2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K09955
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Research Institution | National Institute of Infectious Diseases |
Principal Investigator |
宇田 晶彦 国立感染症研究所, 獣医科学部, 主任研究官 (80392322)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 野兎病 / 野兎病菌 / Francisella / 感染防御 / ワクチン / 人獣共通感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
【研究目的】 宿主に感染した細菌は、鉄濃度の低い環境から効率よく鉄を回収するためにシデロフォアと総称される鉄キレート低分子有機化合物を産生する。一方で哺乳類は、シデロフォアと特異的に結合するリポカリン2を産生し、細菌の鉄取り込みを阻害することが知られている。これまでに、野兎病菌を感染させたマウスやマクロファージの遺伝子発現解析の結果から、リポカリン2は野兎病菌弱毒株の殺菌に関与している可能性が示唆された。そこで本年度は、リポカリン2の野兎病菌に対する感染防御能について、検証することを目的とした。 【研究経過と成果】 マウスのリポカリン2を発現抑制するために設計された29 merのshRNA 配列が組み込まれたレトロウイルスプラスミドは、Origene社より購入した。これらのshRNAを、マウスマクロファージ様細胞J774.1細胞へトランスフェクションした後、ピューロマイシンを含む培地で選択し、安定的に発現抑制されたマクロファージ様J774.1細胞を得た。ネガティブコントロールベクターをトランスフェクションおよびピューロマイシンで選択したマクロファージ様J774.1細胞も、同様に得た。これらの細胞は野兎病菌強毒性SCHU P9株および野兎病菌弱毒性pdpC遺伝子破壊株(ΔpdpC)と1時間インキュベートし、PBSで洗浄後、培養した。感染2時間目および26時間後に細胞を可溶化し、細胞内に取り込まれた菌量を計測した。この結果、リポカリン2の発現が抑制細胞において、野兎病菌弱毒性ΔpdpCは有意に高い生育能を示した。一方で、強毒性SCHU P9株を接種した場合には、リポカリン2発現抑制細胞およびコントロール細胞における感染26時間後の生菌数に差は生じなかった。 【結論】 野兎病菌弱毒株を効率よく殺菌するためには、リポカリン2が必要不可欠である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
野兎病菌(Francisella tularensis)は、ヒトや動物に対して非常に高い感染性と致死性を有する細胞内寄生性グラム陰性桿菌で、日本および諸外国においてバイオテロ対策上重要性の高い菌の一つとして分類されている。しかし、その感染制御に必要な宿主因子は、未だ解明されていない。そこで本研究では、野兎病菌を接種したマクロファージやマウスを用いて、感染防御に必要不可欠な宿主因子の同定を目的とし、検討をおこなっている。 これまでに、マクロファージ内での増殖能やマウスに対する病原性を消失した野兎病菌FTT_0965c遺伝子破壊株(ΔFTT0965c)は、ワクチン効果が非常に高く、この株で免疫したマウスは、致死量の100倍の野兎病菌強毒株SCHU P9を接種しても生残することを明らかにした。この生存に必要不可欠な宿主因子候補を同定するために、ワクチン接種群と非接種群に野兎病菌強毒株SCHU P9を接種したマウス肺の遺伝子発現を比較解析し、有意に発現変動する168遺伝子の差異を同定した。これらの遺伝子群の機能照合、病理学的解析や、免疫学的解析の結果から、Iba1陽性マクロファージは、野兎病の感染防御に重要な役割を担っている可能性が示唆された。さらに本年度には、野兎病菌弱毒株を効率よく殺菌するために、マクロファージの活性を制御するリポカリン2が必要不可欠である可能性が示唆された。 以上の様に、本研究は当初目標である「野兎病菌感染防御に必要な宿主因子の同定」に向けて概ね順調に研究が進展していると考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
野兎病菌強毒株の致死的感染を回避するための宿主因子候補について、その当該遺伝子をノックアウトまたはノックダウンしたマクロファージやマウスを用意し、その野兎病菌増殖能や病原性について細菌学的、免疫学的、病理学的、分子生物学的に解析する。
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Causes of Carryover |
(理由) 年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。 (使用計画) 上記のとおり。
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Research Products
(5 results)