2018 Fiscal Year Research-status Report
microRNA-30dを指標とした心房細動の診断と治療に関する新規評価法の開発
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16K08498
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
小野 克重 大分大学, 医学部, 教授 (40253778)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 心房細動 / イオンチャネル / miR-30d / アセチルコリン感受性 / conventional PKC |
Outline of Annual Research Achievements |
心房細動心筋では心筋細胞の電気生理学的性質が変わり、心房細動が持続・慢性化する原因となる。これを心房細動の電気的リモデリングという。我々はこの電気的リモデリングの主原因の1つがmiR-30dであることを突き止めた。microRNAは蛋白質をコードしていない約22塩基の成熟したRNAであり、特定のmRNAの3’UTRなどに結合して標的mRNAの翻訳や分解を制御する。我々は近年、microRNA-30d (miR-30d)が心房細動を持続するヒト心房筋で発現が亢進し、心房筋の電気生理学的性質を担う重要なイオンチャネルであるアセチルコリン感受性K+(KACh)チャネルの発現と機能を抑制することを見いだした。更にこのmiR-30dの発現増加には心筋細胞内のカルシウム(Ca)過負荷が原因であることも明らかにした。心房細動が持続すると頻拍によって細胞内Ca過負荷が生じ、一方ではKAChチャネルの発現を促進すると共に、もう一方ではmiR-30dの発現増加を介してKACチャネル の発現を低下させるという機序が作用しているのである。心房細動の持続は心筋のCa過負荷によるCa心毒性を軽減するために活動電位持続時間を短縮させるが,その結果として不応期が短縮し、却って心房細動が持続するという負のスパイラルに陥ってしまった結果であると考えられる。その中心となるもの細胞内Caに起因するmiR-30であることを我々は明らかにした。加えて、本研究ではこのCa2+過負荷がいかにして転写後経路を経て心房筋のリモデリングに関わるかに関してその分子機序を明らかにした。その結果、細胞内Ca2+過負荷はCa2+依存性protein kinase C の活性化を惹起し、同時にcalcineurin-NFAT系と独立してmiR-30dを制御するという新機序を発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
心房細動の電気的リモデリングの機序は不明な点が多い。miR-30d過剰発現(miR-30d Tg)ラットの作成に着手したが、同ラットのfounder(F0)の雌1匹の作成に成功しのみであり、以後は連続して胎生死の連続であった。miR-30dの過剰発現が胎生致死となる確率は高く、どのような場合が胎生死を免れるか不明であった。その後、F0雌,及びF0雄を複数匹作成し、miR-30d Tg F1の樹立を急ぐプロジェクトに移行した。この作成はミルテニーバイオテク株式会社に受託しており、同作成の進行と、同社から引き継いだF1ラットの作成と維持を進めた。しかし、Wistarラットを用いた予備実験で我々は血中にmiR-30dが存在し、その発現が心房細動誘発刺激(NE&AngII)で増大することを確認できなかった。同手法を用いて、1) miR-30d過剰発現ラットの血中miR-30dを測定し、その値が組織miR-30dとどの程度相関するか検討している。さらに、2) 血中miR-30dと心房筋アセチルコリン感受性K+チャネル電流(IK.ACh)がどの程度相関するか検討したが、更に、血中miR-30dと心房筋IK.AChが逆相関することを証明することが困難であった。その主原因は、miR-30dの過剰発現が胎生致死となる確率は高く、実験に用いることのできる個体を十分確保することが困難であることに因った。
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Strategy for Future Research Activity |
我々はWistarラットを用いて食道電気ペーシング法によって心房細動を誘発しそれを評価する技術を予備実験によって確立しているが、この方法を用いてmiR-30d Tgラットに様々な心房細動誘発刺激(NE, AngII, ET, PKC賦活剤)を慢性投与し、対照ラットと比べてmiR-30d Tgがどの程度心房細動の誘発率と持続率が低下しているかを確認し、誘発刺激による血中miR-30d調節機構の有無を含めて心房細動基質の形成に関わるmiR-30dの重要性を確認する予定であった。しかしながら、数々の試行にもかかわらず、miR-30dの過剰発現が胎生致死となる確率は高く、実験に用いることのできる個体を十分確保することが困難であった。少数のmiR-30dの過剰発現ラットの心房筋細胞の単離とパッチクランプ法でmiR-30dラット心房筋のIK.Achを記録し、引き続き29年度は培養細胞に対し、心房細動誘発刺激(NE, AngII, ET, PKC賦活剤)を添加した後にIK.AChを記録し、誘発刺激によるmiR-30d制御の程度とIK.AChの電流密度の比較を通して心房細動の誘発率(持続時間)と細胞レベルのIK.AChの電流密度の相関を解析する試みは不十分なデータしか得られ、miR-30dを主体とする心房細動のリモデリングが心房細動の誘発率と持続時間を制御することを電気生理学的に証明するには至らなかった。可能であるなら、今後は出生後にmiR-30dの過剰発現ラットの作成を行い、上記の証明を実施したい。
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Causes of Carryover |
本研究成果は現在、英文雑誌に投稿準備中であり、その投稿料金と掲載料金を論文作成の準備費として計上している。
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Research Products
(2 results)