2016 Fiscal Year Research-status Report
疼痛性循環反応の可塑的変化に関する神経性機序の解明
Project/Area Number |
16K09006
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
渡邉 信博 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (00540311)
|
Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
|
Keywords | 骨格筋 / 疼痛 / 炎症 / 循環 / 交感神経 |
Outline of Annual Research Achievements |
肩こりや腰痛など筋骨格系の慢性症状は、多くの国民が抱える諸症状のひとつである。慢性痛患者は、起立性低血圧などの循環機能障害も抱えうることが報告されているが、慢性痛と循環機能障害との関連については明らかにされていない。本研究課題では痛みの慢性化に関わる炎症に着目し、骨格筋の炎症性疼痛により誘発される循環反応の可塑的変化とその神経性機序を解明することを目的とする。 平成28年度は、麻酔ラットを用いて骨格筋への押圧刺激により生じる心拍数の変化に対する炎症の影響を検討した。具体的には、ラットの下腿に起炎物質であるλ-カラギーナン溶液を実験前日に投与し、急性炎症を誘発した。押圧刺激は、直径6mmの刺激棒でラットの下腿を10N/cm2の強度で30秒間持続的に与えた。実験はイソフルラン麻酔下で行った。ラットを人工呼吸し、赤外線ランプおよび保温パッドを使用して、呼吸および体温を生理的範囲内に維持して実験を行った。心拍数は頸動脈に留置したカテーテルより記録した血圧波形をもとに算出した。 炎症を起こした下腿への押圧刺激により、心拍数は増加または減少した。下腿刺激前の心拍数が低い時に下腿を刺激すると心拍数が増加し、刺激前心拍数が高い時では心拍数が減少した。刺激前心拍数と押圧刺激による心拍数の変化との間には、負の相関が認められた。さらに炎症を起こしていない筋への刺激による心拍数の変化と比較すると、炎症筋への刺激で生じる心拍数の増加は増大していた。 心拍数変化に寄与する心臓自律神経についても検討した。心臓交感神経活動を外科的・薬理的に遮断したところ、下腿への押圧刺激で生じる心拍数の変化はほぼ消失した。一方、迷走神経を外科的に遮断した場合は、心拍数の変化が残存した。 以上の結果より、炎症を起こした骨格筋への押圧刺激で生じる心拍数増加の増大は、心臓交感神経活動の増加が増強したために生じたと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、骨格筋の炎症性疼痛により誘発される循環反応の可塑的変化とその神経性機序を解明することを目的とする。 平成28年度はまず、筋刺激により誘発される循環機能の変化が急性炎症により変化することを明らかにした。具体的には、起炎物質で炎症を誘発した下腿への押圧刺激で生じる心拍数増加が、非炎症下腿刺激による変化よりも大きいことを見出した。 さらに、骨格筋刺激による心拍数変化に対する心臓自律神経の寄与を検討した。その結果、炎症を起こした下腿への刺激では、心臓交感神経活動の増加が増強するために、心拍数増加が増大することを示唆する結果を得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は起炎物質投与後翌日に実験を行い、骨格筋押圧刺激による心拍数の増加が増大することを見出した。この時期の骨格筋は急性炎症を呈すると推察される。炎症が遷延し、慢性化した場合に自律神経応答がどのように変化するかを明らかにすることは、慢性痛患者が抱える自律神経症状の病態理解のためにも重要である。 平成29年度は同様の実験モデルを用い、炎症が進行する過程において、筋押圧刺激による心拍数変化の経時変化を調べる。具体的には、起炎物質投与から実験までの時間を変えて(例:3日、1週間、2週間)実験を行う。筋の炎症の過程は、筋の組織標本を作製・観察し、集積する白血球の種類を基に判断する。
|