2017 Fiscal Year Research-status Report
肝細胞の代謝制御におけるオートファジーの意義-KO細胞の網羅的メタボローム解析
Project/Area Number |
16K10577
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
戸島 剛男 九州大学, 大学病院, 助教 (40608965)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
調 憲 群馬大学, 大学院医学系研究科, 教授 (70264025)
副島 雄二 九州大学, 大学病院, 助教 (30325526)
吉住 朋晴 九州大学, 医学研究院, 准教授 (80363373)
池上 徹 九州大学, 大学病院, 助教 (80432938)
播本 憲史 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (00419582)
伊藤 心二 九州大学, 大学病院, その他 (90382423)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | オートファジー / 肝再生 / 肝細胞代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、オートファジーの制御を利用した肝再生治療実用化を目的として、まずは正常肝及び病的肝(脂質代謝異常に基づく脂肪肝・ 非アルコール性脂肪肝炎・糖尿病など)における再生肝のオートファジーの役割を明らかにした。 具体的には、Cre-loxPの遺伝子ノックアウト手法を用いて、肝特異的にオートファジー関連遺伝子(Atg5)のノックアウト(KO)マウスを作成した。同マウスを用いた肝切除後の肝再生を利用して肝細胞の代謝におけるオートファジーの意義について検討を行った。その際、脂肪肝マウスモデルを用いて比較検討を行った。 結果として、db/dbマウスはコントロールマウスと比較して、(1)有意に肝切除後の生存率が低く、肝再生率の遅延を認めた。(2)肝再生時における 血清ALT値は有意に高かった。(3)オートファゴソーム数は有意に少なく、AP関連タンパク質であるAtg5の発現低下を認めた。 以上の結果より、脂肪肝部分切除後においてオートファジーの機能が低下している可能性が強く示唆された。 さらに、機能解析の一助としてNrf2と呼ばれる細胞内レドックスの主な制御因子に注目した。Nrf2はantioxidant elements(ARE)の転写因子であり、細胞内代謝の改変によりNADPH産生を亢進させ、細胞内ROSの制御に利用することが知られている。本研究においては、肝癌細胞株を用いた実験系において、肝癌細胞の遊走能はNrf2抑制によって低下し、Keap1抑制によるNrf2活性化で亢進した。さらに、Nrf2抑制によって非接着培養での生存率が低下した他、単細胞からのスフェロイド形成能はNrf2抑制によって低下し、Keap1抑制によるNrf2活性化で亢進する結果であった。 以上、本研究は、病的肝の再生時のオートファジーの役割解明につながるとともに、Nrf2-Keap1シグナルとの深い関わりが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの検討において、上記の通り正常肝における再生肝のオートファジーの役割を明らかにすることができた。具体的には、肝特異的にオートファジー関連遺伝子(Atg5)のノックアウト(KO)マウスを用いることで、肝再生時にオートファジーが核の増殖能の低下(B rdU取り込み率の低下)、障害蛋白質の除去(p62蛋白質)、肝機能の維持(AST/ALT値、血清アルブミン値)に強く関わることが示された。 予想外にも、それらの原因として、p21蛋白質に起因する細胞周期の遅延(細胞周期G2やS期の減少、CyclinDの低発現)や、肝組織中ATP の低下、細胞老化(cell senescence)の促進が考えられたことが、本研究による新規発見であるとともに、病的肝における再生遅延の 機序解明に深くつながると考えられた。 これらの結果をふまえ、今後は正常肝のみにあらず病的肝(特に、大量肝切除後、脂質代謝異常に基づく脂肪肝・非アルコール性脂肪 肝炎・糖尿病など)における再生時(肝細胞増殖時)の機能解析の一助としてメタボローム解析を行うことで、オートファジーの役割解明を深く研究するとともに、病的肝における再生率回復を図るための重要な基礎研究を継続していく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
肝再生は古くから組織再生モデルとして様々な面から研究されてきたが、いずれも単独もしくは数種類の遺伝子・蛋白の制御に終始しており、高度に組織化された生命現象である肝再生を十分にコントロールし、臨床応用に至った研究実績はこれまで認めない。肝幹細胞の制御に関しても、その質的・量的動態を図るにまだまだ時間がかかると考えられる。一方、 オートファジーは細胞内のタンパク質を分解するための仕組みの一つであり、細胞内蛋白質の分解と合成(再構成)に重要な働きを担っており、細胞のストレスに応じて遺伝子・蛋白を大規模に調節する生命現象として機能している。 本研究により、オートファジーという細胞内現象が肝再生という組織の一現象に深く関わっていることは明らかであり、術後の肝再生制御という命題、つまり肝癌及び末期肝硬変にとって残された最大の関門に対して、行政機関を含めた、肝切除・肝移植実施施設が総力を挙げて優先的に取り組むべき課題と考えられる。当面は、当科において総力的に実験系をすすめていく所存である。
|
Causes of Carryover |
当初行う予定であった、オートファジーノックアウト肝細胞の培養実験及びNrf2系シグナルの下流解析に関する実験が実験系の都合上で次年度に行うこととなりまして、次年度 50000円の研究費として、上述の実験試薬・細胞培養に関する試薬を購入予定のため、計上させて頂きました。
|