2016 Fiscal Year Research-status Report
地域レベルにおける医療の集積がアウトカム、医療資源利用に及ぼす影響
Project/Area Number |
16K09148
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
長谷川 友紀 東邦大学, 医学部, 教授 (10198723)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松本 邦愛 東邦大学, 医学部, 講師 (50288023)
藤田 茂 東邦大学, 医学部, 講師 (50366499)
瀬戸 加奈子 東邦大学, 医学部, 助教 (50537363)
北澤 健文 東邦大学, 医学部, 助教 (30453848)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 医療の質 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国では今後、地域医療構想策定等を通じて、地域医療資源の最適配分が図られる予定である。地域医療構想における機能別必要病床数の将来推計では、構想区域の人口高齢化が変数として用いられるのみであり、モデルとしては精緻さに欠ける。一方、個々の病院レベルでは、手術件数(operation volume)等の技術集積と、治療成績、在院日数等のアウトカムとの関係が明らかにされている。 例えば、1970年代後半にカリフォルニア大学のHaroldらは、1,498施設を対象とした研究において、開胸術、血管手術、経尿道的前立腺切除術等に関して、手術件数の多い施設において術後死亡率が低いことを報告している。研究代表者らはこれまでに、①患者調査データを用いて、消化器悪性腫瘍において手術件数が治療成績、在院日数に関係すること、②約140万件のDPCデータを用いて算出した患者安全指標(Patient Safety Indicators)に関する解析では、手術件数が術後重症合併症による死亡率と関係していること等を報告している。このように、病院を分析単位とした研究が報告されている一方、地域を対象として集積度と、治療結果、医療資源の有効利用等との関係について明らかにした研究は少ない。 本研究ではDPCデータを用いて、①手術技術度別に二次医療圏における集積度を算出するとともに、アウトカムとの関連を時系列解析することで、地域レベルで医療の技術集積がアウトカムに及ぼす影響を明らかにする、②地域医療構想において集積度を変数に用いることの有用性を検討する。これにより、今後、都道府県が策定する地域医療構想の検討に際して、モデルの精緻化を図るための基礎資料を示すことが期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
医療の集積度と健康水準、アウトカム、資源の効率利用との関係を明らかにしている研究を中心に、先行研究をレビューした他、データセットを整備し、2008~2013年のDPCデータから消化器手術の集積度と在院日数との関係を分析した。DPCデータは厚生労働省が公開している「DPC導入の影響評価に関する調査」結果を用いた。二次医療圏の構成自治体は2013年12月を基準として統一し、DPC病院が継続して複数存在する233圏域を分析対象とした。 分析対象の消化器手術は件数が多い順に選択し、内視鏡的ポリープ切除術、ヘルニア手術、内視鏡的胆道ステント留置術等、選択的動脈化学塞栓術、腹腔鏡下結腸悪性腫瘍切除術、腹腔鏡下虫垂切除術、腹腔鏡下胆嚢摘出術、内視鏡的粘膜下層剥離術、内視鏡的消化管止血術、胃切除術とした。このうち、ヘルニア手術、選択的動脈化学塞栓術、腹腔鏡下虫垂切除術、内視鏡的消化管止血術は、外科系学会社会保険委員会連合策定の外保連試案に基づき、低技術度手術に区分した。集積度、在院日数の時系列推移は回帰直線の傾きにより区分した。手術集積度の指標にはHHI(Herfindahl-Hirschman Index)を用いた。HHIは各病院の二次医療圏域における患者占有率の二乗値の総和であり、例えば圏域内で1病院が全手術を実施する場合、1.0(最大値)となる。 2008年から2013年にかけて、HHIと在院日数は共に低下傾向であった。低技術度の3手術(ヘルニア手術、腹腔鏡下虫垂切除術、内視鏡的消化管止血術)では、HHIが上昇傾向であった圏域において、在院日数の短縮幅が有意に大きかった。この結果は、高齢化、手術件数を調整したうえでも変わらなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
医療の集積度と健康水準、アウトカム、資源の効率利用との関係を明らかにしている研究を中心に、先行研究のレビューを継続する。 データ解析では、分析対象を循環器手術等にも拡大するため、データベースの整備を継続する。その際、官庁統計から入手できる圏域別医師数等、DPCデータ以外の圏域特性に関するデータも併せて追加する。拡張したデータベースを用いて、手術集積度と在院日数の関係性に関する解析を、横断的、縦断的分析の両視点からすすめる。特に、各圏域における経年変化に着目した分析では、過去の集積度の動向がその後の在院日数の変化にどのような影響を与えたかを明らかにする。解析に際しては、解析期間における医師数の変化や高齢化率の変化、手術件数等を交絡因子として考慮する。また、集積度の高値維持圏域と低値維持圏域におけるアウトカムの差異等についても明らかにする。
|
Causes of Carryover |
平成28年度は既存の情報処理機器で実施可能な分析を優先して実施した為、機器等の購入予算に未使用額が生じた。データの分析処理に使用するコンピュータをはじめとする情報処理機器の更新、周辺機器の購入等は平成29年度以降とする予定である。また、情報処理機器の更新に併せて、統計解析ソフトウェアの購入も予定している。なお、平成28年度中に得られた研究成果を平成29年度以降に国内外の学会において行う予定がある。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費は、コンピュータ等の情報処理機器とその周辺機器、その他研究の遂行に必要な物品の購入に支出する。また、旅費は国内外におけるヒアリング調査の他、研究成果の発表を国内外の学会で行う際等に支出する。
|