2017 Fiscal Year Research-status Report
血清トランス脂肪酸レベルと食物アレルギー発症の関係
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16K09074
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
浦島 充佳 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (80203602)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 食物アレルギー / 発症予防 / ランダム化臨床試験 / ミルク |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年11月より「食物アレルギー予防効果に関するランダム化臨床試験」を開始した。具体的には出生第1日目より、母乳のみの群(母乳が足りないときはミルクではなく、明治エレメンタルフォーミュラ:牛乳アレルギー児用の牛乳蛋白をアミノ酸乳に置き換えた治療用ミルクを加える:母乳栄養±アミノ酸乳)と母乳を主体にしつつも明治ほほえみを少量(生後1カ月未満では5ml 以上、それ以降1日40 ml以上)加える群(母乳栄養+少量ミルク)にランダムに振り分け、2歳健診時のアトピー感作ならびに2歳までの即時型食物アレルギーの発生頻度を比較する臨床試験である。平成28年5月で310例に達し、新規登録を終了した。中間解析において、5カ月時および2歳時の採血検査で、牛乳に対して明らかに母乳栄養+少量ミルク群の方が母乳栄養±アミノ酸乳群より牛乳に対する食物感作の程度が高かった(5か月時:P=0.0001, P=0.003)。二次エンドポイントの即時型食物アレルギーは(リスク比4.7, 95%信頼区間 2.5~8.7, P<0.0001)、アナフィラキシー型食物アレルギーは(リスク比7.0, 95%信頼区間 0.9~56.6, P=0.03)、即時型卵白アレルギー(リスク比4.1, 95%信頼区間 1.7~9.6, P=0.0005)、即時型牛乳アレルギー(リスク比14.2, 95%信頼区間 1.9~106.5, P=0.0005)、即時型小麦アレルギー(リスク比7.1, 95%信頼区間 0.9~57.0, P=0.03)、即時型ナッツ類などその他アレルギー(リスク比4.6, 95%信頼区間 1.0~20.8, P=0.03)、全ての即時型反応において同様に前者が後者より有意に多かった。一方、即時型牛乳アレルギーのリスク比に比べると、卵白を含め他の食材による即時型アレルギーのリスク比は低かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画上では当初400例以上必要と計算されたが、中間解析で既に有意差がついたため310例の段階で登録を終了した。上記の如く、生後6時間など早期に母乳に少量ではあってもミルクを加えることによって牛乳アレルギーが14倍に増えることが明らかになった。また、即時型は5倍、アナフィラキシー反応は7倍、卵は4倍、小麦は7倍など、牛乳以外の食品についても非特異的に即時型アレルギーのリスクを上げることが判った。逆に生後5日以降などにミルクを母乳に加えても、母乳と比べて食物アレルギーが増えるわけではないことが判明した。このことは、生後24時間など早期に異種蛋白を児が直接摂取することで感作を惹起し、後々即時型アレルギー反応を引き起こすという新しい概念につながった。今回の研究ではエビデンスとしては明確となったが、そのメカニズムがまだ不明であり、出生後5日間の腸内細菌叢の変化を追うなど次の研究につなげたいと考えている。今回の臨床試験結果の全データが6月中には出揃う予定なので、7月~8月中には論文投稿する。本研究の結果は「生後数日だけ完全母乳で栄養し、生後5日目以降などであればミルクを加えても食物アレルギーにはなり難い」という結論に至り、これは世界中で実践可能で、このことにより食物アレルギーの発症を劇的に抑制できるため、今回の研究実施の意義は極めて大きかったと自負するものである。また、当初の予定であったトランス脂肪酸測定は、血清濃度があまりにも低く測定限界以下となり断念した。その代り、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサペンタ塩酸等の脂肪酸を24種測定し、主研究を投稿したのち、統計解析・論文化に入る予定である。5か月、2歳時点での残血清を用いて、ビタミンD結合蛋白、PD-1, PD-L1, PD-L2をELISA で測定し、以下に述べる小項目1~3を平成30年度内に実施論文化する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
大項目;6月中にランダム化臨床試験のデータを固定する。エンドポイント評価委員会を開催し、アウトカムの評価について患者さんを診察していない小児科医に依頼する。7月~8月中に統計解析ならびに論文を作成し、投稿する。今回の研究コホートを有効利用して次の2次研究を実施する。小項目1;血清脂質の食物アレルギー発症への関与;今までアラキドン酸などの血清脂肪酸が食物アレルギー発症と関係するという論文や関係ないとする論文があり、定説はない状況である。今回の研究ではフォローアップ率が高く、食物アレルギーの診断も食物負荷試験を実施するなど、かなりしっかりしたものである(過去の論文では親の自己申告に頼っている場合も少なくない)。今回の研究コホートにより、この議論に終止符をうつ。小項目2;ビタミンDの食物アレルギー発症への関与;食物アレルギーは秋~冬に出生した児に多いことから、ビタミンDの関与が取りざたされてきた。しかし、この点についても一定の結論を得ていない。今回5か月と2歳時全例で25OHD を測定しており、食物アレルギーとの関係を明らかにする。また残血清を用いてビタミンD結合蛋白レベルをELISA で測定し、食物アレルギー発症との関係を明らかにする。小項目3;アウトグローのメカニズムの解明;気道過敏のマウスモデルにおいて、PD-L1 はIL4産生を促進しTh2 dominantの状態をつくりだす。PD-L2 はPD-L1 の逆である。一方、食物アレルギーにおけるPD-1, PD-L1, PD-L2の役割は一切報告がない。そこで残血清を用いて、PD-1, PD-L1, PD-L2など様々な因子を測定・探索し、アウトグロー(脱感作)のメカニズムが解明する。
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Causes of Carryover |
平成29年度計画内容;「小児において、血中トランス脂肪酸がアレルギー性疾患を惹起しているのではないか」との仮説検証を試みた。上記研究計画の準備段階として、成人男性の血液などを用いて、試験的にトランス脂肪酸測定を試みた。トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸のうち、二重結合のある炭素への結合が逆側にあるものの総称である。本研究では、そのうちの代表的なものとして、trans-9-octadecenoic methyl esterとtrans-9, 12-octadecedienoic methyl esterの濃度測定を行うこととした。測定方法としては、ガスクロマトグラフィーを用いた。しかし、標準物質を用いた検量線作成において、高濃度ではガスクロマトグラフィーにて検出がされるものの、ヒトの血中濃度に近い濃度になるとガスクロマトグラフィーにおいても検出することが困難であった。さらに、ヒトの血液をメチル化し、上記物質の測定を試みたが、検出をすることができなかった。メチル化の方法や、精製方法を複数種類試したが、それでも検出することができず、ヒト血清におけるトランス脂肪酸の測定は断念することとなり、本来使用予定だった金額が余ってしまった。平成30年度使用計画;小項目1 血清脂質の食物アレルギー発症への関与;小項目2 ビタミンDの食物アレルギー発症への関与;小項目3 アウトグローのメカニズムの解明
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