2017 Fiscal Year Research-status Report
麻酔薬による、糖質コルチコイド誘導免疫細胞アポトーシスの増強作用機序の解析
Project/Area Number |
16K10944
|
Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
黒澤 伸 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (60272043)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 麻酔科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
『実験』糖質コルチコイドは広い分野において一般的に使用されている治療薬であり、糖質コルチコイドを使用している患者に全身麻酔を施行する機会は増加している。最近ではその抗炎症作用を利用して周術期でも積極的に使用されており、さらに癌術後の生存期間延長効果も報告されており(Call TR, et al. Anesthesiology, 2015:122; 317-324)、周術期の糖質コルチコイド使用の機会は増加すると考えられる。しかし、糖質コルチコイドは免疫変容作用をもつ薬剤であり、糖質コルチコイドの影響下にある免疫系が全身麻酔薬によっていかに修飾されるかは不明である。糖質コルチコイドが免疫細胞にあたえる効果を観察したIn vitroの糖質コルチコイド濃度は臨床使用量から判断すると高濃度(10-7から10-6モル濃度、以下M)であったため、平成28年度の実験ではIn vitroの実験で使用する糖質コルチコイド濃度をより臨床使用濃度に近づけるため、糖質コルチコイドの至適刺激濃度の決定をBalb/cマウス由来胸腺細胞のアポトーシス誘導により判断し、10-8Mから10-9Mを糖質コルチコイドの臨床使用濃度と決定した。今年度の実験では、10-8MのデキサメサゾンをBalb/cマウス由来胸腺細胞に添加後、揮発性吸入麻酔薬のイソフルランおよびセボフルランを曝露し、デキサメサゾンによる胸腺細胞アポトーシス誘導の変化を観察した。『結果』(1)4時間及び8時間の培養でイソフルラン(1MAC)は時間依存性に胸腺細胞にアポトーシスを誘導した。(2)10-8Mのデキサメサゾンは4時間及び8時間の培養で時間依存性に胸腺細胞にアポトーシスを誘導した。(3)1MACイソフルランおよび1MACセボフルランはともにデキサメサゾンによる胸腺細胞アポトーシス誘導を時間依存性に増強した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去の糖質コルチコイドを用いたIn vitroの研究報告ではその使用濃度が臨床使用濃度を大きく上回っていると考えられ、当該研究のような、糖質コルチコイドによる免疫細胞アポトーシス誘導とほかの薬剤との相互作用を観察する研究には応用できないと考えられたため、平成28年度の実験で糖質コルチコイドの至適刺激濃度の決定を行い、10-8M濃度のデキサメサゾンを選択して実験を行った。この10-8M濃度のデキサメサゾンはマウス胸腺細胞に弱く、しかし確実にアポトーシスを誘導するため、デキサメサゾンの影響下の免疫細胞における薬物の相互作用が観察可能になり、10-8Mのデキサメサゾンは4時間及び8時間の培養で時間依存性に胸腺細胞にアポトーシスを誘導すること、また1MACイソフルランおよび1MACセボフルランがともに、デキサメサゾンによる胸腺細胞アポトーシス誘導を時間依存性に増強することを観察することができた。現在、この揮発性吸入麻酔薬による免疫細胞アポトーシス誘導の増強作用メカニズムを解明する実験を進めるために胸腺細胞のミトコンドリア内膜電位の測定実験を行っている。麻酔薬によるアポトーシス誘導はミトコンドリアを介する経路であることかが予想される。また、細胞にアポトーシスがミトコンドリアを介する経路によって誘導される場合はミトコンドリア内膜電位の低下がアポトーシスに先行して起こることかが知られている。10-8Mデキサメサゾンを添加した胸腺細胞に1MACイソフルランおよび1MACセボフルランを曝露し、4時間後と8時間後にJC-1(Lipophilic cationic probe)を利用したフローサイトメトリー法により胸腺細胞のミトコンドリア膜電位の変化を解析している。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1)糖質コルチコイド影響下におけるマウス胸腺細胞のミトコンドリア膜電位の観察:細胞にアポトーシスがミトコンドリアを介する経路によって誘導される場合はミトコンドリア内膜電位の低下がアポトーシスに先行して起こることかが知られていることから、まず、10-8Mデキサメサゾン添加4時間後および8時間後の胸腺細胞のミトコンドリア膜電位をJC-1(Lipophilic cationic probe)を利用したフローサイトメトリー法により観察する。(2)糖質コルチコイド影響下におけるマウス胸腺細胞のミトコンドリア膜電位に対するセボフルランまたはイソフルラン曝露の効果観察:10-8Mデキサメサゾンを添加した胸腺細胞に4時間または8時間、1MACセボフルランまたは1MACイソフルランを曝露し、その胸腺細胞のミトコンドリア膜電位の変化を(1)と同様に観察し、デキサメサゾンによるミトコンドリア膜電位の変化が、セボフルランまたはイソフルランによって影響を受けるか、解析する。(3)プロポフォールによるマウス胸腺細胞の容量依存性または時間依存性アポトーシス誘導実験:30μMまたは60μMプロポフォールを、胸腺細胞を浮遊させた培養液に添加し4時間、8時間培養し、プロポフォールによる用量依存性、時間依存性アポトーシス誘導を確認する。(4)糖質コルチコイド影響下におけるマウス胸腺細胞のアポトーシス誘導に対するプロポフォールの効果観察:マウス胸腺細胞を浮遊させた培養液に10-8Mデキサメサゾンおよび30μMまたは60μMプロポフォールを添加し、4時間または8時間培養後に胸腺細胞アポトーシス誘導を観察し、プロポフォールが糖質コルチコイドによる胸腺細胞アポトーシス誘導に影響をあたえるかを解析する。プロポフォールの対照として10%脂肪乳剤(10%イントラリピッド)を使用する。
|
Causes of Carryover |
理由:平成29年度は細胞培養に必要なRPMI1640を始めとする各種薬品とビーカー、フラスコ、ピペット、チップ等の購入に加えて、実験用マウス、倒立型位相差顕微鏡および遠心機など物品に比重をおいて基金を使用することで細胞培養実験の環境作りをすることができたが、それ故に旅費等の使用に基金を使用しなかったこと、およびELISA kitsが当初購入予定であったものよりも安価であったために次年度使用額が生じた。
使用計画:平成30年度に行う実験では、アポトーシス細胞関連試薬および細胞表面マーカー染色抗体を複数購入予定であるため、差額による次年度使用額を適切に使用する計画である。
|