2016 Fiscal Year Research-status Report
癌診断と再発リスク評価における尿中ジアセチルスペルミンの新たな臨床的意義
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16K08957
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science |
Principal Investigator |
平松 恭子 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 主席研究員 (80181189)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川喜田 正夫 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 研究員 (00012740)
遠藤 典子 (岩田典子) 公益財団法人東京都医学総合研究所, 生体分子先端研究分野, 研究員 (80546630)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジアセチルスペルミン / 腫瘍マーカー / 尿検査 / 大腸癌 / 小児癌 / 治療効果判定 |
Outline of Annual Research Achievements |
尿中ジアセチルスペルミン(DiAcSpm)は、早期の大腸癌、乳癌等に対して高い癌検出能を示し、非侵襲的で被験者に苦痛を与えない検査が可能な汎用腫瘍マーカーである。近年の研究を通じて我々は、DiAcSpmが肺癌の浸潤性と関連するほか、大腸癌、肺癌等において、再発リスク評価に役立つ可能性があることを見出した。我々は、各種の癌における尿中DiAcSpm測定の意義を解明し、DiAcSpm検査の臨床的意義を確立することを目的として研究を行った。 28年度には、既存検体を用いて大腸癌の予後予測における術前腫瘍マーカー値の意義について検討し、大腸癌患者の早期再発リスクがDiAcSpm、CEAの両方低値群、一方高値群、両方高値群の間で有意に異なることを明らかにすることができた。 DiAcSpm値は、乳児期に極めて高く、成長過程で急速に減少する。28年度は、鼠径ヘルニア等の良性疾患小児の尿を多数採取し、年齢依存的な減少の実態を明らかにした。また、並行して収集を進めた小児癌患者尿の解析によって、悪性リンパ腫ではDiAcSpmが極めて高い値を示す症例の頻度が高いことを見出した。さらに、経過を追うことができた各種の小児癌症例でも、治療による変化が認められる例が多数あり、治療効果判定の指標としての有効性を期待させる傾向を認めた。 これらの研究と並行して、細胞、組織の悪性化とDiAcSpm上昇との関連を解明し、腫瘍マーカーとしての挙動の生理・生化学的基礎を明確にするための研究として、腸管腫瘍を多発するApc遺伝子ヘテロ欠損マウス(Minマウス)を用いた癌組織におけるDiAcSpm上昇の仕組みの研究を開始した。28年度は、デキストラン硫酸投与による大腸癌早期発生誘導モデルを確立した。現在、腫瘍形成の時間経過と腫瘍組織および隣接正常組織のDiAcSpm含量の変化の解明を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように、全体としては当初の計画に沿って研究が進展しており、有用な知見が得られているほか、今後の研究の方向性を示す予備的な結果が得られていると判断している。 各種の小児癌については、健常小児のDiAcSpm値が一般に高く、また、個人差も大きいことから、同一患者の継続観察が特に重要であると考えられるので、この点に特に留意して29年度の研究を進めたい。 小児癌、手術適応の膵臓癌の症例は比較的少なく、集積速度がやや遅いので、それを補う意味でも対象患者の検体を継続的に収集しそこから得られる情報の解析を入念に行う必要があると考えられる。 Apc遺伝子欠損Minマウスを利用した癌化とDiAcSpmの関連の研究については、マウスを自家繁殖によってヘテロ接合体の状態で維持していく必要があるため、半ば予期していたとおり、準備段階のコロニーの拡大にやや時間がかかった。そのため、本格的な解析は29年度以降の研究に期したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究がおおむね順調に進んでいることに鑑み、基本的には当初の計画に沿った方向で研究を進めようと考えている。 1.大腸癌、肺癌に関しては肺癌における手術前値と再発予後の関連の解析を行うとともに、大腸癌の再発、増悪例について、再発、増悪発見時における腫瘍マーカー値その他の臨床指標を精査し、再発検知の手段としてのDiAcSpmの有用性について検討する。 2.各種の小児癌および膵臓癌については、さらに症例の集積を進める。それとともに、比較的臨床経過、癌の進行が速い症例を中心に再発リスク評価や治療効果判定、再発・増悪検知における有用性の検討も開始する。 3.Minマウスを用いたデキストラン硫酸投与による大腸癌早期発生誘導モデルを利用して、癌化に伴う腫瘍組織のDiAcSpm含量の変化とDiAcSpm合成・分解系の酵素の発現、活性の変化などとの関連について詳細に検討する。ポリアミン量及び酵素活性の測定には、連携研究者の森谷が最近確立した方法、すなわち、各種の安定同位体標識ポリアミンを合成し、質量分析法で酵素活性を測定する手法を用いる。これは、直径数mmのマウス腸管腫瘍から得られる少量、且つ夾雑物の多い組織抽出液中の酵素活性を正確に測定するために最適の方法である。
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Causes of Carryover |
尿中DiAcSpmの測定に使用する生化学自動分析機の保守部品交換のタイミングが当初の見込みより若干遅くなる傾向があったため、一部が次年度に持ち越しとなった。また、膵臓癌、各種の小児癌の検体の集積の立ち上がりが予定より多少遅れたため、処理検体数が当初予定よりやや少なく、測定経費の一部が次年度に持ち越された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の通り、いずれも予定した経費が当初よりやや遅れて必要になる見込みのものであるため、29年度に当初の予算に従って執行される見通しである。 また、Apc遺伝子ヘテロ欠損マウスを用いた大腸癌モデルの解析についても、早期発癌実験系が確立されて29年度からは酵素活性その他の解析に入るため、前年度からの繰り越し分の一部を高価な基質等の材料費として充当したいと考えている。
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