2017 Fiscal Year Research-status Report
舌痛症における脳病態解明に向けて-脳形態及び機能に関する統合的高磁場MRI解析
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16K10330
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 修 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (50302716)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | burning mouth syndrome / diffusion tensor imaging / functional connectivity / MR imaging / structural connectivity / surface-based analysis / voxel-based morphometry |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は口腔内の器質的疾患がなく、さらに他覚的所見が無いにもかかわらず、生活の質を低下させる舌痛症における脳形態および脳機能の異常を、脳画像を介して客観的に明らかにすることにある。本年度も引き続き日本大学医学部附属板橋病院の3テスラMRI装置を用いて舌痛症患者および正常ボランティアの撮像を行ってきた。現時点で舌痛症症例11名、正常ボランティア5名と本格的な解析を行うには後者の人数が少ないために、最終的な画像解析は次年度に譲り、解析環境の構築および最適化を行った。具体的には3次元T1強調像を用いたvoxel-basedおよびsurface-based morphometry(VBMおよびSBM)法による全脳・局所の形態解析、拡散テンソル画像を用いたmean diffusivity (MD)、axial and radial diffusivity (AD and RD)、fractional anisotropy (FA)解析のみならず、グラフ理論を用いた白質のネットワーク評価(structural connectivity)、安静時機能的MRIを用いた独立成分分析法による安静時の皮質ネットワーク評価およびグラフ理論を用いたネットワーク評価(functional connectivity)である。前年において1.5テスラデータを用いてstructural connectivityの解析結果について論文報告した(Neuroradiology. 2017 May;59(5):525-532. doi: 10.1007/s00234-017-1830-2)が、この際に用いた手法ではconnectivity解析で用いるatlasが単一のそれ(Desikan-Killiany Atlas)に限定されるために、本年度は解析疾患に応じて自由にatlasが変えられるように解析方法を工夫した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主たる研究施設であり、症例リクルート・加療および効果判定を担当している連携研究者の所属する日本大学歯学部の倫理委員会において平成28年11月17日に本研究は承認されたが、東京大学における倫理委員会承認が平成30年2月5日にずれこんだためそれまでは日本大学医学部付属板橋病院の3テスラMRI装置での撮像を継続した。舌痛症患者は11名と比較的十分な症例の撮像ができたが、正常ボランティアの撮像が5名と少なかったため、今後は年齢・性別のマッチした正常ボランティアのリクルートおよび撮像に特に力を入れる予定である。これまで1)VBMおよびSBM解析の前段階における歪み補正および不均一信号補正の有効性、2)拡散解析の前段階における静磁場不均一性および強力な拡散検出傾斜磁場による渦電流に起因する歪み補正の有効性、3)機能的MRIにおける静磁場不均一に起因する歪み補正の有効性について検討を加えてきた。その結果、1.5テスラのデータではあるが舌痛症におけるstructural connectivityの異常(Neuroradiology. 2017 59(5):525-532)、温度刺激に対する反応性の違い(J Dent Res. 2016 95(10):1138-46)、拡散画像における静磁場不均一性および強力な拡散検出傾斜磁場による渦電流に起因する歪み補正の有効性(PLoS One. 2014 18;9(11):e112411)などを報告してきた。現時点では正常ボランティアが5名と少なく本格的解析を加えるには十分な症例が登録できていないが、今後症例数を増やし、信号雑音比に優れた3テスラMRIデータを解析していくことにより、1.5テスラMRIデータでは捉えられなかった微細な異常を検出可能になることが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者が所属する東京大学医学部附属病院には複数の3テスラMRI装置が稼働しており、前施設では撮像が不可能であった圧縮センシング(compressed sensing: CS)や多断面同時励起法(simultaneous multi-slice imaging: SMS)による撮像時間の短縮、あるいは時間・空間分解能の向上が可能である。CSおよび/またはSMS法を用いることで、拡散画像では拡散検出傾斜磁場印加方向の増加、複数のb値を用いたdiffusion kurtosis imagingやNeurite orientation dispersion and density imaging解析など、従来の正規分布を前提とした拡散テンソル解析で捉えられなかった細胞レベルの拡散環境がより正確に捉えられる可能性がある。これまでは各ボクセル値の大小により群間差や臨床指標との相関について画像統計解析が行われてきたが、われわれの脳はネットワークとして活動しており、本年度確立したstructural & functional connectivity解析により、より実態に近い舌痛症患者の脳内ネットワーク異常を解析可能となり新たな知見が見いだせる可能性もある。また安静時機能的MRIではSMS法を用いて高時間分解能化することで、周波数分離の精度が向上し、呼吸や心拍動などによるartifactを除去した、目的の安静時ネットワークのみを検出することが可能になる。これまでに検討してきた各種画像の前処理による品質向上、解析手法の洗練化に加え、あらたに上記シークエンスを加えることで、研究構想時には不可能であった追加の情報取得が可能になると考えられる。平成30年度は東京大学における3テスラMRI撮像を重ね、画像データを取得することで、その後のデータ処理は速やかに施行できる準備は整っていると言える。
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