2018 Fiscal Year Research-status Report
ウィルス性胃腸炎の院内感染の現状分析と問題点の解析
Project/Area Number |
16K09185
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
鈴木 恭子 順天堂大学, 医学部, 助教 (50420857)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 感染性胃腸炎 / ノロウイルス / ロタウイルス / マルチプレックスPCR法 / 病原微生物解析 / 二酸化塩素ガス / 二酸化塩素ガス濃度 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度冬季(2018年10月~2019年3月)に本研究を施行した病院の地域はウイルス性胃腸炎が例年に比べて非常に流行が少なく、これは全国的に見ても同じ結果だった。本研究で用いる病原微生物の解析法はマルチプレックスPCR法(定量タイプ)だが、既存の迅速検査や培養検査よりも感度・特異度が高く、総合的に見て診断法としては有用であった。しかし一部の病原微生物(サルモネラ菌)に関しまだ特異度が他の検査結果(培養検査)と一致せず、マルチプレックスPCRを製造する過程のテクニカルな問題と考えた。今後の開発が望まれる。 3年間の調査結果では例年ノロウイルスは10月~1月に流行し、小児の罹患者の年齢0歳から14歳まで幅広く分布していた。一方ロタウイルスは2~4月に流行し、発症年齢が1歳以上であった。2011年からロタウイルスワクチンが導入され次第に普及したため0歳児の罹患が大幅に減ったと考えられ、ワクチン導入の効果と考える。ロタウイルスは年長児の罹患が目立つ結果だった。 今シーズンは病室内の二酸化塩素濃度測定を積極的に行い、二酸化塩素ガス放出剤を使用した空間での二酸化塩素ガス濃度測定や副反応などを検討した。二酸化塩素ガスの特性である空気より比重が重く空気中に放出後空中浮遊をしたのちに床上へ降りる性質を利用し、今回二酸化塩素ガス放出ゲル剤は病室の上方へ設置した。生活空間を想定し居住空間を利用した二酸化塩素ガス濃度の結果をもとに病床面積当たりの放出ゲル剤の設置個数を決定したが、想定よりも二酸化塩素ガス濃度が上がらなかった。原因としては居住空間よりも院内の病室は人の出入りに伴う扉の開閉頻度が高く空気の入れ替わりが激しいこと、室内の人口密度が居住空間よりも高いため二酸化塩素ガスが皮膚や毛髪など有機物に反応して分解する率が高いことが挙げられる。 調査期間中の二酸化塩素ガスによる副反応は認めなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
3年間の調査を行ったが、冬季に流行する感染性胃腸炎がシーズンにより流行具合が異なり、入院患者数がシーズンにより大幅に差がでた(2016/17シーズン:28例、2017/18シーズン:9例、2018/19シーズン:0例)。 病原微生物の解析をマルチプレックスPCR法(定量)を用いたが、既存の検査法よりも感度・特異度ともに上回る結果であった。現在マルチプレックスPCR法はがん遺伝子パネルや呼吸器や性病の原因微生物解析に使われ始めている。この3シーズンで解析した検体数は37検体と少なくはあるが、既存の検査法では陰性でマルチプレックスPCR法では陽性であった原因微生物があり(ノロウイルス)、冬季に流行する感染性胃腸炎の解析法として有用であった(11例中、迅速検査陽性例5例、PCR陽性例11例)。 二酸化塩素ガス測定はおおむね順調に行われた。濃度測定の結果、二酸化塩素ガス濃度が想定よりも上がらなかった。二酸化塩素ガス濃度は室温や湿度、室内の照度などの影響を受けることが知られている。病室内は室温・湿度はほぼ一定に管理されているが、明るさは建築条件により日光照射に差がでる。病室内の照度測定は今後検討課題と考える。 二酸化塩素ガス放出ゲル剤設置における副反応はみられなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
3シーズン目は全国的に冬季の胃腸炎の流行が非常に低かったため、検体数が思うように集まらなかった。しかし3シーズンを通じて病原微生物の解析を行った結果、マルチプレックスPCR法は感染性胃腸炎において既存の検査法よりも有用であった。感染性胃腸炎は一般病院では診察する頻度も高いことから、今後マルチプレックスPCRの普及を進めることにより早期診断ができ、集団感染の発症を最小限に防止する解決策の一つと考える。 二酸化塩素ガスによる空間洗浄については、二酸化塩素ガスの分解因子(室内の照度、室温、湿度)の計測も必要と思われる。 ノロウイルスは空気感染・粉塵感染が知られており、冬季の集団感染の原因微生物として有名である。現在医療機関などで使用されている次亜塩素酸は空間洗浄が出来ないことに加え、使用後の残留塩素という課題があるが、二酸化塩素ガスは次亜塩素酸と異なり空気中に舞う粉塵に対し消毒効果を発揮するため、アルコール消毒が無効であるノロウイルスなどの空気洗浄に一定の効果が得られると想定されるが、ウイルス自体を直接検出することが今の科学技術では出来ないため、実空間と同じ状況を試験的に作り出すことが難しい。しかしインフルエンザウイルスなどは実験空間で実験が行われていることから、ノロウイルスが扱える実験空間を作るような方法の開発が必要と考える。 今後はこうした実験空間の開発と、二酸化塩素ガスをより簡易に、そして一定したガス放出が行われる製品の開発を行いたい。
|
Causes of Carryover |
2シーズン目(2017/18シーズン)、3シーズン目(2018/19シーズン)が感染性胃腸炎の流行が少なく、特に3シーズン目は極端に少なかった。このため検体数が想定よりも大幅に下回り、検体解析費(検査費用)が大幅に浮いたことが大きな原因と考える。 流行性疾患は予測することが難しいが、4シーズン目の流行状況を踏まえ、検体採取時期の見直しを行いたい。 検体数は少ないが、感染性胃腸炎に対する病原体解析としてマルチプレックスPCR法を用いて行ったことは一つの成果であり、3シーズン目は学会発表(口演)を4回行った。4シーズン目も研究を施行しながら結果をまとめ発表する予定である。
|