2016 Fiscal Year Research-status Report
興奮毒性による分子シャペロンVCP酸化損傷の意義およびHIE治療戦略への応用
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16K10112
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Research Institution | Suzuka University of Medical Science |
Principal Investigator |
古川 絢子 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 助教 (10455537)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
郡山 恵樹 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 准教授 (70397199)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 興奮毒性 / 神経細胞死 / 酸化ストレス / VCP / 活性化アストロサイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、興奮毒性の急性期において、シャペロンタンパク質であるvalosin containing protein(VCP)の酸化損傷が小胞体ストレスを介して神経細胞死を惹起するという仮説を検証することである。興奮毒性による神経細胞死におけるVCPの役割を明らかにし、治療標的分子となり得るかを検討する。 本年度は、実験動物を用いて、神経細胞死とVCPの発現変動を中心に解析を行った。3週齢雄ラットにカイニン酸10mg/kgを腹腔内投与する興奮毒性モデルと、興奮毒性による活性酸素生成の抑制を目的としてエダラボンの前投与(腹腔内あるいは尾静脈内注射)を組合せて、比較検討した。カイニン酸投与後、72時間で脳を取り出し、カルノア液にて24時間、浸漬固定した。固定後の脳をパラフィン包埋し、6μmの切片を作製した。HE染色の結果、これまでの研究結果と同様に、カイニン酸投与により海馬の錐体細胞層に著明な神経細胞死が認められた。アストロサイトの指標であるGFAPの発現が増加し、活性化アストロサイトが海馬に認められた。VCPの発現は、海馬錐体細胞層の生存している神経細胞の細胞体に強く発現した。さらに周辺組織のグリア細胞にVCPの強い染色性が認められた。エダラボン尾静脈投与では、カイニン酸による細胞死が抑制された。VCPの発現は、グリア細胞ではほとんど見られないが、錐体細胞層では弱い発現が認められた。一方、エダラボン腹腔内投与は、カイニン酸による海馬神経細胞死を抑制できず、神経細胞やグリア細胞の細胞質に強いVCPの発現が認められた。これらの結果から、興奮毒性によるVCPの発現増加は、神経細胞に保護的ではない可能性が考えられた。また、細胞死が認められないグリア細胞にVCPが強く発現しており、興奮毒性時のグリア細胞の活性化とVCP発現増加の関わりも検討する必要があると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、カイニン酸投与モデル動物において、興奮毒性による神経細胞死とVCPの発現変動を確認し、エダラボン尾静脈注射により酸化ストレスを抑制すると細胞死が抑制される事を明らかにした。活性酸素生成の指標の検討についても進めており、概ね順調に進んでいると考える。また、興奮毒性によるVCPの発現増加は、細胞死が生じる錐体細胞層だけでなく、グリア細胞でも発現が増加している事が明らかになった。顕微鏡観察による細胞形態から、VCPを発現している細胞は活性化アストロサイトではないかと考えているが、組織染色にて今後確認したい。今後の方向性のひとつとして、グリア細胞の活性化におけるVCPの発現増加の意義や、神経細胞死との関わりについても視野に入れたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、マウス海馬神経細胞由来HT-22あるいは海馬神経細胞の初代培養を用いて、興奮毒性による神経細胞死におけるVCPの役割の詳細を検討する。培養細胞にカイニン酸あるいは酸化ストレスとして過酸化水素を添加し、TUNEL染色やPI染色にて神経細胞死を定量する。活性酸素生成量や、生体高分子への酸化損傷、VCPのカルボニル化量を、細胞染色やウェスタンブロット法を用いて定量評価する。これらの変化が、活性酸素を消去するエダラボンによって抑制されるか検討し、興奮毒性による酸化ストレスとVCPのカルボニル化、細胞死の関連を検討する。小胞体ストレスの評価として小胞体ストレスマーカー、ポリユビキチン化タンパク質蓄積を定量解析し、VCPのカルボニル化が小胞体ストレス誘導と細胞死に関与することを明らかにする。VCPのシャペロン機能代償による神経細胞死抑制効果を検討するため、ケミカルシャペロンである4-フェニル酪酸を用いて、カイニン酸添加後の神経細胞死抑制効果を検討する。活性酸素生成量、カルボニル化タンパク質量、VCPのカルボニル化、ポリユビキチン化タンパク質量、小胞体ストレスマーカー分子、神経細胞死を定量し、神経細胞保護効果を評価する。興奮毒性によるVCPの発現増加がグリア細胞でも認められたことから、興奮毒性に対するグリア細胞応答とVCP発現増加の関連についても解析を試みたい。
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Causes of Carryover |
脳組織標本を作製するにあたり、免疫染色と抗体の性質によって固定液と固定方法を検討する予定であり、灌流固定に必要な装置を購入申請した。しかし、最初に浸漬固定標本で検討した結果、目的の抗体の染色性が認められ、灌流固定でなくとも実験を進める事ができたため、購入を見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、パラフィンブロックを薄切するミクロトームを学内の他の研究室に借りているため、作業等に時間の制約があり、研究を進める上でやや不便である。研究課題をより円滑に進めるため、新たにミクロトームの購入を計画している。
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Research Products
(4 results)