2016 Fiscal Year Research-status Report
転写因子Bach2の発現量に依存したB細胞分化制御の解明
Project/Area Number |
16K08572
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
武藤 哲彦 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (80343292)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | Bach2 / Bリンパ球 / 形質細胞 / 胚中心 / 細胞増殖 |
Outline of Annual Research Achievements |
体内への抗原の侵入により活性化されるとBリンパ球は細胞増殖の後に胚中心B細胞へ分化する。次に、抗体の機能の向上を目的とした胚中心応答を経て選抜された胚中心B細胞は抗体を分泌する形質細胞へ分化し、一部はメモリーB細胞へ分化する。以前に転写因子Bach2の発現量の違いが、B細胞の運命を決定する内的要因であることを示してきた。その結果を踏まえて本研究では胚中心B細胞でのBach2依存的な標的遺伝子は何か、Bach2と協調的または拮抗的に転写調節に関わる因子は何かを解析し、Bach2が制御する胚中心B細胞の細胞運命決定機構の解明を目指している。 平成28年度はBach2の直接標的遺伝子の同定を目的として研究をすすめた。先ず、野生型およびBach2ノックアウトマウスの脾臓B細胞を培養系にてB細胞受容体(BCR)刺激をおこない、遺伝子発現様式を比較した。得られた遺伝子発現データをクラスター解析および遺伝子オントロジー解析を組み合わせたところ、Bach2ノックアウトB細胞では細胞増殖に関連した遺伝子群の発現が有意に変動していた。さらに、B細胞株に対して、抗Bach2抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験によりBach2が直接結合する遺伝子を探索したところ、前述の細胞増殖関連遺伝子の幾つかがBach2の直接標的遺伝子であることを突き止めた。 胚中心B細胞への分化課程では、前胚中心B細胞の段階および胚中心B細胞に分化した後の暗帯B細胞では細胞増殖することが重要な応答である。Bach2ノックアウトマウスでは、抗原投与に応じて胚中心ができないことを考え合わせるとBach2は成熟B細胞で細胞増殖制御をおこなう重要な転写因子であると考えられる。これまで私たちが見出してきた形質細胞分化に必須の転写因子Blimp-1の遺伝子発現を抑制する役割に加えて、Bach2の機能解明に新展開をもたらす意義がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初には、マウスに抗原を投与し胚中心B細胞を分化誘導したうえで胚中心B細胞を採取し、抗Bach2抗体を用いたクロマチン免疫沈降実験と引き続くシークエンス(ChIP-seq)をおこなうことにより、直接標的遺伝子の同定を試みる研究計画であった。しかしながら、抗Bach2抗体の特性から直接採取したB細胞でシークエンスに十分なサンプル量を得るのが困難であった。そこで、初期分化段階に相当するB細胞株での実施に切り替えた。この細胞株を選定した理由は、ほかにも多くのB細胞分化に必須の転写因子のChIP-seq解析に用いられてきたことから、今後はそれらの公開されたデータを活用することで、他の転写因子とBach2と転写調節ネットワークを明らかにする際に有利である。ただし、本研究ではBach2標的遺伝子を同定した後に特定の遺伝子座におけるBach2の結合を個別に検証するためには、マウス脾臓B細胞を用いて定量PCR法にて実験を行ったことから、当初の目的であるより生理的な条件下で検討は、これらの実験の組み合わせによっておおむね達成されたと考えられる。また、Bach2の結合配列の近傍に頻回に見出されるほかの転写因子のモチーフについては現在解析を進めている。 また、研究計画第二項目のBach2複合体の精製と同定も進めているが、こちらも抗Bach2抗体の特性から内在性の複合体を免疫沈降させることは難しく、細胞株でタンパク質タグ付きのBach2を発現させ複合体を沈降させ同定する実験を試み、特異的に結合する因子を同定している。 転写因子モチーフ検索および、複合体で同定された転写調節因子の中には胚中心応答に重要な転写因子の関連因子が含まれることを突き止めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は同定した因子のB細胞活性化応答および形質細胞分化における役割を検討する。着目する因子は、転写因子やエピジェネティクス制御に関わる因子を中心とする。私たちはこれまでに、Bach2の発現が高いB細胞では胚中心応答を実行する傾向が強く、逆にBach2の発現が低い細胞は、形質細胞分化の頻度が高いことを明らかにしてきた。そこで、マウス脾臓B細胞を用いた実験では、検討対象の因子の発現をレトロウィルスの系でshRNAを発現させてノックダウンした場合および、cDNAを導入して過剰発現させた場合で、Bach2の発現量に基づいて細胞を分取し、それらの分化進行を追跡することで、Bach2の発現量に依存した応答と細胞分化の方向決定に対して及ぼす影響の有無を検討する。また、B細胞株を用いてノックダウンすることでエピジェネティック制御の破綻がこれまでに同定したBach2の直接標的遺伝子に及ぼす影響を詳細に解析することで、Bach2の転写調節メカニズムが複合体を構成する因子群と協調的にエピジェネティック制御を介しているのかを検討していく。 一方で、B細胞から形質細胞へ分化する過程でのタンパク質の発現変化を定量質量分析法によって解析する。メッセンジャーRNAの発現を調べた解析は多くあるが、タンパク質レベルでの発現解析は初めての試みとなる。これは、Bach2がタンパク質レベルでの翻訳後修飾による制御による核移行などでの活性調節が重要な意味あることがわかっているからである。そこで、可能であれば、細胞質分画と核分画にわけた解析をこころみる。これらの結果から、転写制御因子のタンパク質レベルでの変化が転写ネットワークの変化へ及ぼす影響を生理的な条件で再現できると考えている。
|
Research Products
(8 results)
-
-
[Journal Article] A Bach2-Cebp Gene Regulatory Network for the Commitment of Multipotent Hematopoietic Progenitors.2017
Author(s)
Itoh-Nakadai A, Matsumoto M, Kato H, Sasaki J, Uehara Y, Sato Y, Ebina-Shibuya R, Morooka M, Funayama R, Nakayama K, Ochiai K, Muto A, Igarashi K.
-
Journal Title
Cell Reports
Volume: 18
Pages: 2401-2414
DOI
Peer Reviewed / Open Access
-
[Journal Article] Iron-heme-Bach1 axis is involved in erythroblast adaptation to iron deficiency.2017
Author(s)
Kobayashi M, Kato H, Hada H, Itoh-Nakadai A, Fujiwara T, Muto A, Inoguchi Y, Ichiyanagi K, Hojo W, Tomosugi N, Sasaki H, Harigae H, Igarashi K.
-
Journal Title
Haematologica.
Volume: 102
Pages: 454-465
DOI
Peer Reviewed
-
-
[Journal Article] BACH2 regulates CD8(+) T cell differentiation by controlling access of AP-1 factors to enhancers.2016
Author(s)
Roychoudhuri R, Clever D, Li P, Wakabayashi Y, Quinn KM, Klebanoff CA, Ji Y, Sukumar M, Eil RL, Yu Z, Spolski R, Palmer DC, Pan JH, Patel SJ, Macallan DC, Fabozzi G, Shih HY, Kanno Y, Muto A, Zhu J, Gattinoni L, O'Shea JJ, Okkenhaug K, Igarashi K, Leonard WJ, Restifo NP.
-
Journal Title
Nat Immunol.
Volume: 17
Pages: 851-860
DOI
Peer Reviewed
-
-
-