2017 Fiscal Year Research-status Report
ヒト先天性脊柱側弯症における発症機序の解明と遺伝子診断法の確立
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16K10809
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
飯塚 伯 群馬大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (90334119)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下川 哲昭 高崎健康福祉大学, 健康福祉学部, 教授 (90235680)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 先天性側弯症 / 先天性側弯症モデルマウス / 遺伝子解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、先天性脊柱後側弯症モデル動物 (Ishibashi rat: IS)を用いて骨形成および形態形成関連遺伝子の発現動態と脊椎の構造異常との関係性を胎生初期から発症まで詳細に検討し、どの遺伝子がどの時期に発現低下する/過剰となることによって脊柱側弯が生じるのかを明らかにすることにある。モデル動物の解析としては、これまでの先行研究においてISの組織学的検討として、腰仙椎部における胎生期の一次骨化中心の異常を報告した。さらに遺伝子発現解析としては腰仙椎部におけるHox遺伝子群の発現異常を同定し、またDNA microarrayによる網羅的な遺伝子解析結果からISの腰椎部におけるTrk遺伝子群の発現低下を報告した。平成28年度からは、ISの腰椎におけるレチノール代謝系に関しての遺伝子発現解析を行い、レチノール代謝の際に働く酵素(Adh1, Aldh1a2)や下流の代謝産物であるレチノイン酸の核内受容体(Rara)の遺伝子発現の低下とISのレチノール血中濃度が高値であることを同定した。また、ISの腰椎の器官培養を行い、レチノイン酸やRaraのアゴニストによって刺激することによるRaraの発現を解析したところ、Raraのアゴニストの付加によりISの腰椎におけるRaraの発現は有意に増加した。さらに、レチノイン酸の付加によりコントロールラットと同レベルまでRaraの発現を増加させた。レチノールはRaraによって仲介されたRANKLを増やすことで骨吸収を刺激しており、器官培養の結果からはリガンドがISの腰椎のRaraに対して十分であれば骨吸収は正常に行われると考えられるが、我々のDNA microarrayの結果ではRANKLの発現レベルは上昇しており、Raraの発現低下によるRANKLを通した骨吸収の阻害により椎体異常をきたしている可能性は低いと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年4月現在において、脊柱側弯症患者の脊椎試料の確保が出来ずにヒトでの解析は開始できていない。一方モデル動物の解析としては、モデルラットの腰椎において、Trk, Raraと相互作用のあるBMP2の発現が低下していることを同定した。In vitroの実験で、Raraの特異的なアゴニストとレチノイン酸はRaraを通してBMP2の発現を誘導し、BMP2はtrkCの発現を誘導することが知られている。これらの結果から、Rara, Trk, のBMP2を介した相互作用の破綻によるレチノール代謝経路のダウンレギュレーションがISの椎体異常の原因である可能性が高いと考えられた。一方で、脊柱後側弯の進行に関わる因子の解析を目的として、ISの脊柱変形進行の時期の観察と、ISの腰椎におけるmiRNA解析を行った。ISの腰椎にAlcian blue, Alizarin red染色を行い脊柱の形態を確認したところ、4日、1週時点では一次骨化中心の癒合と分裂、2週から4週時点では輪状骨端核の癒合と側弯変形の進行、6週時点では癒合椎の完成を確認した。miRNA arrayによる解析ではmiR-224-5pがコントロールの2倍以上の発現上昇, miR-194-3p, miR-9a-5p, miR-96-5p, miR-182がコントロールの0.5倍以下の発現低下を認めており、このうち骨、軟骨に関わるmiR-182に関してパスウェイ解析を行ったところ、破骨細胞の分化に関わるMITF, 軟骨細胞分化を阻害するSmad7, 骨芽細胞の増殖と分化を促進するSmad1の3経路を阻害することがわかった。まとめると、ISにおいてはmiR-182の発現異常により正常な骨成長が妨げられている可能性が考えられ、このことからmiR-182が脊柱後側弯変形の進行に関与している可能性が考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、ISにおける奇形椎の発生時期を組織学的に検討するために、胎生期の軟骨形成が終了する胎生12日を目安にその前後数日での胎仔を採取し、脊椎標本を作製後、HE染色、アリザリンレッド・アルシャンブルー染色を行っている。また、奇形椎の発生時期に合わせて椎骨よりmRNA・タンパク質を抽出し、先行研究でのDNA microarray解析で発現低下を認めたTrk(神経成長因子受容体)遺伝子群、レチノール代謝に関する遺伝子群を中心にRT-PCR、Western blottingなど遺伝子、タンパク質レベルでの解析を進めている。これらの解析結果により奇形椎を生じる原因となる候補遺伝子を同定し、脊椎側弯症患者の脊椎試料における解析により最終的にヒト先天性脊柱側弯症の原因遺伝子を特定し、脊柱側弯症の早期遺伝子診断法の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
(理由) 研究を遂行する上で、金額的に残金に適当な薬品や実験器具がなかった。 (使用計画) 本年度の給付予定の研究費を含めて、適切に研究材料や薬品を使用していきたい。
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Research Products
(3 results)