2017 Fiscal Year Research-status Report
脳血管認知症ラット白質障害とワクチン療法:アミロイドβ代謝異常に注目して
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16K09232
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
若山 幸示 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (50349263)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慢性脳虚血 / 脳白質障害 / アンギオテンシンIIワクチン / レニンアンギオテンシン系 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性脳低灌流(2VO)が脳梁(脳白質組織)における局所レニンアンギオテンシン系(RAS)に影響するか、さらにAngIIワクチンがそのような変化に作用するかを調べるためアンギオテンシノーゲンの遺伝子発現をワクチン群、生理食塩水投与群の脳梁組織を用いたリアルタイムPCRにより2VO術前、術後2、4,8週で比較した。生食群でのみ術後8週目の時点でアンギオテンシノーゲンの遺伝子発現増加がみられ、Ang IIワクチン治療は慢性脳灌流による脳白質の局所RAS活性を抑制したと考えられた。脳アミロイド代謝関連物質のAPP、BACE-1の遺伝子発現については最長術後8週までの間、非低灌流群、ワクチン群、生食群の脳梁で発現レベルを比較したがいずれも変化は認めなかった。2VOにより生食群では術後4週目にすでに成熟オリゴデンドロサイト数が減少し、ワクチン群ではこの変化がみられないことから、2VO後8週目までの期間に限ればAngIIワクチンの脳白質保護作用が脳アミロイド代謝を介することは否定的であった。脳梁でのオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPCs)数の定量では術後8週のOPCs数は生食群に比べワクチン群で高値であった。BrdUアッセイでは脳梁のBrdU陽性細胞数は非低灌流群と比較して術後2週目のワクチン群、生食群、4週目の生食群で有意な増加を認めたが8週目には差はなかった。脳梁組織のリアルタイムPCRでは術後8週目のワクチン群でBDNF遺伝子発現の増加を認めた。術後2週目でのBrdU陽性細胞数はワクチン群、生食群の間に差は認めず、BrdU/Olig2の2重染色では脳梁におけるBrdU陽性細胞の大多数がOlig2陽性細胞でありワクチン群、生食群の間に差は認めなかった。これらの結果からAngIIワクチンによる脳白質保護はオリゴデンドロサイト系細胞の増殖性ではなく生存性、分化スピードの差によることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ang IIペプチドワクチンによる抗Ang II抗体の産生は安定してみられ、2VOラットでも安定して脳白質障害が誘導されることが確認されたことから、これまでの研究で疾患モデルの確立と慢性脳低灌流による脳白質障害についてワクチン治療の有効性は示されたといえる。脳慢性低灌流による脳白質障害に対するAngIIワクチン治療効果の作用機序の解明という本年度の目標については、当初、技術的問題によりNG2免疫染色やBrdUアッセイによる各種細胞の同定に難渋したが、現在は安定してデータを得ることが可能となり、2VOモデルの脳白質組織におけるOPCs、増殖細胞の経時的変化をワクチン治療ラット、コントロールラットでそれぞれ示すことができた。これまでのところAngIIワクチンによる治療効果のメカニズムを説明するに十分なデータはいまだ得られていないが、今後、慢性脳低灌流下における詳細な増殖細胞のフェノタイプの解析、増殖細胞の生存性の検討、RASと炎症、栄養因子の発現プロファイルの検討などのデータ収集に必要な技術的問題は相当解決できたと考えている。AngIIワクチンの作用メカニズムに脳アミロイド代謝が関連するという仮説は、本疾患モデルの脳アミロイド代謝自体に変化が認められなかったことから進展が得られず目標が達せられなかったが、脳白質細胞分化再生の観点からAng IIワクチンの治療効果のメカニズムを解明するという意味においては、必要なデータは得られつつあり大きな遅れはないと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初、慢性脳低灌流におけるアミロイド代謝異常とアミロイドβ(Aβ)の過剰蓄積に焦点をあて、アミロイド代謝異常が直接的に脳白質障害の修復メカニズムを障害するという仮説を設定し、AngIIワクチンの脳白質保護作用メカニズムの解明を目指していたが、AngIIワクチン接種による脳白質病変、認知機能障害の軽減作用はこれまでの実験から明らかである一方で、脳アミロイド代謝については明瞭な変化をみとめなかったことから、研究の方針転換が求められた。今後は脳アミロイド代謝の変化に注目するのではなく、OPCs増殖分化による脳白質組織修復のメカニズムに焦点をあて検討を進めていく。研究手法としてBrdUアッセイを用いた実験系が安定してデータをだせるようになったため、今後はこれに各種免疫染色を組み合わせ、本実験系でのOPCsの生存性、増殖性を検討するという病理変化の側面からAngIIワクチン治療のメカニズムを明らかにしていく。また脳虚血における脳白質障害でのオリゴデンドロサイトの再生分化に関連して炎症促進因子であるIL-1β、COX2、PGE2の系が白質細胞の再生分化に抑制的に作用するとの報告があり、炎症促進因子としてのAngIIがCOX2、PGE2の産生を促すことも広く知られていることから、本実験系でもリアルタイムPCR、ウエスタンブロットなどの分子生物学的手法などを用い慢性脳低灌流におけるAngIIペプチドワクチンの抗炎症作用、抗酸化作用などを検討し、研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
(理由)当初計画では脳アミロイド代謝に関連した治療効果を想定していたが、研究を進めた結果、脳アミロイド代謝関連の実験系は行わないという判断に至り、実験系に関連した試薬購入費、動物購入費などの研究費が未使用となった分が生じたため、次年度使用額が生じた。ただし研究進展による軌道修正に伴う実験の追加のための支出、具体的には抗体、リアルタイムPCRのプライマー、反応試薬の購入、動物の追加購入などの計画外の支出もあったため、最終的に生じた次年度使用額はわずかである。
(使用計画)研究遂行に必要な、試薬、器具などの購入に充てる予定である。
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