2016 Fiscal Year Research-status Report
放射線治療によるがん細胞の高転移能獲得におけるTRPV1チャネルの役割の解明
Project/Area Number |
16K08920
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
月本 光俊 東京理科大学, 薬学部薬学科, 講師 (70434040)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放射線治療 / がん転移 / TRPV1チャネル / 肺がん細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線治療は、QOLが高い有効ながん治療法であるが、治療期間の後半では、残存したがん細胞が加速再増殖による治療抵抗性や高転移性などの高悪性度プロファイルを獲得してしまう。再発や転移を防止し、がんを根治させるためには、この高悪性度プロファイル獲得メカニズムを解明し、その鍵となる分子の阻害薬を創出することが望まれるが、未だそのメカニズムは明らかでない。本研究では、TRPV1チャネルに着目し、γ線照射によるがん細胞の上皮間葉転換誘導による運動能亢進機序を解析し、放射線によるがん細胞の高転移能獲得メカニズムを明らかにすることを目的とする。 平成28年度は、ヒト肺がん細胞においてγ線による上皮間葉転換(EMT)様変化の解析系を確立し、それらに対するTRPV1チャネル活性化薬・阻害薬、TRPV1チャネルノックダウンの影響を検討した。その結果、γ線照射細胞において紡錘状の細胞形態変化、細胞骨格形成、細胞遊走能亢進が認められ、EMT様の変化が認められた。このEMT様変化に対し、TRPV1チャネル阻害薬の効果を検討した結果、細胞骨格形成および細胞遊走能亢進は顕著に抑制された。さらに、siRNA遺伝子導入によるTRPV1チャネルのノックダウンによっても細胞骨格形成および細胞遊走能亢進は抑制された。以上、本年度の検討により、ヒト肺がんA549細胞においてγ線照射後のEMT様の形態的・機能的変化にTRPV1チャネルの関与を明らかにすることができた。 次年度は、γ線照射細胞におけるTRPV1チャネルを介したEMT誘導メカニズムの詳細を解析し、マウスがん転移モデルを用いた放射線誘発転移能亢進へのTRPV1チャネル関与の検討についても検討を始める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の実験計画は、まずヒト肺がん細胞A549にγ線(137Cs線源:0.80 Gy/min)を照射し、γ線による上皮間葉転換(EMT)様変化の解析系を確立し、それらに対するTRPV1チャネル活性化薬・阻害薬、TRPV1チャネルノックダウンの影響を明らかにすることであった。 A549細胞にγ線を照射し、核内DNA損傷をγH2AX focus形成の蛍光免疫染色法により、細胞生存率の変化をコロニー形成法により解析した結果、線量依存的なDNA損傷増加と細胞生存率減少が認められ、2 Gy照射では20%程度の細胞障害が認められた。また、細胞へγ線(2 Gy)照射後、紡錘状への細胞形態変化が観察された。細胞骨格の形成をローダミン・ファロイジン染色により蛍光顕微鏡観察を行った結果、照射24-48時間後にアクチンストレスファイバーの形成が認められた。また、Transwellチャンバーアッセイにより細胞遊走能を検討した結果、2 Gyをピークに細胞遊走能の亢進が認められた。これらの結果から、照射A549細胞において細胞形態変化、細胞骨格変化、細胞遊走能の亢進といったEMT様の変化が認められた。 そこで、照射細胞のEMT様の変化に対するTRPV1阻害薬の効果を検討した。カプサゼピン, AMG9810, SB366791, BCTCを前処置し、γ線照射した結果、細胞遊走能の亢進、細胞骨格変化が抑制された。一方、TRPV1チャネル活性化薬カプサイシンの処置により細胞遊走能亢進、細胞骨格変化が認められた。さらにTRPV1チャネルの関与を明らかにするため、siRNAによるTRPV1チャネルのノックダウンを行った結果、γ線照射誘発細胞遊走能亢進と細胞骨格変化が減弱した。これらの結果からγ線照射A549細胞での細胞骨格変化および細胞遊走能の亢進にTRPV1チャネルの関与が明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度では、前年度のまとめとともに、マウスin vivoがん転移モデルを用い、実際に放射線によるがん細胞の転移能亢進にTRPV1チャネルが関与しているかについて検討する。一方で、TRPV1チャネルによるEMT誘導のメカニズムを詳細に解析し、照射後のTRPV1依存的な細胞内シグナル・遺伝子発現変化を解析する。TGF-β1シグナルとの関連性や他のTRPVサブタイプの関与の可能性についても検討する。 1.マウスがん転移モデルを用いた放射線誘発転移能亢進へのTRPV1チャネル関与の検討 マウス悪性黒色腫B16細胞においてγ線照射による運動能亢進とTRPV1チャネル阻害薬による抑制効果をin vitro実験で検討する。in vivo転移モデル確立のため、B16細胞をC57BL/6マウスに尾静脈内注入(同種同系移植)し、約2週間後に肺を摘出、肺に生着したB16細胞由来の黒色コロニー数を計測する。γ線照射細胞と非照射細胞を尾静脈内注入し、照射有無による肺生着数の変化を検討する。TRPV1チャネル阻害薬を細胞に前処置し、γ線照射後、尾静脈内注入により移植する。TRPV1阻害薬による照射細胞の肺生着数変化を解析する。 2.γ線照射細胞におけるTRPV1チャネルを介したEMT誘導メカニズムの解明 1.γ線照射によるEMT前後でのTRPV1チャネル発現変化と局在変化の解析、2.γ線照射細胞におけるTRPV1チャネル依存的Ca(2+)透過性亢進の解析、 3.γ線誘発EMT誘導におけるTGF-β1シグナルとTRPV1チャネルとの関連性の検討、 4.γ線照射細胞におけるTRPV1依存的細胞内シグナル・遺伝子発現変化の網羅的解析
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Causes of Carryover |
28年度の研究は予定通りに進行し、およそ当初の計画通りの使用額となったが、残額が2995円となり、必要な実験試薬の購入価格よりも少なくなってしまったため、29年度の予算と合算し、実験試薬の購入を行う予定である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度に次年度予算と合算し、実験試薬である蛍光標識ファロイジン(約5万円)の購入費用に充てる予定である。
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