2017 Fiscal Year Research-status Report
精神疾患における脳内グルタミン酸動態変調の可視化解析
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16K08543
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大久保 洋平 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (40422282)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 統合失調症 / うつ病 / グルタミン酸 / 脳・神経 / 薬理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
精神疾患のメカニズムは未だ不明な点が多く、既存の治療法は社会的要請を十分に満たしていない。近年、脳内のグルタミン酸シグナリング動態の変調が疾患の原因として注目を集めているが(グルタミン酸仮説)、肝心のグルタミン酸動態について十分な知見が得られていない。そこで本研究では、統合失調症およびうつ病を主な研究対象として、申請者らが開発した独創的なグルタミン酸蛍光イメージング法を適用し、病態モデル動物の脳内グルタミン酸動態変調とその機構を明らかにする。これにより、グルタミン酸仮説を直接的に検証し、疾患メカニズムの解明と新規創薬に資する知見を得ることを目指す。 本研究ではグルタミン酸仮説が強く示唆されている統合失調症およびうつ病を主な解析対象とする。実験動物としては、将来的な遺伝子改変病態モデルとの比較や応用を見据え、マウスを用いる。病態マウスを作出し、脳各部位から網羅的にスライス標本を作製し、病態に伴うグルタミン酸動態変調の全容を捉えることを目指す。神経細胞およびアストロサイトによるグルタミン酸の放出と取り込みの動的相互作用を切り分けて解析することで、グルタミン酸動態変調のメカニズムを明らかにする。さらに、グルタミン酸仮説に基づく治療薬候補分子および既存のモノアミン系標的薬の、グルタミン酸動態への薬理作用を直接的に解明する。加えてin vivoでの観察も行い、生体内においてグルタミン酸仮説を直接検証する。 本年度は昨年度から引き続き、健常動物から得た脳スライス標本を用い、自発および刺激誘発性グルタミン酸動態を詳細に解析した。また統合失調症関連薬物の投与がグルタミン酸動態へ与える影響を解析した。さらに病態モデルマウスの作出と解析の予備的検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオンチャネル型グルタミン酸受容体であるNMDA受容体の遮断薬が、統合失調症様症状を惹起するという知見や、即効性の抗うつ作用を示すという知見などから、グルタミン酸-NMDA受容体シグナリングの変調が統合失調症やうつ病の原因であるとする「グルタミン酸仮説」が提唱された。しかしながら、このグルタミン酸仮説の背景にあるメカニズムについては、これまでは有用なグルタミン酸動態測定法が存在しなかったために、十分な知見が得られていない。そこで申請者らは、グルタミン酸蛍光イメージング法という新たな手法を適用することで、精神疾患脳におけるグルタミン酸動態の変調を明らかにすることを目指す。 昨年度までに、大脳皮質スライス標本におけるグルタミン酸蛍光イメージング技術を確立し、これに基づき従来未知であった自発的グルタミン酸動態を発見した。本年度はこの新規グルタミン酸動態のメカニズムの解析を進めた。神経活動遮断下でもこの自発的グルタミン酸動態は観察されたため、グリア細胞、特にアストロサイトからの放出が期待された。よって今後非神経性のグルタミン酸動態変調の評価に有望な指標となることが期待されるため、さらに詳細なメカニズムの解析を進めている。今後の推進方策に関連して、神経刺激誘発性グルタミン酸動態の解析も進めている。 また統合失調症様症状誘導薬であるNMDA受容体遮断薬・MK-801をスライス標本に投与し、グルタミン酸動態へ与える影響を解析した。しかしながら顕著な変調は検出できておらず、NMDA受容体遮断薬自体が直接的にグルタミン酸動態変調を惹起するのではなく、その後の性状変化に依存することが示唆された。 本年度はMK-801の投与による病態モデルマウスの作出にも着手し、現在スライス標本での解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでのグルタミン酸動態解析を引き続き行い基盤的知見を蓄積するとともに、1)神経細胞とグリア細胞の寄与の切り分け、2)病態モデルマウスにおけるグルタミン酸動態解析、3)治療候補分子の薬理学的解析を進める。 1)細胞外グルタミン酸動態は、神経細胞およびアストロサイトが関与する多様な経路を介した、グルタミン酸の放出と取り込みの動的相互作用で形成される。よって本研究で検出を目指すグルタミン酸動態変調は、神経細胞、アストロサイト両者の変調を考慮する必要がある。グルタミン酸トランスポーター阻害薬による静止時グルタミン酸濃度上昇を解析することで、アストロサイトのグルタミン酸取り込みの寄与を明らかにする。また神経線維刺激により惹起されるグルタミン酸動態を解析し、神経細胞からの即時的放出とそれに続く主にアストロサイトによる取り込みの寄与を解析する。 2)病態モデルマウス作出に関しては、これまで多くの行動薬理学研究の蓄積がある手法として、統合失調症についてはMK-801投与法、うつ病については慢性ストレス適用法を用いる予定である。これらのマウスから網羅的に脳スライス標本を作製し、上記の研究で確立した解析法を適用する。 3)グルタミン酸仮説に基づく統合失調症治療薬候補分子として、NMDA受容体コアゴニストであるグリシン、D-セリン、グルタミン酸放出抑制を目指したグループII代謝型グルタミン酸受容体作動薬等が報告されている。またうつ病については、NMDA受容体遮断薬であるケタミンの効果が報告されている。グルタミン酸動態変調に対して、それらが示す効果を解析する。
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Research Products
(7 results)