2016 Fiscal Year Research-status Report
先天性発達障害モワットウィルソン症候群の病態形成の分子メカニズムの解明
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16K09980
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Research Institution | Institute for Developmental Research, Aichi Human Service Center |
Principal Investigator |
高木 豪 愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 周生期学部, 主任研究員 (70300879)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 重度知的障害 / モデルマウス / モワット・ウィルソン症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は重度知的障害を伴う症候群型の先天性障害であるモワット・ウィルソン症候群の病態形成のプロセスを分子レベルで理解し、治療法の確立に向けた基盤の構築を目的としている。近年、重度知的障害や自閉症は、シナプス形成に関わる遺伝子の変異が発症に関係していると一般的に思われているが、一方でシナプス形成に関わる遺伝子は、神経細胞が脱分極して起こる神経細胞の活性化に関わるシグナル伝達に関わる遺伝子と捉えることも可能である。モワット・ウィルソン症候群の原因遺伝子であるSIPは転写制御因子であるので、神経細胞の活性化により誘導される転写制御に関与していて、その異常が重度知的障害の発症に関係している可能性が考えられた。本年度はこの可能性の検討に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重度知的障害は神経細胞の活性化に関わるシグナル伝達因子の遺伝子変異により引き起こされるという仮説に基づき、モワット・ウィルソン症候群の原因遺伝子である転写因子のSIP1が神経細胞の活性化に依存した転写制御に関わっているか検討した。最もメジャーな神経細胞活性化に依存したプロセスであるLTPの形成を誘導するHebbian plasticityにおいてSip1遺伝子の発現上昇は見られず、むしろ経時的に発現低下がみられた。このことから、Sip1はこのプロセスで重要な役割を担ってはいないと予想された。一方、もう一つ神経細胞活性化が関与するプロセスにHomeostatic plasticityと呼ばれるものがあり、いくつかの知的障害でその異常が報告されている。Sip1がHomeostatic plasticityに関与している可能性を検討するためにHomeostatic plasticityの一種であるsynaptic scaling upを誘導するTTXと呼ばれる薬剤でPrimary neuronを刺激したところ、48hかけてSip1の持続的な発現上昇がみられた。この結果からSip1変異によりHomeostatic plasticityに異常が生じ、知的障害の発症に繋がっている可能性が予想された。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の実験結果から、Sip1は神経細胞活性化のプロセスの一つであるHomeostatic plasticityの一種であるsynaptic scaling upに関与している可能性が考えられる。今後はモワット・ウィルソン症候群のモデルマウスであるSip1遺伝子変異マウスのprimary neuronを使ってin vitroでSip1変異によりsynaptic scaling upに異常が生じるか検討を行う。Synaptic scaling upの異常は最終的には電気生理学的な手法の一つであるmEPSCによる検討が不可欠であるので、この手法を習得して行う。 また一方、モワット・ウィルソン症候群の治療法の基盤確立に向けた研究を行っていく。モワット・ウィルソン症候群はSip1遺伝子のハプロ不全により起こるため、この患者の方は正常なSIP1遺伝子を有している。そのため、残った一つのSIP1遺伝子の働きを強めることが出来れば、病気の症状を緩和できる可能性があるのではないかと考えた。SIP1は単独で働くわけではなく、他の因子と複合体を作って働いている。その中にエピジェネティックな転写制御に関わるヒストン修飾に関わるヒストン脱アセチル化酵素のHDAC1/2が含まれているため、モワット・ウィルソン症候群ではヒストン脱アセチル化活性が不足している可能性が考えられる。そこで、この活性を相対的に高めるために逆の活性を持つヒストンアセチル化酵素の量を遺伝学的手法により減少させることで、モワット・ウィルソン症候群の症状緩和が起こるか検討を行う予定である。
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