2018 Fiscal Year Research-status Report
原発事故被災者の震災関連死・震災関連自殺に対する「社会的ケア」の確立
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16K09264
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
辻内 琢也 早稲田大学, 人間科学学術院, 教授 (00367088)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ストレス / PTSD / 原発事故被災者 / 社会的ケアモデル / 自殺予防 / 支援オーガナイザー / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、心身医学的な量的調査と医療人類学的な質的調査を通して、原発事故広域避難者のストレスや孤独死・自殺予防のための新たな「社会的ケア」モデルの構築を目指しているものである。そのため、研究者らは、民間支援団体「震災支援ネットワーク埼玉(以下SSN)」、埼玉弁護士会等と協働し、事故直後から今まで “支援”を前提とした研究を継続させてきた。 2016年度当初の研究計画通り、[A]大規模アンケート調査、[B]被災者・被害者へのインタビュー調査、[C]ハーバード大学との海外連携、[D]民間支援団体と共に企画実践するフィールドワーク、の4手法を用いた調査研究を継続してきた。今年度の特記すべき成果として、東京大学が率いる研究プロジェクト「震災復興の公共人類学―福島県を中心とした創造的開発実践」と、それに続く東北大学東北アジア研究センターとのコラボレーションであろう。この協働の成果は『震災復興の公共人類学』(東京大学出版会、2019)として結実している。 これまでに共同して活動をおこなってきた民間支援団体「震災支援ネットワーク埼玉(SSN)」の2018年度の段階における支援活動の中心は、交流会やコミュニティカフェ等の地道な支援へと移行している。原発事故より8年が経過して、必要とされる支援活動が変化してきている。その変化に伴う今後の新たな調査研究を企画するに先立って、今年度は事故直後から7年間続けてきた今までの調査研究を総括する必要があると考えられた。そこで、今年度は今までの研究成果を和文書籍『フクシマの医療人類学』および英文書籍『Human Science of Disaster Reconstruction』としてまとめ、国内外への発信を行なった。この研究実績をもとに、長期的な研究計画を新たに立てていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度のもっとも大きな成果は、今までの研究成果を、和文書籍『フクシマの医療人類学-原発事故・支援のフィールドワーク』(遠見書房、2019)および英文書籍『Human Science of Disaster Reconstruction:An interdisciplinary approach to holistic health following the Great East Japan Earthquake and Fukushima nuclear disaster』(Interboooks, 2019)としてまとめることができたことである。英文書籍は、AmazonUSAとAmazonJAPANにて販売するとともに、米国・ヨーロッパ・ASEANの主要大学図書館や災害関連の国際機関へ寄贈する準備を進めている。 また、この研究成果は学術分野だけでなく、今まで「NHKスペシャル(2015年3月)」「NHKクローズアップ現代(2015年3月)」「NHKハートネットTV(2015年5月、8月)」「NHK視点論点(2016年6月)「NHKクローズアップ現代プラス(2017年3月)」に制作協力・出演という形や、各種新聞記事によって全国的に紹介されてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の第一目標は、東日本大震災発生10年目になる2020年~2021年に実施するための大規模アンケート調査用紙を開発することである。具体的な研究方策は以下の通りである。第二目標は、今までの研究調査結果をもとに、自治体や政府に対する政策提言を行うことであり、現在、原告となった被災者を救済するための裁判や生活再建を確保するための裁判への提言書・意見書の作成に取りかかっている。 ■東日本大震災および原発事故10年目大規模調査用紙の開発:①今までの大規模調査のデータを再解析・再検討し、精神的被害の大きかった地域の特徴や被災者の属性、また被害の小さかった地域や属性を明らかにし、災害被害に対してレジリエンスとなる因子を抽出。②インタビュー調査やフィールドワーク調査を用いて、精神的苦痛をもたらしていた状況の変化や震災後10年が経った現在において被災者が抱える精神的苦痛の質と量の変化、価値観の変化等々を明らかにし、心的外傷後ストレス(PTSD)といったネガティブな側面だけでなく、心的外傷後成長(PTG)といったポジティブな要素を発掘。 ■フィールドワークおよびインタビュー調査の実施・解析と政策提言:①事故直後と、時間の経過に伴う被災者の精神的苦痛のあり方やその質的量的な変化をみると同時に、現在の状況と被災者の精神的健康度もしくは苦痛を明らかにする。また、自由記述やインタビュー調査をもとに、原発事故に対する意味づけ、その後の価値観の変化を明らかにする。②フィールドワーク調査やインタビュー調査結果をベースに、1) 災害復興を阻む要因、2) 災害復興を促進させる要因、3) 災害の種類による相違点、4) 国家や文化差による相違点、5) 災害復興に資す普遍的かつ包括的な方略の策定について議論・整理し、国内外へ政策提言を行なう。
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Causes of Carryover |
当初予定されていた米国における国際学会発表が実行されなかったため。
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Research Products
(11 results)