2017 Fiscal Year Research-status Report
脳卒中リハビリテーション患者の回復プロセスに基づく評価システムと有効性の検討
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16K09193
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Research Institution | Kibi International University |
Principal Investigator |
平上 二九三 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (60278976)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 圭介 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (20325913)
原田 和宏 吉備国際大学, 保健医療福祉学部, 教授 (80449892)
井上 優 吉備国際大学, 保健福祉研究所, 準研究員 (90726697)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 重度脳卒中 / 回復期リハビリテーション / アウトカム評価 / プロセス評価 / 学術的チームアプローチ / 協働的意思決定 / 早期退院 |
Outline of Annual Research Achievements |
回復期リハビリテーション(以下リハ)病棟の今日的な課題は、アウトカム評価に加えて、多職種で協働したプロセス評価が必須となったことである。特に脳卒中患者の入院日数を短縮するためには、最も効率的なリハシステムを構築し、できるだけ早期退院につながる効果的なマネジメントに洗練しなければならない。 先行研究をみると目標設定については多くの報告があるものの、介入方針に言及した文献は見あたらない。これからのリハ提供には「目標」と「方針」をセットにしたチームマネジメントが欠かせない。脳卒中患者の多くが複合的な問題を抱えていることから、医療者側と患者側が情報共有し、介入方針(介入ポイント)に同意するステップを踏み、目標設定について合意に達するプロセス(Shared decision making)が不可欠になる。 本研究では、多職種協働(Interdisciplinary teamwork, IDT)による新しい包括的な合同評価システムを構築した。その上で回復期前期1ヵ月を3相に分けた脳卒中リハのプロセス評価システムを構築し実践してきた。 この研究からIDTアプローチが、高齢かつ重度な脳卒中患者のために効率的なリハ提供になることを見出した。また包括的な合同評価と介入ポイントに基づく集中リハにより、1ヵ月後のFIM(Functional Independence Measure)得点が改善することが分かった。このことは従来、重度脳卒中患者のADL(Activities of Daily Living)改善が乏しいという報告と対照的であった。さらに入棟時の運動および認知FIM得点、半側空間無視と内科疾患の合併の有無、年齢から1ヵ月後のFIM得点を予測できることを明らかにした。 これらの結果は、我々が構築したIDTによる脳卒中リハのアウトカム評価とプロセス評価システムの有効性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重度脳卒中患者は、ADLの改善が乏しいことが知られている。本研究では高齢の重度脳卒中患者のためのIDTによる回復期リハのプロセス評価システムを構築し、その有効性を後方視的に検討した。 O県内一ヵ所の回復期リハ病棟へ2012年4月から2016年12月までに入棟し、IDTによる包括的な合同評価とアウトカム評価を行った初発一側脳病変の脳出血と脳梗塞の患者を分析対象とした。プロセス評価は3相に分け、Ⅰ相;0~1週:包括的な合同評価、Ⅱ相;2~4週:集中リハ、Ⅲ相;4週:アウトカム評価とした。分析は1ヵ月後の運動FIM効率で高効率群(0.19以上)と低効率群(0.19未満)に分け退院時の状態を検討し、また入棟時の患者所見から1ヵ月後のFIM得点の予測式を作成した。 212人中50名が重度脳卒中(運動FIM36点以下)で平均年齢は79歳であった。1ヵ月後のFIM総得点と運動および認知FIM得点は有意な改善を示した。FIM総得点は35点から49点に増加し、これには運動FIMの20点から32点の増加が起因していた。また入棟時の運動FIMは低効率群より高効率群が有意に高く、高効率群では自宅復帰率が有意に高かった(44% vs. 13%)。高効率群の運動FIMは入棟時より1ヵ月後が有意に高く、退院時と比べると有意差はなかった。対照的に低効率群の1ヵ月後の運動FIMは入棟時より有意に高く、退院時より有意に低かった。さらに低効率群では、高効率群よりも半側空間無視と重度の手指麻痺の患者が有意に多かった。 重回帰分析の結果では、入棟時の運動と認知FIM得点、半側空間無視と内科疾患の有無、および年齢が1ヵ月後のFIM総得点を予測した(決定係数=0.78)。 以上のことから、IDTによる重度脳卒中患者の回復プロセスに基づく評価システムの有効性が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の対象者は、急性期病院(平均入院日数30日)から転院し、回復期病棟に入院した患者であった。したがって急性期病院における発症後のリハ開始時期や訓練時間などのデータ結合が望まれる。また本研究は一医療機関における比較的少数例を対象として、独自の介入ポイントを中心としたIDTアプローチであった。今後は他施設による異なるアプローチの比較検討を行う。 日本のリハ医療の課題は、医療の質であるアウトカム評価とプロセス評価の確立、それに寄与するエビデンスの蓄積である。そのためには日本リハ医学会や回復期リハ病棟協会などの大規模データベースを活用した研究が必要である。今後は入棟時のFIM得点や年齢などをマッチさせた症例対照研究、また傾向スコアを用いたマッチングから、本研究のアプローチの有用性を検討する予定である。 29年度の研究成果では、重回帰分析の結果、重度脳卒中患者における回復期病棟入棟1ヵ月後の予測モデルを開発した。今後、同様に重度脳卒中患者の退院時の臨床予測ルールを検討する。CART分析を用いて退院時ADLに影響を与える因子の検討を試み、予後予測研究を行う。また29年度までは重度脳卒中患者のみに焦点をあててきたが、得られた結果が重度者のみに特徴的な要因なのか、あるいは軽症・中等症患者にも共通点があるのか否かを、データの追加と解析を行い検討する。 これまでの臨床実践を基に、IDTで患者家族とともに介入ポイントを特定し、目標を設定する評価法について解説した臨床実践ガイドを作成する。介入ポイントの見つけ方とその手順、そして回復期前期のプロセス評価システムを紹介し公表する。 また30年度は20年ぶりに理学療法士・作業療法士養成施設指定規則改正にあたっていることから、チームの一員として多職種協働の方法を習得するための臨床実習教育の再編について提案し教育分野へ還元する。
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Causes of Carryover |
28年度は「The use of team management assessment to identify patient characteristics predictive of early recovery stage after rehabilitation for severe stroke」という題目で論文作成した。これは対象を重度者に絞り、重度であってもADLの改善がみられることを強調し、FIM得点の増加に関連する要因を重回帰分析で検討した。 また29年度は「Effectiveness of a multidimensional rehabilitation strategy for severe stroke patients with low functional status」という題目で論文作成した。こちらは重度者と非重度者で転帰の違いを比較し、FIM効率や要因分析から検討した。 この2つの論文を投稿する際、分割出版に該当しないか否かの判断を協議した。その結果、2編は同一の母集団を対象とし、同一の介入方法を受け、仮説が類似している点を考慮すると、別々に投稿することは倫理的に控えた方がよいと判断した。 このため2編を一本化するため、当初計画していた論文別刷りと英文校閲謝金が未使用となったが、30年度早々に英文学術誌へ投稿し使用する予定である。
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Remarks |
平成29年度吉備国際大学附属研究所合同シンポジウム;平成29年9月23日:平上二九三「職種協働によるリハビリテーション実践」 平成29年度吉備国際大学研究部門自己点検・自己評価委員会総会;平成30年2月16日:原田和宏 香川幸次郎 井上優「カンボジア在宅脳卒中患者のリハビリテーション需要と日本で検証が可能な連携モデル」
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Research Products
(22 results)