2017 Fiscal Year Research-status Report
人体ファントム内線量計測に基づく日本の乳幼児CT被ばくの実態解明
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16K09014
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
川浦 稚代 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 講師 (60324422)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 啓輔 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 助教 (40469937)
今井 國治 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (20335053)
池田 充 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 教授 (50184437)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放射線防護 / 医療被ばく / 乳幼児CT / 人体ファントム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、放射線診断検査の中でも、比較的高線量被ばくを伴うX線CT検査を受診する日本人乳幼児の医療被ばくの実態を、人体ファントムを用いた実測評価に基づいて調査することを目的としている。平成29年度は、0.5歳児型人体ファントム(胸部)の作製を行い、人体内線量計測における自作ファントムの妥当性を検証した。また、画質と線量との関係解明のため、体内線量分布と画像ノイズ分布を測定評価し、両者が体型の違いによって大きく異なることを明らかにした。しかし、我々が評価している線量分布は、モンテカルロシミュレーション法を用いた線量推定値である。線量評価においてシミュレーション法は非常に簡便な方法であり、汎用性も高いが、ジオメトリの不確かさが誤差の要因となる。そこで本研究では、より実測に近い方法で被写体の線量分布を計測する方法を新たに開発した。具体的には、人体形状にカットしたpolyethylene terephthalate (PET)樹脂にX線を照射し、PET樹脂から発せられる微弱光を高感度冷却CCDカメラで直接観察するものである。従来、線量分布測定法としては、受光媒体にX線フィルムやガフクロミックフィルムを用いたフィルム法等が利用されてきたが、高額な専用の読み取り装置が必要であるうえ、ファントムに挟んで使用するため、エアギャップや密着不足による濃度ムラが問題となっていた。我々の開発した方法では、人体形状を模したPETファントムから線量に依存して発せられる微弱光をCCDカメラで直接撮影するため、専用の読み取り装置を必要とせず、比較的安価に、また、より直接的に被写体内の線量分布を測定・評価することが可能である。PET樹脂からの微弱光の輝度値と線量との間にはよい正の相関が見られ、輝度値から線量値への変換係数を求めることで、線量分布を推定することが可能であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、日本人型0.5歳児の体幹部を作製する予定であったが、予算の関係で、胸部ファントムのみの作製を行うこととした。前年度から予算内に収めるために、肋骨部分や肺の構造を単純化することを検討してきたが、人体内の線量をより正確に測定することが本研究の根幹であるため、可能な限り人体に近い構造になるようファントム構造を再検討した。その結果、体幹部をすべて作製するには本採択分の予算を大幅に超えることが予測された。ゆえに、本研究課題では、平成28年度に作製した頭頚部ファントムと今年度作製した胸部ファントムとを結合させた、日本人型0.5歳児頭胸部ファントムを完成させるところでファントムの作製を終えることとした。作製した頭胸部ファントム内部に市販のガラス線量計を65個設置し、頭胸部ファントム臓器線量計測システムを構築した。このシステムを各病院に持ち込み、日常的に最も多く選択されている頭部CT検査条件で、0.5歳児ファントムをスキャンしてもらい、各条件における臓器線量を測定した。作製した0.5歳児ファントムで測定した臓器線量は、欧米人体型を模した市販の乳児人体ファントム(0-1歳児)を用いて患者被ばく線量を実測評価している文献値と比較した。その結果、スキャン範囲内の臓器の線量は、本研究の実測値と文献値とで概ね一致した。よって、本研究で作製した人体ファントムを用いることで、年齢相応の被ばく評価が可能であることが示された。 一方、画質と線量の関係を調べるために、体内線量分布をより直接的に測定・評価可能な新しい線量分布計測システムを開発した。本システムによって測定された線量分布は、線量シミュレーション法による線量分布と概ね一致することを確認した。この線量分布計測システムは、乳幼児CT検査における線量と画質の関係解明に大いに役立つものと期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、作製した日本人型0.5歳児頭胸部ファントムを用いて、診断目的別およびCT装置の機種別に患者線量(臓器線量)と画質との関係を詳細に調査する。各病院のルーチン条件で撮影したファントム画像の画像ノイズは、研究分担者の今井が考案したガウス法とTop-Hat変換型ガウス法を利用したノイズマッピング法を用いて解析する。また、ファントム内部に金属製の治療具を模擬した金属棒を挿入し、研究分担者の今井が考案した金属アーチファクト評価法であるGumbel法を用いてアーチファクトの評価を行う。さらに、画像ノイズの軽減目的でCT装置に搭載されている逐次近似再構成法や、金属アーチファクト軽減が期待できるDual energy 撮影法の乳児CT検査における有効性評価を行う。 また、現在までの我々の調査によると、乳幼児CT検査で最も問題となるのは、治療後のフォローアップ時のCT被ばくである。乳児の場合、組織・臓器間のコントラストが付きにくいため、精査時とフォローアップ時で変化を見逃さないために、精査条件と同一条件で繰り返し撮影を行う傾向がある。しかし、精査条件は比較的に被ばく線量が高くなる傾向があるため、フォローアップ時には被ばく低減を考慮した撮影条件を設定すべきである。ところが、線量を低減させることで画質がどの程度低下するかは詳細に理解されていないため、検査の最適化が行われていないのが現状である。そこで本研究では、上記のような独自に考案した画質評価法と線量評価法を利用し、フォローアップ時のCT検査の最適化を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)次年度使用額が生じた理由は、当初年度末に他施設で予定していた調査・実験打ち合わせが、研究の進捗状況と打ち合わせ先の都合により取りやめになったため、平成29年度の研究費に未使用額が生じたが、研究計画に変更はなく、当初の予定通り実験計画を実施する予定である。 (使用計画)平成29年度に予定していた調査・実験打ち合わせを、研究の進捗状況に応じて平成30年度に実施する。
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