2016 Fiscal Year Research-status Report
高精度な新規低体温症診断マーカーの開発と超生体反応に伴う分子動態の解明
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16K09209
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
上野 易弘 神戸大学, 医学研究科, 教授 (30184956)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
近藤 武史 神戸大学, 医学研究科, 講師 (20335441)
高橋 玄倫 神戸大学, 医学研究科, 講師 (90509100)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 低体温症 / HSP70 / 免疫組織化学染色 / 死後変性 / podocyte |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究で、死後24時間以内の様々な剖検例から、腎組織を対象にストレス性蛋白質HSP70の発現パターンを解析してきた。その結果、死亡時に寒冷暴露された症例では、腎糸球体上皮細胞の核が強染される特異的な発現パターンを示すことを見出した。本研究では、症例数をさらに増やすことで、この現象について詳細に検討した結果、やはり死亡直前に寒冷暴露されていた症例では、高頻度で腎糸球体上皮細胞(podocyte)において核の強染を認めた。 また様々な死後経過を辿る法医剖検試料に応用するために、組織の死後変化が標的蛋白質の発現検出に与える影響など、免疫染色を行う上での問題点について検討を行った。腎糸球体上皮細胞におけるHSP70の発現パターンの死後変性については、HE染色により評価した。剖検時に腎組織を採取し、直後に固定したものでは、尿細管上皮の基底膜からの脱落、空胞変性、核クロマチンの凝集などが認められたが、比較的組織構造を保った試料が多かった。これらを室温放置により腐敗変性が進行すると、尿細管上皮の多くは組織構造が崩壊し、糸球体においても無構造化した核濃縮が著明となり、一部の組織では核融解から核崩壊が認められ、総核数の減少も認められた。このような死後変性を簡単に指標化するため、画像処理ソフトImageJにより核濃縮率を算出したところ、全ての検査試料において、放置時間の延長に伴い核濃縮率は増大し、podocyte核内で発現剖するHSP70の発現パターンはパターンⅢ(核のみ強染)からパターンⅠ(細胞全体で弱発現あるいは発現なし)へ変化した。 様々な死後経過を辿り、死後の組織変性を免れない法医剖検試料について免疫染色を実施する場合は、標的蛋白質と組織変性に関する検討を行うことで、実務診断にも耐えうる正確な染色結果の評価を行うことができることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に予定していた研究計画は、①高精度な低体温症(寒冷暴露)診断マーカーの確立、②法医剖検試料から信頼性の高い免疫染色を行うための基礎的検討の2点である。 計画①については、これまで80例ほどであった症例数を150症例に伸ばし、腎糸球体におけるHSP70の発現パターン解析が、死亡時の寒冷暴露診断に有用であることを確認するとともに、mRNAの発現解析から寒冷暴露に誘導されるHSP70遺伝子の発現について明らかにすることができた。寒冷刺激に伴い誘導されるエンドセリン-1については、血清からのELISAを行う上で、除蛋白処理の条件等、最適な検査条件を検討し終えたところであり、実際の定量についてはこれから実施するところである。 計画②については、HSP70発現パターン解析の成果を、法医実務に応用するうえで非常に重要な課題であるが、やはり組織の死後変性とともに、腎糸球体におけるHSP70の発現パターンが変化することが明らかとなった。HE染色による核濃縮率を画像ソフトImageJを用いて算出することにより、免疫染色を行う前に、発現パターン解析が有効であるか否かを判断する基準を設定することができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度からの継続研究としては、低体温症関連死及び対照症例のいずれにおいても症例数をさらに増やして検討する予定である。本研究で確立を目指す低体温症診断マーカーを、様々な症例を抱える法医実務に応用するために、研究段階においても多くの症例、例えば慢性腎不全などの腎疾患症例や、低体温症に罹患後に救命措置を施された症例などについて検討し、知見を増やしていきたいと考えている。 また寒冷暴露が生体に影響を及ぼす因子の一つと考えられるエンドセリン-1については、血清におけるELISAを実施して死後の血清中エンドセリン-1を定量するとともに、免疫組織化学染色により、低体温症に関連してどのような組織で発現するのかについて明らかにしていきたいと考えている。 また免疫染色法を用いた、組織の死後変性によるHSP70発現の変遷についての研究では、現在のところImageJによる核濃縮率の算出は手動によっていることから、一定の基準を設定して検査者の主観が入らない手法の開発を行う予定である。 新規研究として、低体温症モデルマウスを作製して、動物実験レベルでの低体温症に関連するHSP70の発現を明らかにすることを予定している。現在、動物実験研究の研究計画書を作成中であり、早急に申請して実験に着手したい。低体温症モデルマウスの作製方法については、文献等を参考にして計画は立っている。研究計画の細かい点に注意して進めていきたい。
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究計画における設備備品費で計上していた冷凍冷蔵庫などを本研究費で購入する必要がなくなり、初年度予算で実体顕微鏡等を購入したが、備品費の差額などから次年度使用額が生じたもの。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額207,936円については、既にELISA等の実験で必要な試薬の購入で使用する計画となっている。
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