2016 Fiscal Year Research-status Report
がん分子標的薬の代謝動態特性と感受性の個人差要因解明に基づく個別化投与設計
Project/Area Number |
16K08902
|
Research Institution | Asahikawa Medical College |
Principal Investigator |
福土 将秀 旭川医科大学, 医学部, 准教授 (60437233)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | がん分子標的薬 / 薬物動態 / 代謝物 / 薬剤感受性 / 個別化投与設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、がん分子標的薬の代謝動態特性と感受性の個人差要因の解明を目的に、初年度では臨床研究を中心に実施した。腎細胞がんに対して広く用いられている経口分子標的薬であるパゾパニブ(PAZ)とアキシチニブ(AXI)の薬物動態について、入院または外来治療で導入となった患者(PAZ 7名、AXI 11名)を対象に、LC-MS/MSシステムを用いて薬物血中濃度モニタリング(TDM)を実施した。また、AXIの代謝物であるグルクロン酸抱合体(m/z 563→387)についても同時に評価した。その結果、PAZに関して、標準投与量(800 mg/day)より少ない用量の600 mg/dayから治療を開始されていたにも拘わらず、定常状態の血中濃度推移が高値(Cmin >40 μg/mL)となり、肝機能障害や皮疹、倦怠感のために減量または休薬されるケースが多く認められた。一方、PAZトラフ値(>20.5 μg/mL)が臨床効果と関連することが報告されていることより、食事や薬物相互作用によるPAZ血中濃度の変動が、TDMによって適切に対処可能な症例も存在した。また、AXI血中濃度に関して、吸収相の血中濃度の個人差が大きく(>50倍)、顕著な個体内変動も認められた。親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)モードを用いたタンデム質量分析によって、AXIの未変化体とグルクロン酸抱合体のピークの良好な分離が得られた。また、代謝物/未変化体のピーク面積比が大きい症例では、AXI血中濃度が上昇しづらいことが判明し、より積極的なdose titrationの必要性が示唆された。 以上の研究成果は、腎細胞がんに対するPAZおよびAXIの臨床薬物動態を把握する上で有用な知見を提供するものであり、特にTDMを利用した個別化投与設計の有用性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画の一つである、がん分子標的薬の代謝動態特性に関する検討を進め、腎細胞がん治療薬パゾパニブとアキシチニブについて一定の研究成果が得られた。現在、大腸がん治療薬レゴラフェニブの代謝物プロファイルについても同様に評価しているところであり、薬物動態の個体間変動要因についてのデータを集積しているところである。一方、がん分子標的薬に対する感受性の個人差要因の解明を目指して、ヒト肝芽腫細胞株HepG2を用いた耐性細胞亜株の作成を既に終了している。また、抗がん薬の多剤耐性に関与する蛋白質(P-糖蛋白質、乳癌耐性蛋白質)とそれらの糖鎖付加に関わると想定される分子についても解析を進めている状況である。 以上より、平成28年度の進捗状況は、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策: 平成29年度は、初年度に実施した臨床研究を継続・推進する一方で、がん分子標的薬に対する耐性獲得機序の解明を目指した基礎研究を中心に行う。具体的には、アキシチニブとレゴラフェニブの代謝物プロファイルの個体間変動要因として、CYP/UGT代謝酵素の遺伝子多型の潜在的影響を明らかにすることを目的に、genotypedヒト肝臓ミクロソームを用いた検討を実施する。さらに、蛋白質のN結合型糖鎖付加を媒介するリボフォリンに着目し、遺伝子ノックダウンによるP-糖蛋白質(P-gp)および乳癌耐性蛋白質(BCRP)の発現・機能に対する影響を調べる。
研究費の使用計画: 【設備備品費】本研究計画を遂行するに当たり、必要な分析装置や実験機器は現有設備を使用するため、新たに設備備品を購入する予定はない。【消耗品費】がん分子標的薬と代謝物の標品(カスタム合成)や細胞毒性評価のための試薬類の購入、代謝物プロファイリング、遺伝子発現解析および蛋白質発現解析に使用する。【旅費】関連分野における新知見等の資料収集及び研究成果発表のための旅費に使用する。【謝金等】本研究計画を遂行するに当たり、必要な謝金等はない。【その他】研究成果の学術誌への投稿料及び英文校正料に使用する。
|
Causes of Carryover |
外部研究資金(助成金等)の調達方法の工夫などにより、当初の計画より経費の節約ができたため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
未使用額は、次年度の細胞を用いた遺伝子解析、蛋白発現・機能解析等に充てる計画である。
|
Research Products
(4 results)