを介して原尿がつくられ、続く尿細管を流れる。この老化に伴う腎臓の重要性と嗅覚器との類似性に基づき、腎臓に焦点をあてた研究を推進していく。 老化は炎症との関連が深く、ヒトで血中の炎症性サイトカインIL-6量が老化に伴って増加することが知られている。炎症には自然免疫系の応答があり、パターン認識レセプター(PRR)を介して炎症性サイトカインの産生が誘導される。PRRのうち、炎症性サイトカインの産生を誘導する分子としてtoll-likeレセプター(TLR)が知られている。TLRはヒトとマウスに共通してTLR1-9を発現しており、腎臓ではTLR1-6の発現が報告されている一方その詳細は不明である。また、腎臓におけるTLRを介した炎症と老化の関連についても不明である。老化に伴い血中量が増加するIL-6の産生を誘導するTLR1、2、4、6に着目し、マウス腎臓組織において発現する細胞について、免疫組織化学的手法で検討する。
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Causes of Carryover |
2016年の日本人の平均寿命は女性が87.14歳、男性が80.98歳でいずれも過去最高を更新している。最近公表された2045年推計人口によると、75歳以上の人口割合が20%を超え、14歳以下の人口割合が約10%と少子高齢化も進んでいる。また、平均寿命と健康寿命の差は女性で約12歳、男性で約9歳と大きいことから社会保障給付の急激な増加が見込まれる。この社会的負担の軽減のみならず、長きにわたり活力と生産性のある人生をおくるためには老化遅延と健康寿命延伸を制御する機構の解明が急務であると考え、私は平成30年度からこのテーマに変更することを決断し、次年度使用額が発生した。 老化により腎臓や肝臓などは重量や大きさなどに顕著な変化を示し、特に腎臓は嗅覚器と同様に糸球体が存在し、組織学的構造が類似している。このように老化に伴う腎臓の重要性と組織学的類似性に基づいて、腎臓に焦点をあてた研究を推進していく。老化は炎症との関連が深く、自然免疫系の応答が炎症性サイトカインIL-6などの産生を誘導する。特にtoll-likeレセプター(TLR)はIL-6の産生を誘導する分子として知られているが、腎臓におけるTLRを介した炎症と老化の関連については不明である。腎臓においてTLRを介した炎症が老化に及ぼす影響について、マウス腎臓組織を用いた免疫組織化学的解析を行うための実験動物や抗体などの試薬に使用する。
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