2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K08786
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
阿部 章夫 北里大学, 感染制御科学府, 教授 (50184205)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | III型分泌装置 / ボルデテラ属細菌 / 百日咳菌 / 気管支敗血症菌 / エフェクター / BspR / 核移行シグナル |
Outline of Annual Research Achievements |
百日咳菌ならびに気管支敗血症菌は,III型分泌装置を介してエフェクターとよばれる病原因子を宿主細胞内に注入する。これら病原菌のエフェクターは気道への長期定着に関与しているが,その機能については不明である。これまで申請者は,BspRと命名した因子がIII型分泌装置によって宿主細胞内に移行するとともに菌体内ではIII型分泌装置の発現を負に制御していることを明らかにしてきた。宿主内ならびに菌体内でのBspRの機能を精査することで,感染動態における役割を明らかにすることが本研究の目的である。 BspRの宿主移行能と病原性との関連をより詳細に解析するために,N末端側に赤色蛍光タンパク質mCherryを挿入することで宿主細胞内に移行できないBspR変異体を作製した。この変異株のフェノタイプについてBspR野生株と比較したところ,BspRが菌体内に局在することで,本来の負の制御因子としての効果が増強された。以上の結果,BspRが菌体外に分泌されるという現象は,III型分泌装置をコードする遺伝子発現のファインチューニングに関与していることが強く示唆された。 一方,BspRの核移行シグナルは,N末端の1-60アミノ酸残基に存在することを明らかにしてきた。BspRのN末端側について欠損変異を作製しBspRの宿主移行能を評価した結果,1-41アミノ酸残基の欠失でBspRの核移行が著しく低下した。BspRの菌体外分泌に必要なシグナル配列は1-54アミノ酸残基であることを既に明らかにしているが,菌体外分泌と核移行に必要なシグナルはともにN末端側に局在していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BspRの核移行シグナルについてはN末端側に限局することができたので,概ね順調に進捗している。一方,BspRの宿主移行能と病原性の関連を精査するために,宿主移行能が欠失したBspRを作製した。しかし,BspRは菌体内において負の制御因子として機能しており,宿主移行能を欠くBspRは,III型分泌装置の発現を著しく抑制していた。このため,作製したBspR変異はBteA(貪食作用の阻害と細胞傷害の誘導に関与するエフェクター)の発現をも抑制することになり,細胞内移行に欠失をもつBspRについて,純粋に評価することができないという結論に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
BspRの宿主移行能と病原性との関連を解析するために,N末端側にmCherryを挿入することで宿主細胞内に移行できないBspR変異体を作製した。しかしこの変異体は,他のエフェクターの細胞内移行にも影響をおよぼすことが明らかとなった。一方,BspRの核移行シグナルはN末端側に局在していることが明らかとなり,今後,N末端側の欠失変異体,アミノ酸点変異等の挿入により,核移行シグナルについての更なる情報が得られると予想される。もし,BspRの菌体外分泌と核移行のシグナルが分離可能であれば,核移行シグナルのみを欠失した変異体の作製が可能となる。これにより,菌体外分泌はBspR野生株と同じ表現型を示すので,III型分泌装置の抑制効果を排除できると考えられる。BspR野生株は細胞の核内に移行する性質をもつので,核内での機能発現が予想される。核移行シグナルの欠失変異体とBspR野生株を用いて感染実験を行うことで,BspRの核内移行が病原性に関与するのかを調べることが可能である。 また,N末端にmCherryが挿入されたBspR変異体は,BspR野生株と比較して,III型分泌装置の抑制効果が強いものの,本来の負の制御因子としての機能は保持していた。mCherryは赤色蛍光タンパク質であるので菌体内でのBspRの動態を1分子蛍光イメージング法にて解析することが可能である。BspRはIII型分泌装置の発現を負に制御するとともに,III型分泌装置によって菌体外に分泌されることでフィードバック制御が働いていると予想される。可視化できるBspRを利用することでBspRの機能をさらに精査する予定である。
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