2018 Fiscal Year Research-status Report
糸球体内皮細胞の恒常性維持に関わる新規シグナル伝達経路の解明
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16K09613
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松原 雄 京都大学, 医学研究科, 講師 (90422964)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 糖尿病性腎症 / Smad1 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、Smad1誘導KOマウスの作成が滞っており、Smad1シグナル経路に関わる分子の解析を行った。我々は糖尿病性腎症においてBone morphogenetic protein 4(BMP4)の中和抗体を投与することによって、腎症の病理学的特徴であるメサンギウム基質の拡大が抑制されることを証明した。しかし、この条件下においては腎症の機能的特徴である尿蛋白は改善が見られなかった。メサンギウム基質拡大と尿蛋白は共に糖尿病性腎症の主病態である。近年、両者の進展には時に解離が見られることが明らかになっているが、その分子機序は明らかではない。今回、その違いを検討すべく、BMP4中和抗体治療による腎症関連分子の変化を検討した。BL/6マウスにストレプトゾトシンによる糖尿病を惹起後、20週~36週の間、2週毎にBMP4中和抗体を腹腔内投与し、36週でアルブミン尿と腎病変を解析した。その結果、先述の通り、メサンギウム基質改善はみられたが、アルブミン尿は改善しなかった。次に、この分子機序を確認するために、レーザーマイクロダイセクションを用いて糸球体を単離し、腎症関連分子を検討した。糖尿病惹起により糸球体リン酸化Smad1, IV型コラーゲン(Col4)は増加し、BMP4中和抗体治療で改善した。さらに、糸球体におけるVEGF-A, TGF-βといった増殖因子も低下し、Col4の構成分子である Col4α1、Col4α2、Col4α3も改善し、メサンギウム形質変化のマーカーであるαSMA(α平滑筋アクチン)も改善していた。しかし、足細胞の指標であるネフリンは糖尿病惹起で低下したままBMP4中和抗体でも改善しなかった。以上から、糸球体硬化に関わる細胞外基質産生のメカニズムやメサンギウム細胞の形質変化の機序と、アルブミン尿に関わるとされる足細胞障害は異なる病態形成機構があると考えられた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
生後4週でタモキシフェンを投与し、誘導されるSmad1全身欠損マウスで糸球体の変化を観察した結果では、やはり、糸球体の形態的変化がみられるのは、誘導後30週を過ぎた頃からであることが判明した。また、その特徴は、糸球体内皮細胞の膨化(Endotheliosis)や糸球体内皮細胞の欠失であることも予想された。さらに、メサンギウム融解も大きな特徴となる可能性が示唆された。したがって、本研究課題の糸球体内皮細胞の形態維持においてSmad1が何らかの役割を果たしていることが示唆された。しかしながら、やはり、本誘導マウスは生存期間が短く、その生存期間の短さの原因ははっきりしていないままであり、糸球体の変化が観察できる30週以前に高率に死亡してしまうため、結論に足る十分な数のマウスを観察できていない状態が続いている。よって、ノックアウトマウスの観察研究自身は「遅れている」が、本年は、BMP4中和抗体を用いて、マウス糖尿病性腎症の発現分子解析を行い、一定の見解を得ることができたので、本研究の進捗を「やや遅れている」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、全身Smad1誘導欠失マウスを作成、糸球体内皮細胞の変化を観察する。しかし、ノックアウトマウスの作成が滞っていることから、本年度は、糸球体内皮細胞障害を主たる病態とする疾患である血栓性微小血管症(Thombotic microangiopathy: TMA)にも注目する。近年、血栓性微小血管症に於ける内皮細胞障害のマーカーとしての補体C4dが注目(J Am Soc Nephrol 26: 2239-2247, 2015)されている。当研究室でも薬剤性TMAに注目し、同様の知見が得られていることから、この集積された症例において、糸球体疾患の内皮におけるC4d沈着と内皮細胞のSmad1との関連も検討中である。さらに、先述の通り、BMP4中和抗体を用いた糖尿病性腎症治療マウスの糸球体発現分子解析も継続予定である。
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Causes of Carryover |
今回の研究には、Smad1誘導欠損マウスを作成し、少なくとも誘導後20週以上飼育したのちの腎糸球体内皮細胞に生じた表現型を観察する必要がある。しかし、1) Smad1誘導欠損マウスの大部分が、誘導後、予想に反して約10週で自然死してしまった。また、2) 誘導欠損の程度にもばらつきがあり、実験に必要な匹数のSmad1誘導欠損マウスの確保に約10ヶ月の遅延が生じた。1)、2)による延長が必要になった。
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[Journal Article] Rationale and study design of a clinical trial to assess the effects of LDL apheresis on proteinuria in diabetic patients with severe proteinuria and dyslipidemia.2018
Author(s)
Wada T, Muso E, Maruyama S, Hara A, Furuichi K, Yoshimura K, Miyazaki M, Sato E, Abe M, Shibagaki Y, Narita I, Yokoyama H, Mori N, Yuzawa Y, Matsubara T, Tsukamoto T, Wada J, Ito T, Masutani K, Tsuruya K, Fujimoto S, Tsuda A, Suzuki H, Kasuno K, Terada Y, Nakata T, Iino N, Kobayashi S.
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Journal Title
Clin Exp Nephrol.
Volume: 22
Pages: 591-596
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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