2017 Fiscal Year Research-status Report
モノからヒトへ伝播する院内感染を制御する方法の確立
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16K09183
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
林 俊治 北里大学, 医学部, 教授 (40260765)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 院内感染 / 医療設備の細菌汚染 / 医療機器の細菌汚染 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、医療設備および機器の細菌汚染によって起きる院内感染の調査を行い、その制御方法を確立することである。具体的には、各種の設備や機器の細菌汚染状況を調査し、それが院内感染の原因となる危険性の検討を行う。2017年度に調査を行った設備および器具は、医療施設の水道設備、無菌水作成装置、ジェット式手指乾燥機である。 日本の水道局から供給されている水道水は若干の細菌を含んでいる。しかし、医療施設で使用されている水道水がそれより多くの細菌を含んでいることがあった。さらに興味深いのは、低層階の水が比較的清潔であるのに対し、高層階の水が多くの細菌を含んでいた点である。その原因を調査したところ、低層階では水道局の水をそのまま使用するのに対し、高層階では屋上のタンクに水を貯め、それを使用するためであることが判明した。つまり、貯水タンクの汚染が水の汚染の原因になっており、タンクの管理の重要性を示唆する結果となった。 血液内科病棟などの無菌室では、免疫抑制状態の患者に供給する水を作るために、無菌水作成装置が使用されている。この装置は濾過および紫外線照射を用いることで水道水中の細菌を除去するものだが、濾過に用いるフィルターの交換を怠ると、装置自体が細菌に汚染されてしまい、水道水より多くの細菌を含む水を供給することが判明した。したがって、本装置の使用に際しては、厳しい保守管理が要求される。 手洗い後の濡れた手を乾かすための装置がジェット式手指乾燥機であり、多くの商業施設で使用されている。さらに、これを採用する医療施設も増えている。本装置は高速の気流を手に吹き付けることによって、手を乾かす。しかし、この気流には多くの細菌が含まれていた。これは空気の取り入れ口が装置の底面部にあり、床の埃を吸い上げて手に吹き付けているためと判明した。以上より、医療施設における本装置の使用は推奨できない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は異なる医療設備や機器を対象とする複数の小研究より構成されている。2017年度に調査を行った設備および機器は、医療施設の水道設備、無菌水作成装置、ジェット式手指乾燥機である。それぞれの進捗状況は以下のとおりである。 医療施設の水道設備の細菌汚染調査は既に終了している。さらに、汚染の原因が貯水タンクであることも判明している。この汚染が実際に院内感染の原因になっていること示す証拠は得られていないが、免疫抑制状態の患者を多数抱える医療施設にとっては危険であると思われる。次に、貯水タンクから菌を取り除く方法の検討を行わなくてはいけないのだが、飲用にも使う水を貯めるものであるため、人体にも有害な高レベル消毒薬を使うことができず、この問題の解決方法に関しては足踏み状態と言わざるを得ない。 血液内科病棟などの無菌室で使用される無菌水作成装置の細菌汚染調査は既に終了している。さらに、本装置を清潔に使用するためには、フィルターの交換などの保守点検が重要であることも判明している。しかし、具体的にどのくらいの頻度でフィルターの交換を行うべきかなど、問題解決に向けての方法の確立には至っていない。一方、日本の水道局が供給する水道水に含まれる細菌はわずかであり、このような装置が本当に必要かの検討もこれからの課題である。 ジェット式手指乾燥機の細菌汚染調査は既に終了している。この装置の汚染は医療スタッフおよび患者の手指衛生に大きな悪影響を与えている。さらに、この装置の細菌汚染がその構造上の問題に起因することも明らかになっている。ただし、この装置は医療用として開発されたものではないため、設計段階で衛生面の考慮が全くされていない。したがって、この装置の細菌汚染を防ぐことは難しい。以上の結果は、ジェット式手指乾燥機が医療施設で使うべきではない装置だということを示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、2016年度に、内視鏡洗浄消毒器、凍結血漿融解装置、医療用テープの細菌汚染調査を行い、それらによって院内感染が起きる危険性について解析を行った。さらに、2017年度に、医療施設の水道設備、無菌水作成装置、ジェット式手指乾燥機の調査を行った。 いずれの設備や機器についても、細菌汚染の詳細が明らかになり、汚染が起きるメカニズムもほぼ解明されている。しかし、その汚染をどのように制御し、院内感染の予防につなげればよいのかについての検討が不十分である。この制御法の確立が今後の最大の課題となる。そのためには、汚染機器の保守点検状況を再度精査し、どのような保守点検が汚染防止に有効なのかを明らかにしていかなくてはならない。さらに、その結果を各設備や機器の管理マニュアルという形にする必要がある。 既に細菌汚染調査を行った設備や機器の他にも、細菌の媒介者になる可能性のある機器の調査を行う予定である。具体的には、以下の調査を予定している。医療施設における大型設備としては、空調設備や給湯設備を調査する予定である。大型医療機械としては、眼科・耳鼻科・歯科の診療ユニットの調査を予定しており、現在、研究協力施設を探しているところである。特に、歯科診療ユニットは水の配管を多く持っており、この配管の汚染を重点的に調査する予定である。小型医療機器としては、駆血帯、血圧計のマンシェット、心電計の電極の細菌汚染の調査の準備を進めている。いずれも患者の皮膚に接する機器であるにもかかわらず、患者ごとの消毒は行われていない。したがって、これらを通じて患者の皮膚の間で細菌の伝播が起きる可能性がある。これらの小型機器に関しては、細菌汚染調査の他に、使用状況に関するアンケート調査も企画している。そのためには、倫理審査を受審する必要があり、現在、その準備中である。研究協力施設は既に十分な数を確保済みである。
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Causes of Carryover |
(理由)次年度使用額が「0円」になるように当該年度の支出を調整したが、完全には調整しきれず、わずかな額「216円」が次年度使用額として残ってしまった。
(使用計画)次年度使用額として残っているのは「216円」と少額であり、特定の目的でこの額を使うことは難しい。したがって、次年度の予算に混ぜる形で使用する計画である。
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Research Products
(10 results)