2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒ素による細胞死とオートファジー、プロテアソーム系の関与について
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16K09201
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
上村 公一 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (30244586)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋 利彦 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 准教授 (60304474)
船越 丈司 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 助教 (40444715)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヒ素 / 亜ヒ酸 / PML / ラット / 脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒ素は昔から毒物とされているが、その中でも三酸化二ヒ素(ATO)は特に高い毒性を有する。一方、ATOはある種の白血病の治療薬として用いられ、生体に有用な働きを持つことがわかってきた。本研究は亜ヒ酸を用いて、ヒ素の各臓器に対する障害作用の機構の解明を目的とする。培養細胞へのヒ素暴露や実験モデル動物(ラット)へのヒ素腹腔内投与により、細胞死関連蛋白質やそのシグナル経路を明らかにする。細胞傷害作用を軽減するオートファジーや傷害された蛋白などを処理するプロテアソーム(proteasome)の作動や阻害が細胞傷害回避にかかわることに注目して研究すすめる。 実験モデルとして心臓、肝臓、神経由来の培養細胞を用いて、autophasy、ubiquitine-proteasme-system (UPS)と細胞死の関係について研究する。また、亜ヒ酸の薬理作用のtargetであるPML (promyelocytic leukemia protein) の分解について、ヒ素の毒性に関与しているかという観点から検討する。次に、実験動物(ラット)にヒ素を腹腔内投与し、6時間ないし48時間後に屠殺し、心臓、肝臓、脳を採取して、autophasy、UPSの関与についての詳細な検討を行う。 はじめの実験で、ヒ素(三酸化二ヒ素、亜ヒ酸)は各種の培養細胞にアポトーシスを引きおこすことが確認され、これは従来の報告と一致する。さらに、ヒ素投与時に、傷害された蛋白などを処理するプロテアソーム系が破綻することも明らかとなった。次に、動物個体でのヒ素の作用を調べるため、Wistar系ラットを用いた動物実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三酸化二ヒ素の中枢神経系におけるPML及びDNA損傷チェックポイント機構への影響を検討した。 【目的】三酸化二ヒ素(ATO)は高い毒性を有する一方で、近年では急性前骨髄性白血病の治療薬として有効性が認められている。その機序は染色体異常により生じるPML-RARαの分解であるが、正常なPMLの分解も引き起こす事が報告されている。しかしPML分解促進の、特に中枢神経における意義は明らかでない。本研究ではATO投与後急性期の脳組織におけるPML及びDNA損傷チェックポイント関連タンパクの挙動について検討した。 【方法】ATO(5mg/kg)を6週齢Wistar系雄性ラットに腹腔内投与し、6時間後及び48時間後に心臓、肺、肝臓、脳(大脳半球)を採取した。ウェスタンブロット法(WB)により蛋白質動態を、8-OHdG染色及びTUNEL法によりDNA損傷とアポトーシスの有無について評価した。 【結果・考察】ATO投与48時間後のラット脳組織においてSUMO化されたPMLの増加を認め、リン酸化ATR及びリン酸化Chk1の増加も認めた。8-OHdG染色ではDNA損傷が確認できた一方で、WB・TUNEL法いずれにおいてもアポトーシスは確認できなかった。以上からATO投与後急性期の脳組織でDNA損傷修復機構としてATR-CHk1経路が活性化されており細胞死を抑制している可能性が考えられ、PML分解との関連も示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの実験で、ラットの腹腔内ヒ素投与により、脳のPMLの増加を認め、リン酸化ATR及びリン酸化Chk1の増加も認めた。ラットの脳での酸化的DNA損傷は細胞の酸化ストレスのひとつである。それは、次の2つの顕著であるが、お互いに興味深い相互作用をもつ細胞応答を導く。1)DNA損傷が比較的重度の場合、例えばdouble-strand DNA break ではATM (ataxia-telangiectasia mutated) やその下流のtarget のChk2 (check point kinase2)が活性化され、アポトーシスとなる。2)DNA損傷が比較的軽度の場合、例えば、酸化的 DNA 修飾や nick formationでは、ATR (ATM- and Rad3-related) やその下流の Chk1 が活性化され、DNA損傷が修復される。 これらの検証はwestern blotting を用いたタンパク質の解析実験であり、抗体として、anti-PML antibody(Santa Cruz Biotechnology)、抗体ATR, p-ATR (Ser428-phosphorylated), p-ATM (Ser1981-phosphorylated), p-Chk1 (Ser345-phosphorylated), p-Chk2 (Thr68-phosphorylated)(Cell Signaling Technology)を用いる予定である。 これらの動物実験の結果をまとめ、論文投稿を考えている。
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Causes of Carryover |
分担研究者が研究の進行上、研究費を使い残した。分子生化学実験は当研究室で日常的に行っており、細胞培養については、他の実験と共通の試薬、機器で行っており、当初の見込みより、要した経費が少なかった。研究は順調に進んでいる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に繰り越し、動物実験(ラットの購入、飼育費)、生化学的実験(western blotting)、分子生化学実験(細胞への遺伝子導入)を行う。
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