2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K10407
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
川野 光子 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 研究員(任常) (90422203)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放射線障害 / 繊維芽細胞増殖因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、放射線によるがん治療の更なる可能性を妨げている放射線障害の解決に向けた基礎研究であり、特にがん治療時の正常組織に対する放射線障害を効率的に防護する分子の探索を目的としている。重粒子線は、生物学的効果が高く、照射深度の調節が容易であることから、正常組織への副作用を最小限に抑えて体内のがん病巣に集中的に照射できる放射線治療技術であり、今後国際的な普及が予想される。しかしながら、周囲の正常組織への被ばくは皆無ではないことから、重粒子線組織障害を予防・治療する技術があれば、これまで以上に重粒子線は癌治療のパワフルなツールとなり得る。 繊維芽細胞増殖因子(FGF)は、広範囲な組織での細胞増殖や分化において重要な増殖因子であり、現在までにヒトおよびマウスでそれぞれ22 種類のリガンドと7 種類の受容体が同定されている。FGFは生体において発生から高次機能の調節に至るまで多様な機能を持ち、複数のリガンドが放射線障害に対する防御機能を持つことが明らかにされた。これまでに、申請者が所属するグループでは、ガンマ線による放射線組織障害に対するFGFの防護効果を検討し、複数のFGFメンバーが防護効果を有することを報告してきた。本研究課題では、重粒子線による組織障害に対してもFGFが防護剤として有効であるか検討することを目的とした。 マウスの全身に重粒子線を照射し、腸管に障害を誘導する線量をクリプトアッセイにより検討し、重粒子線障害マウスモデルを作製した。このモデルを利用して、重粒子線による組織障害/修復に関与するFGFの同定を試み、さらにその作用機序についての検討を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重粒子線照射による放射線障害を評価するマウスモデルを構築するため、既に放射線腸管障害を誘導することを確認済みのガンマ線10 Gy照射後3.5日目と同等の腸管障害を誘導する炭素イオン線の線量を検討した。我々の目的は、腫瘍に重粒子線を照射した際、周囲の正常組織を放射線障害から防護するためのFGFの機能解析であることから、低LETゾーン(RBEを1.2~1.5程度と予測)における照射を実施し、FGF投与による重粒子線腸管障害の軽減の評価に適した線量を決定した。 FGFおよびFGF変異体を用いて、重粒子線腸管障害に対する防護能を検討したところ、有意に障害を軽減するメンバーを見出した。クリプトにおけるアポトーシスおよびDNA二重鎖切断等を経時的に検討し、作用機序解析を実施している。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度に見出した重粒子線腸管障害を軽減するFGFについての作用機序解析を進めるとともに、引き続き、重粒子線腸管障害の発症に係わるFGFの網羅的解析を進める。また、H28年度に構築した重粒子線障害マウスモデルを用いて、放射線障害との関連が示唆されたFGFメンバーを放射線照射の前後で投与した場合に、放射線障害が増悪/緩和されるか評価し、予防・治療効果の有無および効果的な投与方法等について検討を進める。以上により、ヒトの病態に即した効率的な研究推進を実現し、学術面・臨床面の双方で真に貢献することを目指す。
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Causes of Carryover |
H28年10月からの半年間、所属機関から内閣官房への出向となり、それに伴い、H28年度は、重粒子線障害マウスモデルの構築およびFGF投与による重粒子線腸管障害の軽減についての評価が主な研究実施内容となった。詳細な機能解析等はH29年度以降となることから、必要な消耗品(主に分子生物学実験で用いる試薬類)についての購入が次年度以降となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年に実施できなかった分子細胞生物学的な機能解析に用いる試薬類および実験動物の購入に使用するとともに、論文投稿や学会発表等を行い、投稿費用や旅費等に使用する。
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