2018 Fiscal Year Research-status Report
重症虚血肢に対する老化制御遺伝子BubR1導入による革新的血管新生療法
Project/Area Number |
16K10662
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
松本 拓也 国際医療福祉大学, 医学部, 主任教授 (20374168)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古山 正 九州大学, 大学病院, 助教 (00419590)
前原 喜彦 福岡歯科大学, 口腔歯学部, 客員教授 (80165662)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 重症虚血肢 / 血管新生因子 / BubR1 / 老化 / 細胞周期遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢は血管新生を減弱させ、血管内皮細胞の機能低下を引き起こし、高齢者において、心血管疾患の罹患率と後遺症を増加させ、生命や肢の予後を悪化させる。この現象は50年以上前より報告されているが、加齢に伴う血管新生能力低下に関しての分子的機序は、これまで十分には明らかにされていない。BubR1 (budding uninhibited by benzimidazole-related 1)は、有糸分裂において姉妹染色体が正しく分裂しているかどうかを観察する、紡錘体形成チェックポイント機構の中心的な構成要素の一つである。BubR1の発現を低下させたマウスにおいては、染色体の異数性形成、白内障、亀背、皮下脂肪の減少、創傷治癒遅延、短命、不妊等、加齢を示す表現型を早期から呈することが明らかにされている。しかしながら、血管疾患や血管新生においてBubR1が果たす役割は、これまで明らかにされていない。血管新生は複数の血管新生因子を含めた、種々の細胞による多様の遺伝子産物が関与した複雑な過程である。血管内皮増殖因子VEGF、肝細胞増殖因子HGF、繊維芽細胞増殖因子FGF-2は強力な血管新生調節因子である。我々は以前in vivoでの実験で、虚血肢モデルマウスにおいて、FGF-2がVEGFとHGFの発現を増加させることを示した。虚血は低酸素状態をもたらし、VEGFや他の血管新生因子の分泌を刺激し、新生血管を誘導する。 BubR1の血管新生に対する生理学的関連性は、まだ明らかにはされていない。従って本研究で我々は、血管新生におけるBubR1の役割を明らかにするためにBubR1の発現を低下させたマウス(BubR1L/-)を作製し、実験を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
BubR1の発現低下は、虚血誘導後の下肢において、血管新生を減弱させ、下肢の脱落をもたらした。BubR1は重要な血管新生因子であり、虚血肢の治療において有用なものとなる可能性が示唆されたが、BubR1の血管新生に関する更なる分子機序の解明、及びBubR1を補充もしくは、他の遺伝子との同時補充により血管新生を回復できるか検討する必要があるため。
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Strategy for Future Research Activity |
BubR1が血管新生における鍵となる因子であり、虚血性の疾患に対して治療学的な標的となる可能性を現在までの研究で示せた。BubR1の発現の低下は、虚血肢におけるVEGF蛋白の発現を低下させ、下肢の救肢率も低下させており、BubR1は、救肢率を改善させる重要な役割を果たす可能性があることが示唆された。加齢に伴いBubR1の発現が低下した際に、VEGFなどの虚血に対峙する血管新生因子の発現の低下のために、血管新生の減弱がもたらされる。よって、BubR1の発現の低下は血管新生を遅らせ、下肢の脱落という結果をもたらすことになりうると考えられる。 本研究にはいくつかの限定事項が存在する。HGFやFGF2ではなく、VEGFの発現のみを選択的に調整するような、BubR1を含んだシグナル伝達経路が十分に解明されていないことに加え、新生血管形成時に、BubR1の発現の低下によって、未熟な血管ががどれくらいの割合で誘導されているかが、はっきりとしないままであることである。 慢性、または急性の下肢虚血患者に対する、BubR1の発現の低下の影響を明らかにするためには、更なる研究が必要である。
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Causes of Carryover |
BubR1の発現低下は、虚血誘導後の下肢において、血管新生を減弱させ、下肢の脱落をもたらした。BubR1は重要な血管新生因子であり、虚血肢の治療において有用なものとなる可能性が示唆された。次年度使用が生じたのは、BubR1の血管新生に関する更なる分子機序の解明、及びBubR1を補充もしくは、他の遺伝子との同時補充により血管新生を回復できるか検討する必要があるため。
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