2016 Fiscal Year Research-status Report
国内全域のPET施設に配達可能なCu-64標識PET用がん診断薬剤の開発
Project/Area Number |
16K10298
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Research Institution | Suzuka University of Medical Science |
Principal Investigator |
飯田 靖彦 鈴鹿医療科学大学, 薬学部, 教授 (60252425)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 64Cu / PET / がん診断 / somatostatin / キレート / 放射性薬剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
PETはシンチカメラ、SPECTに比べ定量性、解像度の点で優れているが、現在PETで用いられている放射性核種(RI)はいずれも半減期が短く(2分~110分)、その利用にはサイクロトロンを必要とするなど汎用性の点で劣っている。本研究では、臨床利用に適した半減期(12.7時間)を有する64Cuで標識した新しいPET用がん診断薬剤の開発を計画し、今回、somatostatin (SST)誘導体をファーマコフォアに持ち、ペプチドN末端に金属キレータを有する4種類の新規SST誘導体の分子設計および合成を行った。SST誘導体のファーマコフォアにはTATE (DPhe-c[Cys-Tyr-DTrp-Lys-Thr-Cys]-Thr)を、Cuキレータには市販のDOTA-NHS esterまたは p-SCN-Bn-DOTA、あるいはATSM系CuキレータのHxBTまたはHpBTを選択し、合成した。4種のSST誘導体(DOTA系誘導体: DOTA-TATE, DBA-TATE、ATSM系誘導体: HxBT-TATE, HpBT-TATE)をHPLCで分取精製し、凍結乾燥して最終目的物を得た。SST誘導体の非放射性Cu複合体(natCu-SST)を合成し、これら複合体の物性評価および生体からのクリアランス予測評価を行ったところ、LogD7.4値は、DOTA系誘導体では-3.0以下、ATSM系誘導体では1.0~1.5程度を示し、またタンパク結合率は、DOTA系誘導体では20~30%程度、ATSM系誘導体では99%程度の極めて高いタンパク結合率を示した。今後は今回合成したSST誘導体を64Cuで標識し、動物実験等でPET用がん診断薬剤としての有効性を基礎的に検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は64Cu標識を合成し、得られた化合物についてその物理化学的性質を明らかにする予定であった。今回、分子設計した4種のSST誘導体のうち、DOTA-Bn-TATEを除く3種は全行程収率4~10%で高純度な化合物を合成することができた。DOTA-Bn-TATEについては、合成過程中の副反応により設計分子を合成することができなかったため、DOTA-BnとTATEのN末端のDPhe残基の間に、Abu (γ-aminobutyric acid)を挿入した分子設計(DOTA-Bn-Abu-TATE: DBA-TATE)に変更し、合成を試みた結果、3種のSST誘導体同様、全行程収率4.6%で高純度な化合物を合成することができた。 4種SST誘導体の非放射性Cu複合体(natCu-SST)を合成し、これらの物性評価および生体からのクリアランス予測評価を行った。また、血清中での安定性についても調べた。その結果、natCu-DBA-TATE はインキュベート開始後2時間で残存率60%となり、その他3種の化合物は、いずれも2時間経過後においても90%以上が残存すること、DOTA系誘導体は脂溶性が低くタンパク結合率も低い化合物であり、ATSM系誘導体は脂溶性が高くタンパク結合率も高い化合物であることが分かった。これらの結果から、ATSM系誘導体は、DOTA系誘導体に比べ血中からのクリアランスが低下する可能性があると思われ、動物実験を通して、4種SST誘導体のPET用がん診断薬剤としての有用性を評価する必要があるものと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
64Cuを用いて4種のSST誘導体を標識する。その際、高濃度の未標識体が残存すると腫瘍組織において未標識体と64Cu 標識体が取り込み時に拮抗し、64Cu 標識体の取り込み量が低下する可能性がある。そこで本研究では、より効率的に64Cu標識することができる合成法を検討することとし、近年その有用性が報告されているmicrowave合成装置を用いて同位体交換法により標識合成する。まず、非放射性Cu (natCu)とSST誘導体をmicrowave照射下において反応後、反応溶液から固相抽出法を用いて未反応のnatCuを抽出する。未反応natCuをICP-MSを用いて定量することでnatCuのSST誘導体への導入率を求める。得られた反応条件をもとに64Cuと4種のSST誘導体を反応させ、64Cu標識体を合成する。 次いで、担がんモデルマウスによるインビボイメージング実験を実施する。64Cu標識体の腫瘍集積性および他臓器への非特異的集積を検討する。得られた結果からSST誘導体の物理化学的性質と腫瘍集積性、選択性の関連について調べ、新たな化合物開発へと結びつける。 64Cu標識SST誘導体のがん診断薬剤としての有用性が得られれば、さらに脳腫瘍モデル、炎症モデルを作製し、現在がん診断薬として汎用されている18F-FDGでは診断が困難な脳腫瘍や炎症との鑑別診断への適用性について検討を行っていく。
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Causes of Carryover |
今回分子設計した4種のSST誘導体のうち、DOTA-Bn-TATEを除く3種は高純度な化合物を合成することができたが、DOTA-Bn-TATEについては、合成過程中の副反応により設計分子を合成することができなかった。合成過程で生じた副生成物はm/z=902 [M+H]+であり、目的物からDOTA-Bn-DPhe部分が除去された化合物であると推測された。そこで、この副反応を回避するため、DOTA-BnとTATEのN末端のDPhe残基の間に、Abu (γ-aminobutyric acid)を挿入した分子設計(DOTA-Bn-Abu-TATE: DBA-TATE)に変更し、合成を試みた。その結果、DBA-TATEの合成には成功したが、64Cuを用いた標識条件の検討、担がんモデルマウスにおける腫瘍集積性の検討は29年度以降に実施することになり、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は、マイクロウェーブ合成装置を用いて高比放射能の64Cu 標識SST誘導体を合成する。また、担がんモデルマウスにおける腫瘍集積性を検討する。64Cuの製造とヌードマウスの購入で全額を使用する予定である。
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