2017 Fiscal Year Research-status Report
2型糖尿病の膵β細胞の機能不全につながる転写因子MafAの量的制御システムの破綻
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16K09763
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
片岡 浩介 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 准教授 (20262074)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 膵β細胞 / シグナル伝達 / 遺伝子発現制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
2型糖尿病の進行の過程で、膵島β細胞の機能破綻が起きる背景の分子機構の解明を目指している。これまでに、β細胞の機能を支える転写制御因子MafAのタンパク質レベルを調節(タンパク質の安定性の調節)する2つのシステム(仮称D系とS系とする) について、それらの破綻が、糖尿病の進行過程におけるβ細胞の機能破綻の背景にあると考えられる結果を得てきた。本年度は主にS系によるMafAの分解制御機構に関する知見を多く得ることができた、S系は、グルコース濃度の感知と密接に関わっていることが判明した。MafAはそもそもβ細胞においてグルコース応答性に転写を活性化する転写因子として単離同定された経緯があり、しかしその制御機構は不明であった。われわれは、細胞外グルコースは、細胞のエネルギーレベルのセンサー分子であるAMP-activated protein kinase (AMPK)の活性調節を通して、MafAのタンパク質レベルを制御し、その結果としてインスリン遺伝子やGSIS (glucose-stimulated insulin secretion)に関連するβ細胞機能に必須な一群の遺伝子の発現を調節していることを発見し、証明することに成功した。さらに、AMPKのシグナルは、S系の活性調節を通してMafAの量的な制御を行っていることを見出した。後者の詳細なメカニズムは追究中である。この全体像が理解されることによって、β細胞のグルコース感知のシステムと、2型糖尿病の際の持続的な高血糖状態によるβ細胞機能の破綻(糖毒性)のメカニズムが理解できるようになることが期待される。とりわけ糖毒性に関しては、AMPKの活性レベルが通常とは異なる異常なふるまいをする(高グルコース・高エネルギーにも関わらず活性化する)ことを見出しており、これを手がかりに解明中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
MafAをタンパク質レベルで制御する2つの制御系統であるD系とS系について解析を行い、D系についてはあまり進展は得られなかったが、S系についてはブレイクスルーとなるような進展があった。具体的には、グルコースからのシグナルおよびタンパク質キナーゼAMPKとS系との関連性を発見し、これを明確に証明することができたことと、このシステムの糖毒性への関与についての知見が得られ、今後の方向性への見通しが立ったことの2点である。ただし、AMPKがS系をどのように制御しているのかについての具体的な分子機構は未だ不明で、次に解決すべき重要な点であるが、問題点が明らかになったことによって、この部分に関する今後の見通しは明るい。 また、β細胞の機能破綻の予防・治療を考える上で重要な点として、昨年度までに、S系の下流で制御されるイオン・トランスポーター2種を薬剤によりそれぞれ阻害・活性化したところ、MafAタンパク質レベルがそれに応じて予想されたように増減することを明らかにしていた。今年度はこの結果を受けて、2型糖尿病モデルマウスdb/dbから膵島を単離し、薬剤によりこの系を再活性化させたところ、週齢の早い(病態が進行途中の)膵島に対してであれば、MafAレベルの回復とインスリン・ GSIS遺伝子群の発現回復が観察された。一方、週齢が進み、病態がかなり進行してしまった膵島に対しては、効果は発揮できなかった。この観察は、われわれが発見した系に基づいて薬剤を用いて介入することによって、β細胞の機能破綻を少なくとも予防することが可能であることを示している。 以上を総合的に判断し、おおむね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2型糖尿病の進行に伴うβ細胞の機能破綻に関しては、モデルマウスdb/dbの膵島を用いた解析から、われわれの見出したS系の関与があることが明確に判明し、さらにこの系を薬剤で再活性化することによって、すくなくとも予防が可能であることを明らかにすることができた。今後解決すべき問題点はいくつかあり、例えば①AMPKがS系を抑制する分子機構の解明、②S系がMafAタンパク質の量を増加させる(分解からプロテクトする)分子機構の解明である。①に関しては、AMPKがS系のコンポーネントと直接結合し、その活性を阻害するという予備的な結果を得ているので、これを中心に解明を進める。②に関しては、前年度までにMafA側のdegronを特定しており、これをプローブとしてMafA量の制御に関与する分子の探索を行う(結合因子の単離同定)。これらのことにより、β細胞の機能破綻の分子機構の全貌を明らかにするとともに、予防・治療の方策に寄与できるような分子の特定に結びつけたい。また、AMPKと並んで細胞内エネルギー状態のセンサーであるmTORの関与があるとの予備的な結果も得ているので、この面からの探索も行う。 一方、MafA量の制御におけるD系の役割については今年度は進展が乏しかったが、こちらはプロテアソーム系と関連があり、酸化ストレスやオートファジーとの関連性が見えつつあること、および、MafAを標的とするユビキチンE3リガーゼの候補を得つつあるので、これらの発見を糸口として、D系に関係する分子の同定を行い、やはり同様に予防・治療の方策に寄与できるような分子の特定を行いたい。
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Causes of Carryover |
研究計画においては、研究経費は主に消耗品の購入に充てる予定であり、これには、細胞培養用の培地、血清、プラスチック製品(シ ャーレ、ピペット、遠心管、トランスフェクション試薬、分子生物学用のキット類(プラスミド精製キットなど)、酵素類、合成DNA 、生化学実験や免疫組織化学実験用のタグ抗体、特異抗体などの他、実験動物マウスの購入・搬入・維持費を含んでおり、その額は、 これまでの研究における実績から予想して算出した。 今年度は、とりわけ細胞培養関連の消耗品の使用頻度が高く、予定していた旅費を充てざるを得ない状況になったため、それぞれに差額が生じ、結果的に未使用額が生じた。 (使用計画) 前年度同様に細胞培養関連の消耗品の使用頻度が高まることが予想されるので、それらの購入に充てる。
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Research Products
(3 results)