2016 Fiscal Year Research-status Report
胃がん発症におけるピロリ菌CagAとEBウイルスの機能連関
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16K08773
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
紙谷 尚子 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 講師 (40279352)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヘリコバクター・ピロリ / CagA / 胃がん / Epstein-Barr ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
少なくとも日本では、ほぼ全ての胃がんはcagA陽性ヘリコバクター・ピロリ(cagA陽性ピロリ菌)感染を背景として発症する。ピロリ菌の菌体内で産生されたCagAタンパク質は胃上皮細胞内に侵入した後、宿主細胞のキナーゼによりチロシンリン酸化される。CagAはチロシンリン酸化依存的にSHP2に結合し、そのホスファターゼ活性を異常活性化する結果、細胞増殖を脱制御する。先行研究から、ピロリ菌感染を基盤とする発がんにおいて、CagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性が重要な役割を担うことが示されている。CagAの標的分子であるSHP2にはSHP1というホモログが存在するが、胃上皮細胞におけるSHP1の役割は不明であった。 本研究では、ヒト胃上皮細胞由来のAGS細胞にCagAとSHP1を共発現させると、CagAのチロシンリン酸化レベルが低下することを見出した。一方、SHP1特異的siRNAを導入したAGS細胞では、CagAのチロシンリン酸化レベルが上昇した。これらの結果は、SHP1がCagAのチロシン脱リン酸化を担うホスファターゼである可能性を強く示唆している。そこで、SHP1が直接的にCagAを脱リン酸化する可能性を検討するため、大腸菌を利用してSHP1およびチロシンリン酸化CagAの組換えタンパク質を作製した。精製した組換えタンパク質を用いてin vitroホスファターゼ試験を行った結果、CagAがSHP1の基質であることを明らかにした。尚、SHP2についてもホスファターゼ試験を試行したが、SHP2はCagAを脱リン酸化しなかった。さらに、細胞形態変化を指標とした解析を行い、SHP1がCagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性を抑制することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度においては、ピロリ菌CagAとSHP1の関係性に着目して研究を進めた。SHP1はSHP2のホモログであることから、従来、CagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性においてSHP1とSHP2が協調的に機能すると考えられていた。しかしながら、申請者が得た実験結果は、SHP1がCagAのチロシン脱リン酸化を担うホスファターゼである可能性を示唆するものであった。つまり、SHP1はCagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性を抑制することが示唆された。そこで本研究課題では、従来の認識と相反する仮説を立て、CagAに対するSHP1の機能の解明を目指した。本年度における特に重要な研究成果は、SHP1が直接的にCagAを脱リン酸化することを明らかにしたことである。さらに、ヒト胃上皮細胞由来のAGS細胞を用いた解析を行い、SHP1がCagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性を抑制することを見出した。従って、研究実施計画通りに研究が進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は先行研究において、ヒト胃上皮細胞由来のMKN7細胞にin vitroでEpstein-Barr (EB)ウイルスを感染させると、SHP1をコードするPTPN6遺伝子のプロモーターがメチル化されることを見出している。本研究では、他の胃上皮細胞株(MKN28細胞、MKN74細胞等)についてもEBウイルス感染の効果を検討するため、EBウイルス感染細胞株を樹立する。複数種のEBウイルス感染細胞においてPTPN6遺伝子のプロモーターがメチル化されるか否かを解析することに加え、タンパク質レベルでもSHP1の発現が抑制される可能性を検討する。さらに、EBウイルス感染細胞にcagA陽性ピロリ菌を共感染させ、EBウイルスがCagAのチロシンリン酸化依存的な生物活性に与える効果を解析する。 EBウイルス陽性胃がんでは、ゲノムDNAに高度のメチル化が生じることが知られている。一方、ピロリ菌CagAはチロシンリン酸化依存的・非依存的に種々の細胞内標的分子と特異的に結合し、複数の細胞内シグナルを脱制御することが報告されている。これらの事実は、EBウイルス感染細胞では、SHP1以外のCagA関連遺伝子においてもメチル化が誘導される可能性を示唆している。そこで本研究では、作製したEBウイルス感染細胞株におけるDNAメチル化をゲノムワイドに解析する。新たな候補遺伝子(仮に遺伝子Xとする)を見出した場合には、EBウイルスによる遺伝子Xの発現抑制がピロリ菌CagAの生物活性に与える効果についても研究を展開する。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] The enhanced expression of PKM2 is involved in the gastric cancer development via regulating cancer specific metabolism.2017
Author(s)
Shiroki, T., Yokoyama, M., Tanuma, N., Maejima, R., Tamai, K., Yamaguchi, K., Oikawa, T., Noguchi, T., Miura, K., Fujiya, T., Shima, H., Sato, I., Murata-Kamiya, N., Hatakeyama, M., Iijima, K., Shimosegawa, T., Satoh, K.
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Journal Title
Cancer Science
Volume: 108
Pages: 931-940
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] CEACAM6 is upregulated by Helicobacter pylori CagA and is a biomarker for early gastric cancer.2016
Author(s)
Roy, R.K., Hoppe, M.M., Srivastava, S., Samanta, A., Sharma, N., Tan, K.T., Yang, H., Voon, D.C., Pang, B., Teh, M., Murata-Kamiya, N., Hatakeyama, M., Chang, Y.T., Young, W.P., Ito, Y., Ho, K.Y., Tan, P., Soong, R., Koeffler, P.H., Yeoh, K.G., Jeyasekharan, A.D.
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Journal Title
Oncotarget
Volume: 7
Pages: 55290-55301
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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