2017 Fiscal Year Research-status Report
自己免疫性出血病13の分子病態;抗第XIII因子自己抗体の解析と発生機序の解明
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16K09820
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
一瀬 白帝 山形大学, 医学部, 名誉教授 (10241689)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 血栓止血 / 自己免疫疾患 / 致死性出血病 / 抗第XIII/13因子抗体 / 厚労省指定難病 |
Outline of Annual Research Achievements |
ある自己免疫性出血病XIII/13(AH13)症例から得られたヒト抗第XIII因子Aサブユニット(FXIII-A)モノクローナル抗体19クローンのうち、液相でFXIII-Aと結合した8クローンの認識部位を検索した。液相で反応するクローンのF(ab’)2断片を作出し、各モノクローン抗体とFXIII-Aの結合に競合阻害が起こるか否かを調べた。78λのF(ab’)2断片では01λ, 78λ(A群)と競合阻害が認められたが、他の抗体(11κ, 26κ, 36κ, 53λ, 53κ, 69κ;B群)とは競合阻害が認められなかった。一方、69κのF(ab’)2断片ではB群との競合阻害が認められたが、A群とは競合阻害が認められなかった。69κと78λについて詳細にエピトープ情報を得るために、プロテアーゼプロテクションアッセイをそれぞれのF(ab’)2断片を用いて実施した。IgG分子全体, F(ab’)2断片共通で保護された領域は69κではβ-サンドウィッチ領域のNH2末端側とバレル2のCOOH末端側、78λではバレル1のCOOH末端側であった。 AH13症例の大半にFXIII-A二量体(A2)に強く反応してFXIII-Bとの複合体形成を阻害する抗体があるが、A2は巨核球・血小板や単球・マクロファージ細胞内に存在するので、細胞の崩壊に伴って他の細胞内タンパク質と共に抗原提示されている可能性がある。そこで、血小板や巨核球系(MEG-01)・単球系培養細胞(THP-1)を用いて、細胞内タンパク質に対する抗体の有無を検討したところ、AH13の35例中MEG-01に対して18例、マクロファージ様に分化させたTHP-1に対して16例に結合するIgGが検出された。血小板や培養細胞の抽出物を用いたウエスタンブロット解析でも、複数例の検体に異なる細胞内タンパク質と結合するIgGが認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年、富山大学の小澤龍彦先生の協力の下に、世界で初めてヒト抗FXIII-A単クローン抗体を得て、今年度はさらにそれらのF(ab’)2断片を作出して、エピトープ領域を同定した。その結果、上述したA群はA2B2複合体形成を阻害し、B群は活性化に伴いFXIII-BがFXIII-Aから解離するのを阻害するので、解離阻害抗体同士、あるいは複合体形成阻害抗体同士のエピトープは同一あるいは近傍に存在していることを明らかにした。 また、多くのAH13症例の血漿検体において、血小板や単球・マクロファージの細胞成分と反応する抗体が存在することを確認したので、これらの細胞の崩壊により細胞外に放出されたタンパク質とともにFXIII-Aが抗原提示されている可能性が高い。従って、軽微な感染や炎症などがきっかけで細胞崩壊を生じ、A2に対する抗体が産生されているものと推測される。 なお、AH13症例の約半数に自己免疫性疾患や悪性腫瘍が基礎疾患として認められる一方、残りの半数は特発性である。そこで、AH13の自己抗体産生の遺伝的背景を検索するために、一部の症例で主にF13A(及びF13B)遺伝子の多型性/変異と免疫応答関連遺伝子の多型性をエクソーム解析しつつあり、健常人との差異が認められた部位もあるので、さら症例数を増やして有意差を検証したい。
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Strategy for Future Research Activity |
1)本研究の第一の目的は、AH13の原因である抗F13自己抗体の作用機序を解明することである。そこで、これまでに作出した19種類に上るヒト抗FXIII-A単クローン抗体とそれらから選抜して作出した8種類のF(ab’)2抗体を用いて、AH13症例の病態を試験管内で再現できるか否か、組み合わせや濃度を変えて実験し、機能的、構造的性状を解析する。 2)本研究の第二の目的は、それまで健常であった人が高齢になって初めて抗F13自己抗体が発生する根本的な原因を探索することである。そこで、その遺伝的背景を統計学的に検証するために、AH13症例のエクソーム解析を完成する。1症例あたり10万円のコストが掛かるため、今年度の支出を極力抑制した。今年度の残予算と来年度の予算を用いて、少なくとも15名のAH13症例のエクソーム解析を実施することが目標である。 3)今年度の研究で、血小板や培養細胞の抽出物を用いたウエスタンブロット解析で複数例の検体に異なる細胞内タンパク質と結合するIgGが認められたので、これらのタンパク質のバンドを切除して質量分析によってそれぞれがどのタンパク質であるか、あるいはどのタンパク質の断片であるか同定する。その結果次第では、同じ細胞内タンパク質に対する自己抗体を多くのAH13症例で検出することが可能になると期待される。 研究が早期に目標を達成した場合や計画通りに進まない場合の対応: AH13症例や健常者に、FXIII-Aを分解する酵素活性を持つ自己抗体や、自然抗FXIII抗体が存在する可能性を追究する。特に、FXIII-Bは10個の寿司ドメインからなり、また、寿司ドメインをコードしているFXIII-B以外の52の遺伝子産物と交叉反応性を持つ自己抗体の存在が予想されるので、それらを検索する。
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Causes of Carryover |
次年度は、抗F13自己抗体が発生する根本的な原因の遺伝的背景を統計学的に検証するために、AH13症例のエクソーム解析を完成することが目標である。1症例あたり10万円のコストが掛かるため、今年度の支出を極力抑制し、今年度の残予算と来年度の予算を用いて、少なくとも15名のAH13症例のエクソーム解析を実施することとした。 以上の理由により、今年度の残額784,647円と来年度の支給額1,100,000円を合計した1,884,647円が次年度使用額となり、その内約1,500,000円をエクソーム解析に使用する予定である。
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