2017 Fiscal Year Research-status Report
筋骨格系の異所性骨化症の発症分子機構の解明と治療法開発
Project/Area Number |
16K10892
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
江面 陽一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (50333456)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 異所性骨化 / 靭帯骨化 / 腱内骨化 / 腱細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎靭帯及び大関節周囲部に生じる異所性骨化症は四肢麻痺や関節拘縮などの原因となる病態であり、その発症機構の解明と有効な予防治療法の開発が望まれる。本研究はマウスの踵骨腱切離モデルを用いて加齢・炎症・神経障害に基づく異所性骨化発症の病態理解を進めるとともに、有効な治療法開発の糸口となる基盤的知見の確立を目指している。 初年度に検討した、異なる週齢の野生型C57BL6/Jマウスにおける踵骨腱切離モデルによる石灰化の発症には時間を要し、またその程度は軽微であったため組織抽出液中の活性因子同定は非常に困難であった。より明らかな異所性骨化を生じる実験系として、本年度は脊椎靭帯の異所性骨化を自然発症するSlc29a1遺伝子を欠損する遺伝子改変マウスの導入を目指した。しかし導入されたヘテロ欠損マウスは皮膚炎・肥満などを併発して繁殖が遅延したため、人工授精による繁殖の試みによって、ようやく交配計画が進捗した。手術手技の変更点として単純切離ではなく注射針による部分欠損作成が有効であり、背部皮膚への熱傷刺激、周辺組織へのサイトカイン投与の影響を検討している。 以上のようなインビボ実験系の遅れを補うため、細胞培養の実験系によって、腱細胞株TT-D6および趾屈筋腱由来の初代腱細胞の石灰化骨結節誘導アッセイを行い、炎症性サイトカイン、活性酸素、成長因子の影響を検討することで、最終的なインビボ実験系における検証系の方向性を探索している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の計画では、野生型マウス異所性骨化モデルとして踵骨腱切離モデルを利用して、老化・酸化ストレス・炎症性サイトカイン・外傷・神経損傷などの異所性骨化に及ぼす影響を検討する予定であった。しかしC57BL6系統の野生型マウスのインビボモデルでは、病巣形成の評価を高精度におこなう必要があり、その実施がやや困難であった。したがって、週齢および追加侵襲の有無を含めたモデル実験系の見直しに時間を要した。解決策として、脊椎靭帯の異所性骨化を自然発症するSlc29a1遺伝子を欠損した遺伝子改変動物の導入を計画したが、本改変動物の入手および繁殖にはさらなる時間が必要であった。結果として、研究進捗はやや遅れているが、培養細胞系を用いた検討では当初の研究計画に基づく方向性で研究は進捗しており、酸化ストレス応答が腱細胞の骨分化を促進する可能性を見出した。また炎症性サイトカインの影響は細胞種によって異なる傾向が見出された。最終年度においてはインビボモデルと合わせて統合的な評価を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに細胞培養による実験系から、酸化ストレス応答が腱細胞の骨分化を促進する可能性を見出したが、この培養系を用いて細胞外へ分泌される多様な因子の定量比較を行う。またこの現象は細胞株TT-D6を用いて見出されたものであるため、各種細胞における普遍性もしくは特異性を明らかにする。すなわち関節包組織や靭帯、腱を含めた組織潜在性の各種間葉系幹細胞と初代腱細胞を用いて、酸化ストレス負荷の骨分化誘導性を検証する。炎症性サイトカインの影響についてTT-D6細胞の骨分化をむしろ抑制する傾向が見出されているが、異なる細胞においては骨化結節形成を促進する結果が得られているため、その応答性の細胞特異性についてさらに検討を進める。 インビボモデルの異所性骨化形成については、Slc29a1遺伝子のヘテロ欠損マウスを含めた改変マウスを用いて、熱傷負荷やサイトカイン負荷が酸化ストレス応答の細胞内シグナルに及ぼす影響を検討し、各種抗酸化物質の異所性骨化に対する改善もしくは予防効果を検討することで、当初からの研究目標を達成する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究計画における野生型マウスによる検討には困難が伴うため、遺伝子改変マウスを利用した検討に方向性を修正した。その結果として本年度の研究は培養系の実験が主体となり使用額は低額となった。遺伝子改変マウス繁殖に時間が費やされたため、インビボ実験による検証は来年度に持ち越された。
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