2018 Fiscal Year Research-status Report
イモリとマウス心臓の再生能力を規定するシグナルと心筋細胞の応答能の解明
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16K08467
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
林 利憲 鳥取大学, 医学部, 准教授 (60580925)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | イモリ / 心臓再生 / 細胞周期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、イモリとマウスの心臓において、その再生能力に違いが生じる機構を解明することを目標としている。これまでに心筋細胞の増殖に重要な役割を果たすcyclin D1遺伝子の発現を蛍光タンパク質により可視化できるマウスとイモリを用いて、その詳細な発現パターンを解析するとともに、イモリの心筋細胞にcyclin D1遺伝子を強制発現させて、その増殖に与える影響を調べるためのイモリ作製を行って来た。 当該年度は、広島大学のグループとともに行って来たCRISPR/Cas9を介した遺伝子ノックアウト法の構築について、その実験手法を確立して、実際に肢の再生に関わることが知られているshh遺伝子の発現を操作できることを示すとともに、tbx5遺伝子が心臓の形成に不可欠であることを示して、原著論文として発表した(Dev. Biol. 447: 127-136)。 イベリアトゲイモリの遺伝情報の整備については、再生中の心臓を始め様々な器官や発生段階の異なる胚から約30種類の試料から得たRNAのRNA sequencingを行い、そのデータを元にイベリアトゲイモリの持つタンパク質の98%以上をカバーすると予想される遺伝子のモデルを作成した。併せて、このデータベースが再生に関わる遺伝子の発現量の変化を知る上で有効であることを示し、DNA Research誌にて発表した(印刷中)。 さらに複数の研究グループと共同で、イベリアトゲイモリのための研究リソースを提供するポータルサイト(iNewt: https://www.nibb.ac.jp/imori/main/)を作製してパプリックサーバー上で公開している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではこれまでに、心筋細胞の増殖を制御する上で重要な機能を持つcyclin D1遺伝子について、その発現を制御していることが示唆される領域を絞り込むことができた。これらの配列について、イモリとマウスそれぞれの制御配列の下流に、蛍光タンパク質を繋いだコンストラクトを導入したイモリとマウスを作製した。これらの動物を用いて、その発現パターンの解析も行ってきた。これにより、2つの種間におけるcyclin D1遺伝子の転写制御機構の比較解析を同時に進めることができた。 上述の成果に加えて、イモリの心臓再生過程における遺伝子発現の変化を解析する上で不可欠なリファレンスとなるデータベースを作製して、その成果を国際科学誌に発表するとともに、コミュニティーリソースとしてウェブサイトで公開した。加えて、CRISPR/Cas9システムを介した遺伝子ノックアウト法についても国際科学雑誌に発表できた。これにより、データベースから得られた情報をもとに、関連が予想された遺伝子を破壊して機能を解析するまでの時間を大幅に短縮できるようになった。 当該年度は、メカニカルストレスが心臓再生に与える影響の検討を目指した。このために、マウスなどで行われている心臓の圧負荷モデルをイモリ用に改変して、イモリ心臓の動脈幹に対してクリッピングを行う方法を考案した。このイモリの心臓に起こる変化を継時的に解析した結果、予想に反して、イモリでは網羅的な遺伝子の発現パターンの変化で評価する必要があることがわかり、計画を変更することとなった。 計画の変更に伴う研究期間の延長が必要となったことから、進捗状況はやや遅れている判断したが、最終年度の研究をより着実に推進することで遅れを取り戻す。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、残りの研究題目であるメカニカルストレスが心臓再生に与える影響の検討を重点的に行う。これまでの研究により、イモリ心臓の動脈幹に、シリコン製のチューブを加工して作製したクリップをはめることで、心室に高い血圧を負荷するモデルを確立することができた。当初は、マウスの先行研究に倣い、組織学的な解析を中心に行う計画であったが、イモリでは組織レベルの変化は期待したほどには大きくなかった。そこで、これら圧負荷された心臓における遺伝子発現の変化を網羅的、かつ継時的に解析することで、その影響を明らかにしていく。その際、昨年度までに構築したイベリアトゲイモリ遺伝子のデータベースを利用したり、心室切除後の再生シリーズ試料との比較を行うことで、研究を効率的に推進する。 また、研究の最終年度であることから、これまでに得ることができた研究成果の取りまとめを重点的に行う。これらの成果については、国際科学雑誌上で発表することを目指すとともに、それらを広く発信するために、積極的な学会発表を行う。このように、延長された研究計画の着実な実施に務める方針である。
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Causes of Carryover |
前年度は、メカニカルストレスが心臓再生に与える影響の検討を目指した。このために、イモリ心臓の動脈幹を結紮することで、心室に高い血圧(メカニカルストレス)を与え、その影響を解析する計画であった。実際には、動脈管をクリッピングすることにより血圧を上昇させる方法を考案できたが、この手法の確立に当初の想定より時間を要した。また、メカニカルストレスが引き起こす影響について、マウスなどの先行研究を基に、組織学的な評価を行う計画であったが、イモリでは組織学的な変化が十分に大きくはなかったため、これと併せて網羅的な遺伝子の発現パターンの変化で評価する必要があることがわかり、計画を変更することとなった。次年度使用が生じた研究費については、遺伝子発現パターンの解析をはじめとするメカニカルストレスに関連した実験に対して重点的に使用する。また、これまでの研究成果の取りまとめと、公開に関わる費用としても重点的に配分する。
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Research Products
(6 results)