2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K08569
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
及川 司 北海道大学, 医学研究院, 講師 (20457055)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | p53 / 上皮間葉転換 / ヒストン修飾 / EZH2 |
Outline of Annual Research Achievements |
上皮細胞が癌抑制遺伝子産物p53を喪失すると、上皮性を消失する場合がある。これまでの他のグループによる研究などから、p53が上皮性を保障するメカニズムとして、p53がマイクロRNAの発現を介して、上皮間葉転換(EMT)を司るいくつかの転写因子(ZEB1やSNAI1など)の発現を抑制するというものが広く知られていた。しかしいくつかのヒト由来癌細胞を使って解析したところ、必ずしもこの線形関係が成り立っていないことが示唆された。正常p53を持ついくつかのヒト癌細胞株とヒト正常乳腺上皮細胞を比較解析した結果、正常p53を失った時にEMTを引き起こす上皮細胞が存在する一方で、EMTを引き起こさない上皮細胞も存在することを発見した。EMTを引き起こす上皮細胞では、p53はE-カドヘリン遺伝子座(CDH1座)に結合し、E-カドヘリン発現に有利なヒストン修飾状態を作ったが、p53が存在しない状況ではE-カドヘリン発現に関して抑制的なヒストン修飾状態となった。この抑制的なヒストン修飾状態は、ヒストンメチル化酵素であるEZH2により形成されていた。一方、EMTを引き起こさない上皮細胞ではp53はCDH1座に結合せず、p53の存在に拘らずE-カドヘリン発現は維持された。またこのようなp53結合性の違いを生む機構として、CDH1座のp53結合部位のヒストン修飾も重要であることが分かった。ヒストン修飾は細胞内の代謝状態による影響を受けて変化する。本研究による知見は、細胞内代謝状況の変化によっては上皮形質の維持が脅かされることがあるものの、そのような場合でもp53が安全装置として働き得ることを示唆する。同時に、p53に依存しなくても上皮形質を維持する頑強な機構も存在することが示唆された。さらに、上皮形質の維持機構に多様性、もしくは、多層性がある可能性を強く示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上皮細胞がp53を喪失した際に上皮性を失うか失わないかを決定づける指標の一つとして、CDH1座へのp53結合性を明らかにし、結合する場合にはヒストンメチル化酵素EZH2と機能的に競合することを示した。さらにp53結合性を決定する要因の一つとして、p53結合部位のヒストンアセチル化状態が重要であることも明らかにできた点で、期待通りの概ね順調な進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上皮形質の維持機構に多様性、もしくは、多層性があることの起源と生物学的意義を明らかにすべく、研究を進める。
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Causes of Carryover |
本年度までの研究内容を含め、当該研究領域の動向をまとめた総説を執筆中である。本総説の出版が次年度となる見込みであり、その出版に要する費用を次年度に持ち越した。
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