2017 Fiscal Year Research-status Report
超高磁場MR装置を用いたグルタミン酸興奮毒性の病態解明
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16K10329
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Research Institution | Tokyo Women's Medical University |
Principal Investigator |
高梨 潤一 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (00302555)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | グルタミン酸毒性 / モデルマウス / MRスペクトルスコピー / 急性脳症 |
Outline of Annual Research Achievements |
グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性神経伝達物質であり、記憶や学習機能に重要な役割を果たしている。過剰に放出されたシナプス内グルタミン酸は、神経細胞障害を引き起こし種々の神経疾患の原因と考えられている。しかし、過剰なグルタミン酸が引き起こす脳化学変化は十分に解明されていない。 平成29年度は、リン脂質代謝酵素欠損マウス(Pnpla7変異マウス)の脳代謝の検討を継続した。PNPLA7はリポホスファチジンコリンをグリセロホスホコリンに変換するリゾフォスフォリパーゼであり、内因性のコリン成分を産生する経路の一部である。その欠損マウスに対し、放射線医学総合研究所の7テスラ前臨床MR装置を用いたMRSを施行した。Pnpla7変異マウスの視床でN-acetylaspartate (NAA), creatine (Cr), choline (Cho), glutamate (Glu) 低値、myo-Inositol (mIns) 高値、皮質でNAA, Glu, GABA低値、mIns, Glutamine (Gln) 高値が認められた。PNPLA7は中枢神経において髄鞘形成に寄与し、その欠損は髄鞘低形成に加えて神経細胞障害、Glu-Glnサイクル異常をきたす可能性が考えられた。 また、グルタミン酸毒性が関与する想定されるけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の脳代謝解析を継続した。臨床的に二相性を呈さず、画像的にも bright tree appeance を認めない急性脳症の中でMRSにて一過性のGlu/Gln高値を呈する一群があることを見出し、Mild encephalopathy associated with excitotoxicity (MEEX) として発表報告した。 グルタミン酸毒性の疾患概念を拡げる新たな知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展している。 グルタミン酸トランスポーターコンディショナルノックアウト (GLT1 iKO) マウスに対するMRSによる脳代謝解析は、24-27年度の大脳白質形成不全症を中心とした研究を継続するものである。確立した測定技術のもと、信頼性のあるデータを取得できている。平成29年度に施行したリン脂質代謝酵素欠損マウス(Pnpla7変異マウス)のMRS解析結果は、病理所見と比較検討し報告する予定である。 マウスで得られた成果をもとに、グルタミン酸毒性の想定されているけいれん重積型(二相性)急性脳症(AESD)の脳代謝についても並行して解析を施行している。そのなかで興奮毒性が関与する新たな急性脳症概念(MEEX)を報告した。第60回日本小児神経学会シンポジウム「急性脳症の最新知見」において「興奮毒性型急性脳症スペクトラムの拡がり」として講演予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
リン脂質代謝酵素欠損マウス(Pnpla7変異マウス)のMRSで得られた脳代謝を病理所見と比較検討する。その欠損が膜代謝ならびにグルタミン酸-グルタミンサイクルに及ぼす変化について解明する。 Pnpla7変異マウスの実験終了後、Btbd9 変異マウスの実験を施行する。同マウスはrestless leg syndrome(むずむず脚症候群)のモデルマウスである。むずむず脚症候群の病態は不明確であるが、中枢ドパミン系機能低下、鉄利用障害が想定されている。本マウスの検討により、むずむず脚症候群におけるグルタミン酸・グルタミンサイクルの関与を解明する。 また急性脳症におけるグルタミン酸毒性の解明・治療効果判定を継続して施行する。神経予後判定におけるグルタミン酸・グルタミン測定の意義についても検討を予定している。
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Causes of Carryover |
実験動物MRSに関する最先端の情報収集、研究者との討論のため、研究代表者は欧州神経放射線学会(40th ESNR スウェーデン・マルメ)に参加し論議した。旅費・その他(学会参加費)はおおむね予定通りの支出である。一方で、予定していた画像解析システムの購入を延期したこと、マウス脳免疫染色試薬などの新規購入が不要となったことから物品費が予定額を下回った。 平成30年度は実験動物MRSならびにグルタミン酸興奮毒性に関する最先端の情報収集、研究者との討論のため、国際磁気共鳴医学会 (ISMRM 2018 フランス・パリ) への参加を予定し、そのための参加費・旅費支出を予定している。物品費として画像情報解析システムに加えて、MR試薬購入、マウスモデル脳の病理解析、論文校正の支出などを予定している。
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