2017 Fiscal Year Research-status Report
麻疹流行株交代現象の解析―排除状態維持のためのウイルス伝播能力の分子基盤
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16K09112
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Research Institution | Nagahama Institute of Bio-Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 正恵 長浜バイオ大学, バイオサイエンス学部, 教授 (10201328)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 麻疹ウイルス / 遺伝子型 / ウイルス排出 / 個体間伝播 |
Outline of Annual Research Achievements |
麻疹ウイルスは、経気道的に侵入してリンパ球系細胞に感染し全身感染を起こした後、気管や尿管の上皮細胞で増殖し、内腔側へ感染性粒子を放出することにより体外へ出る。リンパ球での増殖能は体内伝播に、一方、上皮細胞での増殖は、個体間でのウイルスの伝播に関係していることが考えられる。本研究では、遺伝子型の異なるウイルスの上皮細胞での増殖の違いについて検討し、流行との関連を明らかにする目的で、1990年代に国内で流行したD3型と2000年以降中国から侵入して流行株として定着したH1型について比較を行っている。これまでに、D3型ウイルスを基に、H遺伝子とM遺伝子をH1型に置換した組換えウイルスを用いて、(1)これらのウイルスは、リンパ球系細胞B95aでは同程度の増殖を示したのに対し、HT29(ヒト結腸腺癌由来極性上皮細胞)やVero/SLAMなどの上皮細胞での増殖が大きく異なることを認め、(2)上皮細胞における増殖の差には、ウイルスの感染性粒子形成能ならびに細胞融合能のいずれもが関わっており、さらに(3)この違いは、M遺伝子よりむしろH遺伝子に依存していることを明らかにした。本年度はさらに、その分子メカニズムを探り、(4)細胞表面のH蛋白質量が遺伝子型によって大きく異なること、(5)H蛋白質の安定性あるいは輸送経路に違いがあるとの結果を得た。以上のことは、H蛋白質の違いがD3型とH1型の麻疹ウイルスの上皮系細胞での増殖を左右し、これが体外排出、ひいては個体間の感染と伝搬に影響を与える可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
D3型ウイルスを基に、H遺伝子とM遺伝子をH1型に置換した組換えウイルスを用い、リンパ球系細胞と上皮系細胞で異なる増殖を誘導する責任蛋白質がH蛋白質であることを示し、上皮系細胞で細胞表面のH蛋白質量が異なるためにウイルスの感染性粒子形成能と細胞融合能のいずれもが関わること、を明らかにしたが、一方で、その分子機序の解析が途上であり、(2)の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の研究を続けるとともに、(1)H蛋白質上で、安定性あるいは輸送経路の決定に関わるアミノ酸を同定し、(2)H蛋白質と複合体を形成するF蛋白質、H蛋白質の細胞内領域に結合して粒子形成を担うと同時にその輸送にも関わるM蛋白質、など他のウイルス蛋白質との相互作用を調べるなどして、分子機序を解析する。さらに、(3)上皮系細胞とリンパ球系細胞で異なる影響を及ぼす宿主細胞因子についても検索を進める。そして、(4)他の遺伝子型の麻疹ウイルスについて、上皮細胞での増殖を検討すると共に、H蛋白質構造についてD3型、H1型と比較することにより特徴を抽出し、上皮細胞での増殖を決定するメカニズムの解明を図る。
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Causes of Carryover |
(理由) 消費税の計算で誤差が生じたため。 (使用計画) 次年度の物品費に合算して使用する。
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Research Products
(4 results)