2016 Fiscal Year Research-status Report
血管炎症による認知機能障害の機構解明-大動脈瘤誘導マウスモデルを用いた検討-
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16K09233
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
孫 輔卿 東京大学, 高齢社会総合研究機構, 特任助教 (20625256)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 公一 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (50330874)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慢性炎症 / 血管老化 / 性ホルモン / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢に伴う大動脈瘤は認知機能の低下を招く一つの原因病態であり、慢性炎症がその機序であることが想定される。本研究は血管病変による神経機能低下の作用機序を解明することを目的とし、平成28年度は大動脈瘤誘導のマウスモデルを用いて、加齢、性ホルモン低下などの老化因子が瘤の形成、また認知機能に及ぼす影響について検討を行った。具体的に、若齢(2~3ヶ月)と中齢(12ヶ月)マウスを用いて、大動脈瘤の誘導後、瘤の形成(評価方法:血管径の拡張や細胞外基質の上昇)および学習能力(評価方法:モリス水迷路試験)に対する影響を検討した。その結果、若齢マウスに比べ、中齢マウスでは大動脈瘤の形成が有意に促進された。さらに、若齢マウスにおいて大動脈瘤の誘導による学習能力の有意な低下は認められなかったが、中齢マウスの大動脈瘤誘導群においてはsham処置群に比べて学習能力が有意に低下していることが明らかになった。したがって、加齢による大動脈瘤の形成促進と中齢期の血管病変が学習能力の低下に影響することが示された。 さらに、精巣摘出による低テストステロン環境下で、大動脈瘤を誘導したマウスでは、sham処置群に比べて、大動脈瘤の形成が促進されることが分かった。血中IL-6の上昇、また大動脈でのIL-6/pSTAT3シグナル経路の活性化が精巣摘出後大動脈瘤を誘導したマウスで認められることから、大動脈瘤の形成促進に慢性炎症が寄与することが明らかになった。また、中齢マウスの大動脈瘤の誘導群においてはsham処置群に比べて海馬の神経細胞数の低下やIBA1とMHCII二重陽性の活性化ミクログリア数の増加が明らかになり、血管炎症が血管において病態形成を促進するととともに、脳・神経系においても認知機能の低下を招く一つの原因になることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フレイルの基盤を成す臓器老化の過程には階層構造が存在することが想定され、特に加齢に伴う炎症制御機構の破綻は血管から神経への炎症反応の波及・拡大に寄与することが考えられる。昨年度は加齢や性ホルモン低下の老化因子による血管病変や神経の形質変化を形態学的、病理組織学的に評価することができた。また、血管老化による認知機能低下が明らかになり、その機序としては慢性炎症が関わることを明らかにした。今後は慢性炎症を主体とする血管老化が神経老化に寄与する作用機序について、炎症性細胞の形質や炎症性サイトカイン分泌の特徴、SASPを中心に検討し、臓器老化や機能不全の階層構造を明らかにすることを目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は血管老化から認知機能低下の階層構造に寄与する炎症性細胞および特定の炎症性サイトカインやSASPの詳細な役割について追及する。具体的に血管炎症に寄与する炎症性細胞の正体及びその特徴、また、分泌される炎症性サイトカインを同定し、マクロファージやGM-CSFを軸とした炎症反応の破綻経路を明らかにする。特に、マクロファージの炎症性形質についてIL-6、IL-12、IL-23などの炎症性サイトカインの発現および分泌量を検討する。さらに、血管内皮細胞や血管平滑筋細胞を含む周辺の組織細胞に与える影響についても形態学的、病理組織学的に検討する。 血管炎症に伴う全身的な炎症反応の破綻に寄与するGM-CSF、また新規液性因子による神経炎症の惹起を明らかにするために、in vitro実験系に展開する。具体的にはマウスのミクログリアを初期培養しGM-CSF、また新規液性因子の刺激により、ミクログリアの増殖能の亢進やneurotoxic表現型への変化があるかを検討する。さらに、ミクログリアにおいてそれぞれの受容体やTLR4、RAGEの発現および活性を検討するとともに、細胞内の分子機序としてAP-1、NFkB、STATの転写活性と下流のシグナル経路であるTNFaやIL-1bの発現や細胞外分泌量を検討する。神経炎症に関わるアストロサイトや神経細胞に対するもGM-CSF、新規液性因子の影響が直接的作用であるか、ミクログリアを介したアストロサイトの活性(TNFaやIL-1bの分泌量上昇、ROS、NO産生の上昇)、神経細胞のダメージ(アポトーシス)であるかを検討する。
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