2016 Fiscal Year Research-status Report
進行癌の予防と治療補完療法の研究:発症前診断法及び癌抑制機構再活性化の検討
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16K09258
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
田中 朝雄 東海大学, 医学部, 講師 (50192175)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山口 政光 京都工芸繊維大学, 応用生物学系, 教授 (00182460)
鈴木 孝良 東海大学, 医学部, 准教授 (40287066)
鬼島 宏 弘前大学, 医学研究科, 教授 (90204859)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 癌 / 補完療法 / セプチン4 / βグルカン / 免疫賦活 / カイジ / ショウジョウバエ癌モデル / メタボローム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃癌・大腸癌を筆頭に多くの癌が予防可能となっている現在、未だ難治性と言われる肺癌・乳癌・膵癌等に対し、強い毒性と副作用から限界のある治療法しか応用できない症例も多い。本研究においては、癌対策の補完療法確立を目的として、Huaier (Trametes robiniophila murr、日本名:カイジ) の顕著な癌治療効果に基づき、さらに、癌のみ成らず、肝・腎機能障害、皮膚病変、ホルモン分泌臓器障害、血行循環促進等に与える改善効果に注目して、これら多機能臓器修復効果を可能にする複雑な分子機構の解明を目的とした。臓器特性より、Hippo signaling pathwayに注目し、多分子連結刺激伝達機能を統合するこのシステムがカイジ分子機能の作用機転であると仮定した。この仮説に基づき、生体モデルとしてショウジョウバエ癌モデル(Yki:V5S168Aミュータント)を用いて治療実験を行った。その結果、仮説は実証され、カイジが投与量に依存して暴走した転写調節を修復し、細胞内のみならず隣接細胞に与えるHippo pathwayの競合機能を介して正常な組織修復までもたらすことが示された。これは、臨床観察と合致する。 癌治癒のプロセスは、神戸大学メタボローム解析班との連携により、カイジ投与が癌発生検体の生体時計を発生開始時期に戻すことが示された。これは、既に発生・胎児期におけるショウジョウバエ・メタボローム解析データと比較検討し、癌治療が異常―正常という直線的な方向性ではなく、まず胎児期・発生期への生体時計の逆行を経て、幹細胞の安定した正常分化から開始されるという貴重な所見である。 また、これはカイジ成分に鑑みて、その薬効は、癌のみならず多因子疾患に対し、単一ターゲットを破壊するという方法論に基づく治療には自ずから限界がある、という常識的な論理の証明でもある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、現状の癌対策の未解決点、特に進行癌末期に至る後期治療を補完し、総合的癌対策に資することにある。このために、毒性と副作用を無視しうる自然産生物質、中国産茸類Huaier (Trametes robiniophila murr、日本名カイジ) の臨床実地における顕著な抗癌効果に注目し、まず臨床実地有用性を検討した。その結果、肝臓癌、乳癌、副腎腫瘍、大腸癌、胃癌、神経内分泌性腫瘍(転移・再発)、癌以外でも肝機能障害(薬剤性、家族性、肝炎罹患後)、各種皮膚疾患、パーキンソン病1例など、多岐に渡る臓器と機能障害に対し、量依存性で顕著な改善効果・治癒効果を認めた。 本研究の根幹となる、臨床有用性が証明されたため、詳細利用法とその特長を探査すべく、生体モデルを用いた機序解明を遂行した。カイジは難溶性であるため、患者における機能発現検定に培養細胞系を用いるのは困難である。担癌マウス、ラットにおける腫瘍塊消失は既に実験済みであるが、詳細分子機能検定を行うには不適である。 ここで、カイジの上記臨床特性から、Hippoシグナル伝達経路がその分子機能発現根幹に相当すると仮定し、研究者らにより特許取得など遺伝子モデル作成に頻用しているショウジョウバエモデルを選択した。また、Hippo伝達経路に焦点を置く場合、1995年に構成因子Wntの発見から、ショウジョウバエが至適モデルとされる。その中でもHippo刺激伝達の最終到達点、核内転写調節制御に遺伝子異常を導入した癌モデル、Yki:V5S168Aミュータントを用い、この幼生をカイジ混和餌で発育、成虫期での形態変異を比較した(遺伝子変異は複眼形成に反映される)。 その結果、カイジ投与により導入遺伝子変異による破綻暴走した転写調節制御が復活・修復され、この効果は投与濃度に依存する、という臨床実地を反映した仮説の証明に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
そこで、今年度は、カイジの分子機序解明の成果をより充実させ、臨床的有用性をさらに検証しつつ、投与時期・投与量・継続期間などの詳細活用法を検討し、補完療法としての完成を目指す。 カイジは多糖類、糖タンパク質等の複合体であるので、メタボローム解析を追加した結果、投与後に体内構成物質プロファイルの発生・胎児期移行が示された。正常検体が通常の成熟状態へ移行することに比して、癌モデルにおいては、発生当初(0-4時間)にまで生体時計が逆行する。同時に有意なグルコース、トレハロース、さらに必須アミノ酸の集積が認められ、正常幹細胞状態への回帰が重ねて証明されたことになる。また、これが癌末期患者における5年にも渡る余命延長、生体寿命回帰現象の根幹の可能性がある。 カイジの抗癌効果は、単に癌細胞の除去による正常細胞残存、という単純なものではなく、異常細胞死滅に加えてグレーゾーンの変異細胞の幹細胞回帰後安定した正常分化を再推進する、という新しい仮説が生まれた。カイジ効果の根幹がHippo pathwayを介した転写調節因子制御快復にあるならば、主たる統御システムとして働く関連臓器、特に中枢神経系・心筋も含む臓器機能異常にも有効な可能性がある。これが、実際に、パーキンソン病1例での治療効果に反映し、仮説通りはるかに応用範囲の広い応用法が示唆された。 本年度は、これらの観点から、癌のみならず、Hippo pathwayにおける転写調節因子制御異常に基づく疾病について、カイジの臨床応用とその有効性の検討も行う。特に、メタボローム解析にて示唆された、必須アミノ酸を始めとする経路修復に伴う栄養分補給を追加したカイジ投与法を検討する。幹細胞回帰と正常分化機能の証明については、ショウジョウバエ実験では証明限界があり、既に手配済みの水溶性カイジの入手・連携研究拡充による検証が必要である。
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Causes of Carryover |
初年度の12月から論文投稿(T Tanaka, et. al. Huaier regulates cell fate by modulation of disrupted transcription control in the Hippo pathway)を開始したため、論文の受領・掲載時の経費として温存していたが、その決定が次年度に持ち越されたため、初年度での支出とならなかった。 さらに、初年度末に突然、中華人民共和国・山東省・済南市の山東大学斉魯医院乳腺外科 楊其峰教授よりInternational Symposium of Breast Cancerへの招聘があり、日程が直前に決まったため、初年度か次年度の支出になるか微妙であったため、そのための出張費を温存した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
したがって、次年度使用額はその論文掲載の経費として支出される予定である。 また、中華人民共和国・山東省・済南市の山東大学斉魯医院乳腺外科 楊其峰教授よりの招聘は結局、次年度の4月になったため、出張費などはその次年度使用額から支出された。 さらに、既に論文投稿時点から世界各国の学会より講演招聘が相次ぎ来ている。乳癌・肺癌細胞におけるHippoシグナル伝達経路経由での癌抑止効果論文の発表が相次いでおり、そのため、物質内容詳細情報の入手、成果配信、連携研究拡充のため、海外出張および成果発表のための支出が予定されている。
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