2017 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病に伴う腸管神経変性における接着分子CADM1の病的意義
Project/Area Number |
16K08723
|
Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
米重 あづさ 近畿大学, 医学部, 研究員 (70586750)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 神経変性 / 細胞死 |
Outline of Annual Research Achievements |
Cell adhesion molecule 1 (CADM1)は神経細胞や上皮細胞に発現する免疫グロブリン様の細胞間接着分子で、腸神経系にも高発現している。前年度に申請者らは腸管の拡張を伴う大腸癌手術検体においてCADM1の細胞膜直上での酵素的切断(shedding)が亢進していることを見出し、この現象を再現する細胞培養装置を開発した。この装置は培養細胞に静的圧力を負荷するもので、圧負荷により培養神経細胞ではCADM1のsheddingが亢進し、shedding産物が神経軸索上で凝集することが分かり、病的内圧上昇を伴う疾患の病態モデルとして有用であることが実証された。 今年度はこの研究成果を更に発展する目的で、眼圧上昇が原因の一つとされている緑内障を対象に、内圧上昇と網膜神経節細胞死・変性の直接的因果関係およびその分子機構解明を目指すこととした。げっ歯類における視神経損傷は速やかな網膜神経節細胞の特異的脱落を引き起こし、網膜神経節細胞のアポトーシス誘導機構解明に大きく貢献している。申請者らはこのモデルにおいてDNAマイクロアレイを実施し、視神経損傷後の網膜の網羅的発現解析を行った。発現変動が見られた遺伝子群の中から細胞死または緑内障に関連があると予想される遺伝子を選別し、レーザーマイクロダイセクション法を併用したRT-PCRにより、これらの遺伝子の神経節細胞特異的な発現変化を解析した。その結果、Atf3, Lcn2, Tnfrsf12a遺伝子の顕著な発現亢進を見出し、網膜組織の免疫染色によりこれらの蛋白質が視神経損傷後の網膜神経節細胞で高発現していることを明らかにした。今後は、本研究で考案した細胞培養装置を用いて、静的圧力と上記分子との関連を解析していく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.視神経損傷マウスモデルにおける網羅的発現解析 ほ乳類において視神経を損傷すると網膜神経節細胞が特異的に脱落するが、この実験モデルは緑内障における網膜神経節細胞死のin vivoモデルとして頻繁に用いられる。申請者は、網膜神経節細胞死の誘導機構解明のため、視神経損傷後早期(0-4日後)のマウス網膜のDNAマイクロアレイ解析を行った。さらにレーザーマイクロダイセクションにより網膜組織から神経節細胞層を単離しmRNA量を解析したところ、視神経損傷直後から神経節細胞層でストレス応答転写因子であるAtf3、鉄トランスポーターであるLcn2、アポトーシス経路活性化受容体であるTnfrsf12aの急激な発現上昇が見られることが分かり、免疫染色法によりこれらの蛋白質の神経節細胞層局在を確認した。Lcn2は細胞分化・増殖、細胞死に関わる多機能分泌蛋白質で、主には鉄イオンの細胞内恒常性を制御することによってその機能を果たすとされている。近年では緑内障をはじめ多くの神経変性疾患においてLcn2の発現上昇が報告され、神経傷害因子として注目されているが、神経系におけるLcn2の機能は未知である。 2.高眼圧性緑内障モデルマウスにおけるLcn2の発現解析 そこで申請者は、今後の研究においてLcn2に着目してその細胞死誘導機構を解明することとした。DBA/2Jマウスは高眼圧性緑内障モデルで、6-12ヶ月齢で眼圧が上昇する。申請者らが手持ち眼圧計でDBA/2Jマウスの眼圧を経時的に測定したところ、既報のとおり9ヶ月齢がピークであった。3-12ヶ月齢の眼球を採取し、レーザーマイクロダイセクションにより網膜凍結切片から単離した神経節細胞においてLcn2の発現量を調べたところ、9ヶ月齢以降にLcn2の発現が上昇することを見出し、ウエスタンブロットおよび免疫組織染色により蛋白質の高発現を確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.圧負荷培養による組織・細胞の変性と細胞死の評価 圧負荷培養モデルとして網膜組織培養、網膜神経節細胞初代培養、網膜神経細胞株RGC-5を用いる予定である。圧負荷後の経時的観察のため、組織培養または初代培養においては長期培養可能な細胞分散用酵素やコーティング剤、培養液の検討を行う。確立した培養系において2-50cm 水柱圧の間で圧力を変化させ、神経繊維・細胞体の数や形態変化を経時的に観察する。形態変化が見られた場合、網膜神経節細胞特異マーカーやグリア細胞マーカーを用いてウエスタンブロットや免疫染色により細胞数や蛋白質量を定量化し、圧力との相関解析を行う。一方でTUNEL法やカスパーゼ3切断特異抗体を用いて細胞死率を測定し、同様に圧力との相関をみる。 2.圧負荷培養によるCADM1またはLcn2の発現変化と網膜神経節細胞変性・細胞死誘導機構の探索 水柱下培養後の組織や細胞のウエスタンブロットや免疫染色によりCADM1またはLcn2の発現量と局在を解析する。申請者らによる先行研究により、圧負荷によってCADM1のshedding率、Lcn2の発現量の亢進が見られると予想している。CADM1のsheddingが亢進し、軸索上での局在変化が見られた場合、shedding産物の軸索変性への関与を明らかにするために、CADM1のshedding産物の高発現系を構築し、神経伝達速度変化やアポトーシス経路の活性化を解析する。一方で、Lcn2の発現量の亢進が見られた場合、Lcn2が関与する細胞死誘導機構を解析する。申請者は、Lcn2発現上昇によって鉄イオンが蓄積して活性酸素が発生し、アポトーシス経路を活性化すると予想しており、これらの分子の発現変化を中心に解析する。培養細胞においてLcn2高発現または発現抑制、情報伝達経路特異的阻害を実施し、細胞死への影響を評価する。
|
Causes of Carryover |
申請者の所属機関または所属研究室が保有する共同使用機器や試薬・物品が利用でき、且つ実験協力者の援助により、当初の実験計画において実験法の条件検討が必要と予想された項目が速やかに構築されたため、次年度使用額が生じた。今年度は実験動物購入・飼育費、培養細胞関連物品、圧負荷装置作製費用、細胞死関連試薬等に使用する予定である。
|